普段とチームを入れ替えての模擬戦が始まった。
会場内にいるのは2チームのメンバーを除けば私と不知火カヤのみ。応援の2年生たちは外からカメラを利用して観戦をしている状況だ。
そして、私は状況確認の手段として、シッテムの箱を活用している。生徒たちの位置情報はこれを使えば一目で分かるし、2年生が観戦のために利用しているカメラをハッキングして状況を確認することも可能だ。
このハッキングという手法は参加している生徒にも制限がかかっているわけではないが、セキュリティに関してはスカウトチームがいる2年生が一枚上手で、現実的ではない、と当の2年生たちが主張していた。
最も、シッテムの箱による無法とも呼べるハッキング行為に対しては無力であることも確認済みだ。こういった分野に関して、このオーパーツは常に規格外の性能を発揮している。
「それ、例の『シッテムの箱』、ですよね。先生は今それで状況をしていると。……せめて私にもそれ、見せてもらえません? ここからだと様子が何もわからないので、外で2年生たちに混ざった方がまだマシですよ」
不知火カヤが隣で文句を言う。言っていることはもっともではある。彼女が私からこれを奪って脅迫する、という可能性は無くもないのだろうか。
「恐らくカヤさんでは操作できないと思いますよ?」
「そんなことは分かっています。先生が来られる前、私も試していますから」
彼女が同意したので、バッテリー駆動のモニターにシッテムの箱を接続して、画面を同期させた。
「いや、こんなものをお持ちなら最初から見せてくださいよ……」
そう言いながら睨まれるが、言っても無駄だと判断したのか、彼女はモニターに集中し始めた。
話しているうちに、モニタに動きがあった。
まだ前半戦は始まったばかりだが、早速接触している2人がいるようだ。表示は空井サキと高倉クルミのものとなっている。ポイントマン同士が接敵したようだ。
マップ上から近くのカメラを選択すると、画面は即座に、二人の様子を映し出した。
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「ふーん。私を倒すために10日間特訓してきただけというだけはあるじゃない。今までとは動きが違うわ」
「はぁ……だから、そんなことはやってない。ただ、接近戦の訓練を重点的にやってはいたけどな」
既に交戦はあったようだ。同等に言い合っているように見えて、空井サキの表情は硬い。経過時間を考えると、防御側にとってはまだ激しい交戦をしたい状況ではないというのもあるだろうが……
「とはいえ、まだ私と1対1で戦うには力不足なんじゃない? 息上がってるわよ」
高倉クルミがそう言って、再度仕掛ける。空井サキも応戦するが、小柄にも拘らず純粋な身体能力なら上位に位置する先輩に、徐々に追い込まれていく。
「くそっ……このっ! あっ」
殆ど格闘戦になった状態で、ついに空井サキが体勢を崩す。その致命的な隙を、当然高倉クルミは見逃さない。
「力が入りすぎよ? !!? っと……オトギね!」
そして彼女が追撃をしようとした瞬間、何かに気付いた高倉クルミは咄嗟に体を翻し、遮蔽となる木の裏に隠れた。
「はあっ……はあっ。今の何で分かったんだ?」
天神山オトギの支援狙撃のお陰で体制を立てなおし、距離を取ることが出来た空井サキが、高倉クルミに尋ねる。
「殆ど勘よ。オトギなら見逃さない状況だって思っただけ」
「……すごいな。今は敵同士なのに、信頼しあってるんだな。でも、これで2対1になったぞ。こっちが有利になったのは変わらない」
先輩に対し、素直に尊敬する様子を短時間だけ見せたが、空井サキはすぐに強気な態度を取り戻した。
「そうね。あいつに狙われながらあんたと戦うのは流石に骨が折れるけど、まあオトギの居場所も大体分かったし、一旦引くわ。追いかけてくるなら容赦しないけど」
高倉クルミはそう言って、天神山オトギの想定射程外へと離れていく。銃声などから、彼女は天神山オトギとの方角とおおよその距離も把握したようだ。
「くっ……」
残された空井サキは悔しそうな様子を隠しきれていなかった。
~~
それぞれが味方に連絡をしている様子が僅かに確認できたところで、全体マップへと戻す。
「……思ったよりも便利ですね。そのシッテムの箱」
