七度ユキノの襲撃による天神山オトギ脱落から数分後、吉野ニコがいるエリア、拠点Cに位置する場所で動きがあった。
風倉モエが操縦するドローンがエリア周辺に到達し、様子見の戦闘が始まったようだ。
「戦闘が始まったみたいですね。ニコさんがいることから、恐らくはここに宝物があるとモエさんも踏んでいるのでしょう」
不知火カヤは既に観戦組の2年生たちのためと割り切り、素直に解説をすることを決めたようだ。
彼女の言う通り、守りを固くしているC拠点に宝物はある、というのがセオリーだろう。
模擬戦が始まってからも拠点周辺のトラップや防御柵を増やしていたため、すぐに突破される状況ではないものの、FLAME小隊リーダー、七度ユキノを示す点は即座に移動を開始した。C拠点攻略に向かったのだろう。
一方、RUBY小隊も当然救援に向かう動きをした。しかし、空井サキは間もなく、先ほど対峙した先輩であり、同じポイントマンである高倉クルミと再度対峙することになってしまっていた。
しかも、先ほどとは真逆で、背後には霞沢ミユも迫っているという状況になっている。2人を突破して「宝物」の隠し場所まで駆け付けるのはかなり難しいだろう。
そして、最後の1人。リーダーである月雪ミヤコも同じく動いていた。彼女の向かっている場所は、七度ユキノの通過が想定される場所だ。
いや、恐らく彼女は見えなくともそれを理解して動いていてるのだろう。
間もなく接触する、というところで、周辺カメラに切り替えた。
~~
「待っていました、先輩」
カメラとマイクが拾ったのは、まさに七度ユキノと月雪ミヤコが接触するその瞬間だった。
「……よくここを通るって分かったな。ミヤコ」
「こちらのスナイパーが落ちたので、最短ルートを通るデメリットはあまりないですからね」
「ああ。基本的な判断だと思うが、1年生だということを踏まえれば十分だ。少なくとも、同じくらいのときの私よりは、判断が出来ている」
過去に苦い記憶があるのか、七度ユキノは軽く頭を抱えてそう言った。
「そうなんですか? 先輩の昔話、少し気になります」
「……そういう話をするのは吝かでも無いが、今は他の後輩を待たせ」
「私よりもモエが大事なんですか?」
「そうとは言ってない……」
「じゃあ、私が勝ったら、聞かせてください! そのチョーカーについて!」
月雪ミヤコが叫んだ次の瞬間、七度ユキノを挟み込むような形で自走式の機械のようなものが画面上に現れ、激しい光を放った。
強い光と熱を浴びてカメラが一時的にまともに機能しなくなる。しかし、正常に動作しているマイクからは銃声や爆発音が鳴り響いている。
どちらがどう動いているかは分からなかった。
やがてカメラが自動で再起動し、正常な動作を取り戻したときには、既に決着がついていた。月雪ミヤコの状態がリタイア判定となる。
「昔話が聞きたいって話は何だったのよ……」
「先輩の動揺を誘えるかと思ったのですが……」
「……性格悪いぞ。誰に似たんだ……だが、残念だったな。動揺を誘えなくて」
「……良かった、噂は噂だったんですね」
2人がこの会話を聞かれている可能性があることを理解しているかは不明だが、どうやら私が秤アツコと七度ユキノに提供した防御用の装飾が施されたアクセサリについての話題のようだ。
私が
「その噂が何かは知らないが、そうではない。ただ、同じ質問を何度もされすぎてるというだけだ。同級生にも、2年生にもかなり聞かれた。先生からいただいたのは事実だが……これはただのお守りのような物だ」
「…………えっ」
月雪ミヤコは誰が見てもそれとわかるほど、大きく狼狽した。
「そっちが動揺してどうする……。……そうだな、ミヤコも頼んでみたらどうだ?」
七度ユキノがフォローを入れる。確かに、まだ大量生産に至ってはいないが、SRTの生徒達の分くらいは作成を検討した方がいいかもしれない。
まだ防御面での性能試験が不十分なので、それが終わってから、と考えていたのだが。
「は? どういうことですか?」
「先生に直接聞け。では、私はそろそろ行く。いつまでも時間稼ぎに付き合ってられないからな」
「……バレてましたか」
「当然」
七度ユキノはそう言い残して、月雪ミヤコを置いて去っていった。
それとほぼ同時に、もう一組の戦闘も決着がついたようだ。空井サキがリタイア判定となり、高倉クルミもC拠点に向け速度を上げて移動し始めた。
~~
「これで流石に殆ど決着が着いたと言って良いでしょうね。残りは籠城しているニコさんただ一人になってしまいましたし、あのプレハブの拠点ではユキノさんが到着したらすぐにでも陥落してしまうでしょう」
不知火カヤがそう言った通り、大勢は殆ど決していた。
時間内に目標物を見つけられない可能性は無くは無いが、基本的には考えなくいいレベルの可能性だろう。
「では、クルミさん対サキさん、そして今回のユキノさん対ミヤコさん、それぞれの戦いについてはどうでしたか?」
「そうですね、正直1年生2人が、どちらも想像以上に良い動きをしていたと思います。私は去年からFOX小隊の活躍を比較的よく知っていたので、もっと大きな差があると思っていましたが、特にサキさんはクルミさん相手にも良く戦えていたと思います」
語る不知火カヤは、もはや楽しいという気持ちを隠していないように見える。元来、こういった競技的な軍事演習を見るのは嫌いではないのだろう。
だからこそ、それを市中で振り回すことを嫌っているのかもしれない。彼女は語り続ける。
「ミヤコさんの奇襲作戦はもっと良い方法があった気もしますが、最初から時間稼ぎに焦点を当てていたようにも思えますね。ある意味作戦意識が高いともいえます。私と様々な勝負を繰り返した成果があったとすれば、多少は苦労した甲斐もあったかもしれませんね」
不知火カヤは上機嫌でそう締めくくった。自分では皮肉交じりと思っているのかもしれないが、後輩の成長を素直に喜んでいるようにしか見えなかった。
さて、不知火カヤが高く評価をした、とはいってもその二人も既に脱落しており、前半戦は最終盤を迎えている。
カメラをC拠点に切り替えると、既に防御柵が突破され、室内で吉野ニコが一人で七度ユキノと高倉クルミに応戦している状況だった。
勿論FLAME小隊オペレーターである風倉モエの火力支援もある。
それは数分と持たず、吉野ニコは白旗を上げ、自らリタイア宣言をした。
残り時間は5分ほど、狭い室内を探すには十分と思われたが、しかし。
~~
「ちょっと!? 全然見つからないんだけど!? ニコ、まさかアンタ体に隠し持ってたりしてないわよね!?」
「それはないよ、クルミちゃん。それは反則でしょ?」
リタイアした吉野ニコが高倉クルミの問に笑顔で返事をする。
「だったら何で……」
高倉クルミが更に問い詰めようとするが、それはリーダーによって止められた。
「つまり、この拠点には無い、ってことね。ミヤコの作戦は時間稼ぎで一貫してたし、その可能性もあると思ってたけど……」
「え、じゃあヤバくない? もう時間ないじゃん」
高倉クルミが目を剥く。
「ヤバくはない。ミユ、そうだな?」
しかし、七度ユキノは落ち着きを一切崩さないまま、
『霞沢ミユが、B拠点にて宝物発見。
FLAME小隊の勝利です』
演習場内に流れるアナウンスが、FLAME小隊の勝利を知らせた。
これで、前半戦は終了。私に勝ちたいと宣言した月雪ミヤコの、RUBY小隊の後がなくなった。