合同企画開催が決定されてから1週間後、予定通り模擬戦のルールを発表するために各チームごとに招集し、説明を行う。
公平性の観点からルール説明は私と不知火カヤ支部長がそれぞれのチームに対して同時刻に行う。
そこで出された質問については、その場で回答を行ったかに関わらず、明日までに質問と回答を全員が確認できるように開示する、ということになった。
そして私が担当したのは抽選の結果FLAME小隊。七度ユキノがリーダーを務めるチームだった。
「さて、皆さん集まりましたね。ルールを発表する時刻は、2チーム同時に行うというルールにより、まだ少し時間があります」
霞沢ミユを高倉クルミがゴミ箱から引っ張り出している姿を横目に入室した私は、全員が席に着いたのを確認して話し始める。霞沢ミユはある意味かなり強情な人物なのではないだろうか。
「今回のルール作成に関しては、ミレニアムサイエンススクールに所属する有志の生徒達に協力してもらい作成しました。オンラインゲームやサバイバルゲームのような要素を取り入れたものになっているそうです。皆さん、ゲームはやる方ですか?」
不知火カヤから準備完了の連絡が来るまでの時間を潰すため、話を振る。ミレニアムサイエンススクールの生徒、と言ったが実態としてはゲーム開発部の生徒たちが中心となっている。
その上、協力してもらったとも言ったが基本ルールの枠組みは殆ど丸投げし、私が調整したのは会場確保と禁止事項についてくらいなのだが。
「私はあまり詳しくありません」
七度ユキノが答え、霞沢ミユも控えめに首を振っている。この二人は予想通りだ。
「私もあんまり、偶に誘われてやることもあったけど、SRT入ってからは全然やらなくなったわ」
というのは高倉クルミの談だ。
「私は結構やってるよ~。一人用のシミュレーションゲームとかばっかだけど。オンラインゲームをがっつりやる時間ないからねぇ」
そしてこの中で唯一ゲームをやっているといったのが、風倉モエだった。
SRTの規則で禁止されているわけではないようだが、比較的少数派ではあるようだ。サンプル数が少ないのではっきりとは言えないが。
「さて、時間になりましたので、ルールを発表します。配った資料をご覧ください」
不知火カヤの連絡と、定刻になったことを確認したので、ルール説明を開始する。
といっても、基本的に書いてあることを読むだけで、聞かれなければ補足説明は行わないことになっている。
基本ルールは以下の通りだ。
①攻撃側と防御側、それぞれ勝利条件が異なる非対称性の戦いである
②攻撃側の勝利条件は、制限時間内に防御側が隠している「宝物」に触れること
③防御側の勝利条件は、制限時間の経過、または攻撃側の全滅
④防御側は作戦準備時間中に会場内に存在するA,B,Cのいずれかの拠点内に「宝物」を配置し、作戦開始時間以降は動かしてはならない
⑤作戦準備時間は30分間 作戦開始から制限時間終了までも30分間とする
⑥それぞれのチームが1回ずつ攻撃側、防御側を行い、1対1になった場合、チームの代表者同士の通常の模擬戦を行い、勝利したチームの勝ちとなる
⑦プレイヤーの戦闘不能(リタイア)判定に関してはSRTの模擬戦ルールに準拠する。
つまり、本人が気絶するか、被弾時に被弾箇所ごとに蓄積されたポイントが一定値になった時点で戦闘不能判定となる。
そしてこの他に禁止事項や、持ち込み可能な武器種などが明記されている。なお、開催場所は先日FLAME小隊が使用していた連邦生徒会所有の屋外演習場だ。これについては両チーム想定していたようで、それぞれ一度利用しているのが確認できている。
主な禁止事項については、
・SRT所属の生徒のうち、RABBIT小隊やFOX小隊以外の生徒、そしてシャーレの先生への協力依頼は禁止
・SRTシャーレ支部に無関係の生徒の参加も不可