共に黙って高倉クルミと空井サキの戦いの様子を眺めていた不知火カヤの第一声は無いようにかかわる者ではなかった。
「そうですね。一般に入手できるスマートフォンなどに比べれば遥かに融通の利く使い方ができます。まさしく、未来のツールといった感じですよ。見た目以外は、ですが」
「見た目はそうですね。かなり旧式のタブレットか、あるいはモバイルディスプレイにしか見えません」
不知火カヤがそう言うと、システムAIから何か通知が来た。緊急性の高い物であれば強制的に画面が切り替わるだろうし、サブモニタとの接続も切断されるだろう。
つまり、大したことはないということだ。恐らく見た目を揶揄されたことに対する文句。
無視することにしよう。
「さて、シッテムの箱についてはとりあえず良いとして、今の二人、というかオトギさんも含めて
3人の様子については、どう思いましたか?」
私の質問に対し、不知火カヤは面倒だと言わんばかりの表情をした。
「私はスポーツ中継の解説ではないのですよ? まあ、暇なので良いですが。そうですね……サキさんが思ったよりも戦えていましたね。FOX小隊といえば、キヴォトスでも有名な精鋭チームなので、もっと圧倒的な差を見せつけてくるのかと思いましたが」
文句を言いながらも、彼女は解説を始めた。この内容は録音、録画しており、今後に活かせるようになっている。
そして、私の操作で、外で観戦している生徒たちにも本部での会話内容が聞けるようになっている。これは2年生からの要望だ。
「ただ、あの小競り合いを評価するとすれば、それでもFLAME小隊の勝ち、でしょうね。オトギさん、つまりスナイパーの位置という情報は非常に重要なものです。もちろんオトギさんもじっと立ち止まっている訳ではない……そうですね、マップでも動き始めていますよ」
不知火カヤの言う通り、天神山オトギの移動がマップ上で確認できた。そしてそれ以上に、大きく動く二つのポイントがあった。七度ユキノと霞沢ミユのものだ。恐らく、何かしらの判断をリーダーが下したのだろう。それぞれのチームの通信情報はこちらでも分からないようにしてあるので、リアルタイムでどう判断したかは分からないが。
彼女たち二つの点の動きは明らかに、天神山オトギを追い詰めようとしているように見えた。そして、天神山オトギがその二つの点を通る直線上に差し掛かった直後のことだ。
「!! オトギさんの名前が急に赤くなりましたね」
「そうですね……これは、リタイア判定ということになります」
カメラを確認する暇もなく、天神山オトギがリタイアとなってしまった。すぐにカメラを天神山オトギ周辺に切り替える。いつの間にか七度ユキノが天神山オトギと接触する距離まで近づいていた。
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「うわー……最悪。やっぱりほぼ完璧に位置ばれてたんだ。見られてる気はしたんだけどさぁ」
倒れているが意識を失っているわけではないようだ。丁度天神山オトギが七度ユキノに話しかけている様子が映し出されていた。
「……ミユの視線に気付くことが出来るだけ凄いわよ。お疲れ、オトギ」
「いやー、これ戦犯だなぁ」
「どういうこと? 戦争犯罪ではないでしょ」
天神山オトギの呻きに、七度ユキノが首を傾げる。とある生徒たちの影響でゲームに関する知識が少し身に着いていなければ、私にもわからなかっただろう
「あー、まあスラングだよ。ゲームとかで負けた原因となるプレイヤーのこと」
「ふーん? でも、まだこっちが勝ったわけではないわよ」
「そうだね。後はニコと後輩に任せるしかないか……」
~~
シッテムの箱を全体マップに戻す。
「ユキノさんが直接オトギさんを潰しに行ったようですね。ミユさんがオトギさんを見つけて、自分の位置を明かさないようにしながらユキノさんに情報を伝えていたのでしょう」
不知火カヤが状況を解説する。これはなかなかに便利だ。
防御側であるRUBY小隊は、メンバーのリタイア自体は勝敗に関わらないが、スナイパーが不在になる、というのは防御側にとって極めて不利な状況であることは想像に難くなかった。
そして予想通り、更に戦局が傾く事態がすぐにやってきた。