模擬戦当日。屋外演習場に生徒たちが集まっていた。
模擬戦に参加する1年生と3年生だけでなく、2年生の2チームも来ている。
彼女たち2年生には、昨日演習場に簡易拠点を演習場の森の中に設置する作業を手伝ってもらっており、今日は外から応援するために来ている。
設営作業の際に、カメラを複数台設置しており、その様子を確認するつもりのようだ。
「ユキノせんぱーい! 今日もカッコいいですー!!」
「ミヤコちゃんも頑張ってー!!」
完全に物見遊山といった様子で遊びに来たように応援しているが、彼女たちもまたSRTに所属する生徒たちには変わりがない。
昨日の作業は非常に手際よく纏まって行動していたし、テストマッチとして戦ってもらった際には、両チームとも戦い慣れしていた動きを見せていた。
救難支援や救護医療を専門とするメディカルチームと情報収集のプロフェッショナルであるスカウトチームであるにも関わらず、だ。
その二チームともに、FOX小隊はおろか、RABBIT小隊にすら手も足も出ない、と主張している。やはりSRTで戦闘に特化したチームを組める、というのには極まった素質が必要なのだろう。
さて、模擬戦に参加する2部隊に目を向ける。
この後は一度演習場内を全員で確認し、建てられた3つのプレハブ拠点の確認などを行い、そのあとくじ引きで先行を決めることになっているが、それが始まるまでの間、自由に談笑しているようだ。
「ユキノ先輩、今日はよろしくお願いします」
「ええ、よろしく」
その中でリーダー同士が挨拶をしているのに目がついた。
「ユキノさん、ミヤコさん。おはようございます」
「先生。おはようございます」
七度ユキノがいつも通りの真面目な挨拶を返す。
「あ、先生。おはようございます。この間は、ありがとうございました」
月雪ミヤコも先日の件、恐らくは夜中に事務所に訪問してきた件への感謝を添えてそれに続く。
あの日以来、3日間ではあるが直接会ったのは初めてだ。
「収穫はありましたか?」
私が尋ねると、彼女は七度ユキノの方から顔を背け、私だけに見えるようにしてこっそりと頷いた。
「何かあったの?」
「それは……すみません、先輩にも黙秘します」
やや挙動不審の後輩が気になったのか、七度ユキノが月雪ミヤコに聞くが、後輩の答えはノーだった。
「そう?」
その反応が珍しかったのだろう。
七度ユキノが意外そうにしている。そして、私の方を何とも言えない表情で見た。何か不満でもあるのだろうか。
「少なくとも悪事の相談ではありませんよ」
私がそう言うと、七度ユキノはあきれた表情をして
「別に、そういう疑いは今はしていません」
と返された。今度は月雪ミヤコが、そんな彼女の様子を不思議そうな顔で見ていた。
2人と離れ、別の方向に目をやると、天神山オトギ、高倉クルミ、そして空井サキの3人が話していた。どうせなら模擬戦が始まる前に全員に挨拶をしておこうと思い、声をかけようと近づく。
「あまり詳しくは言えないけど、オトギ、可愛いだけじゃないの。ミユは凄いわよ。一緒に過ごしてて理解したわ。あの子の実力は数字上のデータで見ただけでは半分も分からないわ」
どうやら、高倉クルミが霞沢ミユの自慢をしているようだ。
前哨戦のつもりだろうか。オトギは何とも思っていないかのように言い返す。
「ミユの能力の高さなんてスナイパーチームはみんな知ってるよ。でも、負けてると思ったことは無い。それより、気を付けなよ。サキはひたすら、この10日間、クルミを始末するためだけのトレーニングをこなしてきたからね」
「バカなの!? じょ、上等よ! かかってきなさい」
「いや、そんなことしてないぞ」
高倉クルミが目を剥き、この場で唯一の後輩が呆れたように返した。
「おはようございます。皆さん。体調は万全ですか?」
「あ、先生。おはよう」
「おはようございます」
「先生、おはよ。今4人で話してたのよ」
順に挨拶を返され、最後に言った高倉クルミがおかしなことを言った。