・演習場の利用規約に違反する行為(地形を大きく変えるような行為など)
・戦闘不能判定後は戦闘行動及び、仲間との通信が禁じられる。
・「宝物」の破壊は破壊した側のチームが敗北
こういったものが並んでいた。
生徒達は書かれていたルールをしばらく眺めていたが、やがて質問や意見が出始める。
「防御側チームの全滅は攻撃側の勝利にはならないのですね?」
最初に出たのは、七度ユキノからの質問だった。
「その通りです。あくまでも防御側が隠している宝物を見つけることが必要です」
制限時間になるまで、宝物から遠ざけつつ粘り続ける、というのも戦略の一つになる、とルールの考案者は言っていた。
「ありがとうございます」
「『宝物』の破壊は敗北……モエ、あんたマジで気をつけなさいよ? バリケードをぶち破るときの火薬使いすぎて爆破敗北とか目も当てられないわよ」
「え? ………………分かってるよ。クルミ先輩。くひひ」
「そのとんでもない間は何なのよ!?」
高倉クルミと風倉モエが言いあっているが、釘を刺していても本気でやりかねないのが風倉モエなのだと、私も最近薄々理解し始めていた。
彼女はただの戦闘狂や爆弾魔なのではなく、破滅願望のようなものを持っている危険人物らしかった。
「攻撃側と防御側ってどういう順番でやるの? ここには書いてないけど?」
高倉クルミから詰められながら、風倉モエが質問する。
「当日、代表者によるくじ引きで決定される予定です」
「そういうことね。りょーかい」
飄々としている彼女も、ルールは真面目に読んでいるようだ。想定された的確な質問が出てきた。
「あ……あの……」
今まで殆ど言葉を発していなかった霞沢ミユが小さく声を上げる。室内にいたすべての人物が彼女に注目した。
「ひ……ひぃ……やっぱり、いいです……」
注目されたことに怯えたのか、彼女は意見を取り下げようとするが
「いや別に怒んないからいいなさいよ」
高倉クルミが呆れたように言い、話を続けさせようとした。
「そうですね、質問は皆さんに共有されるので、どんな質問でも損得はありません」
「……はい。あの……攻撃側の開始地点は……」
「ああ、そのことですか。一応地図に書いています。分かりづらくて申し訳ありません」
生徒たちが資料内に載っている地図を見る。受付のある建物に星マークがついており、注釈で攻撃側開始地点、と書かれている。
「は……はぃ……」
霞沢ミユは小さな声でそう言うが、何かを考えるように、その地図をじっと見つめていた。
FLAME小隊全員の意見がおおよそ出尽くしたのか、室内が静かになる。
「さて、このくらいでよろしいでしょうか。これ以降の質問については、専用の公開フォームからの質問と回答以外できないというルールになっていますので、ご注意ください。まあ、ルールに書かれていることですが」
最後に私が確認すると、生徒たちが頷く。
「では、ルール説明は以上となります。本番は3日後ですので、遅れないようにいらっしゃってください」
そう言って退室した後、シャーレ事務所にて、同じくRUBY小隊への説明を終わらせた不知火カヤと合流する。
「お疲れ様です、カヤさん。説明は問題なく終わりましたか?」
私の質問に、不知火カヤは即答する。
「当然ですよ。大した話でもありませんからね」
「ありがとうございます。では、それぞれで出た質問などについてまとめましょう……カヤさん?」
ふと、彼女の表情が気になる
「どうしました?」
「いえ、妙に機嫌がよさそうに見えまして」
「……気のせいでは? 話が終わった直後にミヤコさんにまた勝負を申し込まれて、こちらのチーム担当だったのを恨んだくらいですよ」
不知火カヤはそう返事をしたが、やはり私の目からは、彼女の表情が妙に嬉しそうに見える。なんだかんだと、月雪ミヤコとの関係は良好なようだった。