FOX小隊とRABBIT小隊の合同企画の発表から2日経った。各チームのリーダーからチーム名から提出された。月雪ミヤコ率いるチームはRUBY小隊。これは空井サキの提案だったようだ。そして七度ユキノから提示されたのはFLAME小隊だった。頭文字が元のRとFを残した形になっていたが、特に示し合わせたものではないらしい。
そして今私は、新たに結成されたそのFLAME小隊の様子を確認するため、近隣の屋外演習施設に来ていた。ここは元々SRT特殊学園が所有していた敷地で、現在は管轄が連邦生徒会へと移っている。維持費として安価な使用料で使用することができる施設に変わっており、調べたところ、趣味として人と撃ち合うのが好きな生徒たちがゲーム感覚で利用する、というのが最近の主な利用方法のようだ。
「こんにちは、ユキノさん。訓練中にすみません」
事前に行くことは伝えていたため、受付などが置かれている建物の中で待っていた七度ユキノに声を掛ける。
「いえ、丁度休憩に入ったところです」
言われてみると、風倉モエが近くでドローンらしきものの点検をしており、その奥では、クルミと、彼女に絡まれて縮こまっている霞沢ミユの存在が確認できた。
「あ、先生。
こちらに気付いた風倉モエが、声を掛けてくる。
「こんにちは。休憩中と聞いていましたが、作業をしているのですね」
「ま、趣味みたいなもんだからね~。趣味っていうか代償行為? ほんとは爆弾ぶっぱなしたいんだけど、世知辛くなっちゃったからさー。新型弄って手慰みにしてるの。ま、これはこれで楽しいんだけどさ」
シャーレ支部所属になってから先輩らに厳しく言われているのだろう。彼女はやや不満そうにしながら、火器類のメンテナンスを続けていた。
「ところで、FLAME小隊という名前ですが、モエさんの発案ですか?」
ふと思いつき、質問する。炎という名前をつけそうなメンバーとして、もっとも相応しいと思ったのだ。
「お? よくわかったね~。本当はFIREの方がもっと破滅的で良かったんだけどさ、クルミ先輩に縁起が悪いって言われて却下されたんだよね~」
やはりその通りだったらしい。破滅的、という言葉が気にかかったが、火力が好きな彼女の意見だったようだ。
「FIREだと解雇のような意味もあるから、クルミの意見もわかる。相手がRUBYらしいから、赤対赤みたいになったけど」
七度ユキノも感想を述べる。
「確かに、そうですね。ところであの二人は何をやっているのですか? ミユさんが怯えているように見えますが」
彼女が何かに怯えているのは大体いつものことだが、先輩から延々と叱責でもされているのだろうか。
「あれはクルミが褒めているみたいです。さっきやっていた訓練で、ミユがとても良い成果を出したので」
七度ユキノから、想像とは違う言葉が出てくる。脅しているわけではなく、褒めているらしい。
「とても良い成果?」
「ええ、内容としては索敵訓練です。範囲を決めて、隠れる方と見つける方、1対1で行うかくれんぼのようなものですね。元々ミユの能力を再確認するような意味もあったのですが……」
「ミユさんはそれが得意だったと」
「隠れるのも見つけるのも、全戦全勝でしたね。勿論、私も含めて、です。模擬戦の内容次第ですが、あの子をうまく使えるかどうかが、勝敗に大きく関わりそうですね」
「見つける側も、ですか……」
狙撃手として極まった才能があるという話は聞いていたが、七度ユキノがそこまで言うほどの人物であった、というのは評価の見直しが必要かもしれない。しかし……
「それで、褒めている、にしてはミユさんの表情はあまりうれしそうではありませんね」
「くひひ……ミユってクルミ先輩のこと苦手そうだからね~」
風倉モエ曰く、そういうことらしい。確かに、少々物言いのきつそうな性格をしている高倉クルミと、内気でネガティブな霞沢ミユとでは相性があまり良くないかもしれない。
「とりあえず、お二人にも挨拶をしてきます」
2人に近づくと、会話の内容、というより高倉クルミが何を話しているかが聞こえてきた。
「ミユって本当に強いし可愛いし良い子だし、私と一緒に天下取るわよ! それでオトギとかいう生意気な奴をぶっ倒すの! よっ、最強スナイパー!!」
思ったより数段入れ込んだ発言と物騒な発言が耳に入ってくる。
「ひぃぃ……む、無理ですっ……だ、だれかぁ……」
そして怯えた様子の霞沢ミユの声もようやく聞こえてきた。
「何をしているのですかあなたたちは……」
様子がおかしい二人に話しかける。
「ん? あ、先生」
「ぴぃっ!!? ……っ!」
私に気付いた高倉クルミは振り向き、同じく私を目にした霞沢ミユは、慌てて近くにあった柱の陰に隠れた。
「そういえばユキノがさっき先生が来るって言ってたわね。こんにちは、先生」
何事も無かったかのようにこちらに挨拶をする高倉クルミ。
「こんにちは。ミユさんに愛を囁いていたように見えましたが、何をしていたのですか?」
「あはは、愛って。ちょっと後輩を褒めてただけじゃない」
何でもないような表情で高倉クルミが言うが、ちょっとだけというには、熱がこもっていたような気がした。
「……成程」
「……いやまあ、ミユがなかなか誉め言葉を受け取らないから、ちょっとエスカレートしちゃったけど……」
一応自覚はあったらしい。高倉クルミはそう言って頬を掻いた。
「なるほど、急造の混成チームですが、うまくやっていけそうですか」
「そうね。モエもちょっと不気味なところあるけど、実力はまあ十分って感じだし。思ったよりいい感じね。短期間のパーティなのがちょっともったいないくらい」
そう言う高倉クルミの様子は、いつもよりも上機嫌に見えた。臨時で仲間になった後輩を気に入っているというのは、事実なのだろう。
ふと、柱の陰からこちらを見ている霞沢ミユに気付いた。私と視線が合うと、また柱の陰へと隠れてしまった。高倉クルミはその様子には気づいていないようだった。
ふと、シッテムの箱の戦闘サポートを起動してみる。そこには霞沢ミユの情報も俯瞰マップではっきりと確認でき、少なくともシッテムの箱に対しては彼女のステルス性能は発揮されないらしい、ということが分かった。
もっとも、今回の勝負に関しては私がどちらかに肩入れするつもりはないので、関係ないと言えば関係ないのだが。
「そろそろ休憩終了。基礎訓練やるわよ」
七度ユキノが生徒たちを招集する。
「はいはい。了解。ミユも、隠れてないで行くわよ」
その声に応じた高倉クルミが、霞沢ミユを呼ぶと、いつもの自信が全くなさげな表情で呼ばれた少女が顔を出し、諦めたように七度ユキノの方へ向かって歩き出した。
「先生はどうするの? 基礎訓練って正直ただの筋トレみたいな感じだし見ててもつまんないわよ」
後輩を先に行かせた高倉クルミが、こちらに振り向いて確認する。
「そうですね。あまり長居しても邪魔になるでしょう。この辺りで失礼しようかと」
こちらのチームの状況は何となく理解できた。とりあえずは上手くやっているようだ。
「そうよね。ありがと、先生。正直助かったわ」
「助かった、というと?」
「このタイミングで休憩できたの、多分先生のおかげだから」
そう言うと、高倉クルミはこちらに笑みを向け、走って隊長のところへと向かっていった。
私はその言葉の意味を考えながら、最後に七度ユキノへ帰ることを伝え、演習場を後にした。