「4人? 3人しかいないように見えますが……」
「え? 何を言ってるの、私と、オトギと、サキとミユ……あ、あれ、ミユ!?」
高倉クルミの中では霞沢ミユもここにいることになっていたらしく、驚いて辺りを見渡している。
「いや、ミユはクルミが自慢話を始めたくらいのタイミングでクルミから逃げるようにあっちの方に行ってたよ。ほら、ニコ達のとこ」
天神山オトギが呆れたように指をさす。そちらを見ると、確かに吉野ニコと風倉モエ、そしてニコに抱えられた霞沢ミユがそこにいるのが見えた。
「なるほど、素晴らしい隠密能力のようですね」
唖然としている高倉クルミに対しフォローする訳ではないが、私はそう言った。
「……ね!? 凄いでしょ、ミユは!」
「……めげない先輩も凄いと思うぞ」
開き直る高倉クルミと、律儀にそれに突っ込みを入れる空井サキを置いて、再びその場を離れる。今の会話の流れで重要なポイントがある。
それは、少なくとも天神山オトギは、霞沢ミユの離脱について正確にとらえていた、ということだ。
空井サキも特に大きな反応をしていなかったので、それはRUBY小隊共通の能力である可能性もある。
3番目の集団、吉野ニコと、風倉モエ、そして霞沢ミユの3人へと近づくと、あることに気付いた。
吉野ニコはいつも通り笑顔で話していたが、その腕の中に霞沢ミユを抱えている。
逃げないように取り押さえているのかとも思ったが、どうもそうではないようだ。
先輩の腕の中にいる後輩は、特段明るい表情をしているわけではなかったが、少なくともそこから逃げ出そうとしている様子は無かったのだ。
「役割的にしょうがないけどさ~…… ニコ先輩とも組んでみたかったなー」
そして、聞こえてきた言葉は風倉モエの殊勝ともいえる発言だった。はっきりと「珍しい」と言える言い方だろう。
霞沢ミユも小さくうなずいているのが見えた。
「あら、そう? あはは、ありがとう。組む時は私が前に出ても良いんだし、別にできないわけじゃないんじゃない?」
「え~、二人でオペレーターっていうのは? ……あ、でもそしたら勝手なことできなくなるな。うーん、悩ましい」
「あまり好きなことはしすぎないでくださいね、モエさん。おはようございます。お二人も」
責任者という立場上の建前を話しながら、最後の3人にも声を掛ける。
「あ、おはようございます、先生。今日は進行、よろしくお願いしますね」
「お……おはよう、ございます……」
「おはよ~、先生。もう時間?」
3人から挨拶を返される。霞沢ミユからまともに返されたのは殆ど初めてかもしれない。ひとまず風倉モエから出た質問に答えるべきだろう。
「そうですね、モエさん。そろそろフィールド確認の時間となります」
「だよね。そうそう、その時間ってドローン飛ばしても良いの?」
今回のルールでは各チーム1台のみ飛行ドローンを使用しても良い、ということになっている。
「それは後で説明しますが、作戦中以外は禁止となってます」
「残念」
風倉モエが肩を落とした。今の話の通り、間もなく場内を確認する時間となる。
私は3人の下を離れ、仮設した本部の方へ戻る。
吉野ニコは後輩にも特に慕われているという話を聞いていたが、1年生の曲者たち、それも敵チームのはずの二人にもかなり懐かれている様子であり、思った以上のものだった。
フィールド確認については、2チーム同時に、攻撃側の開始地点から森の中にある3つの拠点を順に歩いて確認していくだけという、シンプルなものだ。
生徒たちは見落としの無いように、総じて真面目に確認していた。
そして、それが終わると、攻撃の順番をを決めるくじ引きとなる。
「今回は、先攻、後攻をくじ引きで選ぶのではなく、くじ引きで選ばれた方が、先攻か後攻かを決める、というものですのでご注意ください」
そしてくじの結果、FLAME小隊を代表する七度ユキノが先攻・後攻か選ぶ権利を獲得する。
彼女は悩むことなく、先攻を選んだ。
そして、模擬戦が始まった。