申し訳ありません。
攻撃・防御側を入れ替えての後半戦が間もなく始まろうとしている。
我々が今座っている本部から視認できる距離に、攻撃側、RUBY小隊のスタート地点がある。
「そろそろですね……おや、ミユさんが妙な位置にいますね」
不知火カヤの発言に、マップを確認すると。確かに霞沢ミユが防御側の3拠点から離れて、単独で森の中央付近に存在していた。
「確かに。カメラをつけてみましょうか」
私がそう言った直後、試合開始のブザーが演習場内を鳴り響く。
動きがあったのは、それからすぐのことだった。
~~
「え?」
マイクが拾った音は、霞沢ミユの驚きの声だった。
そしてそれとほぼ同時に、RUBY小隊のスタート地点から大きな音がする。視界を遮るスモークグレネードを誰かが使用した様子だった。
「……は、外しちゃった……それに……ミヤコちゃん……わ、笑ってた?」
感度の高いマイクは霞沢ミユの細々とした声を的確に拾っていた。
煙が薄くなり、視界が晴れた頃には、RUBY小隊のメンバーは誰一人見える範囲に残っていなかった。
~~
「さて、始まりと同時に大きな動きがありましたが、カヤさんはどう見ますか」
「後半戦もやるのですか? まあ、そうですね。カメラの映像から得られた情報からすると、
FLAME小隊の作戦としては開幕と同時に狙撃をする作戦だったのでしょう。ミユさんの狙撃の腕ありきの物ですが、ルール上、ヘッドショットは一撃でリタイアの可能性がありますからね」
そして月雪ミヤコは、霞沢ミユの腕と、それを七度ユキノが利用してくることを確信し、開幕に視界を遮るという手段に出たのだろう。
後半の緒戦は、RUBY小隊が1枚上手だった、ということだろうか。
「外したとはいえ、今すぐであれば狙撃ポイントから移動することもできますので、殆ど狙い得だったのでしょうね。あの攻防は、あくまでミヤコさんが良く凌いだというだけで、この結果で有利不利が傾いたわけではないでしょう。実際、ミユさんは向かって左の方に移動を開始しているようですね」
不知火カヤの言う通り、霞沢ミユは気持ちを切り替えたのかすぐに移動を開始したようだ。
3つの拠点の近くではなくA拠点から手前側、新たな狙撃ポイントへと向かっているようだった。
しかし、その行動は明確に、彼女にとって悪い方向へと向かっているように見えた。
どういう策によるものなのかは不明だったが、最初にRUBY小隊が散会した後、スナイパーである天神山オトギが作戦エリア内の左端から拠点に向け前進するルートを通っていた。
それはつまり、霞沢ミユの後方を抜けていくルートに他ならなかった。
「これは……ミユさんは運が悪いですね」
「ええ、そうですね。ただ、ミユさんは殆ど異能と呼べるレベルで存在感を薄くすることができます。背後をとっても見つけられるかは分かりませんが」
不知火カヤはそう言ったが、私は今朝のことを思い出していた。あの時、FLAME小隊の高倉クルミが見えていなかった霞沢ミユの居場所を、天神山オトギは把握していた。
見つけられない、ということは無いのだろう。
地図上での二人の位置関係は、瞬く間に接近していった。そして、そろそろ天神山オトギの射程に入ろうかといったところになったとき、偶然かあるいは何かに気付いたのか、暫く止まっていた霞沢ミユがポイントを移動し始めた。
スナイパーの直感のようなものだろうか。
それぞれ他の仲間3人の動きとは離れていき、スナイパー同士の1対1の戦いが始まったようだ。
「前半戦で大活躍だったミユさんの動きが完全に止められてますね」
「そうですね……ただ、ミユさんのお陰でオトギさんの行動にも制限がかけられている、とみることもできます」
前半戦で霞沢ミユは天神山オトギと空井サキのリタイアに貢献した後、宝物を見つけるという多大な貢献をしていた。
その動きが遮られているとみるか、そのような動きを天神山オトギにさせないようにできているとみるべきか。
いずれにしても、まだ始まったばかりの後半戦は、前半戦とは全く異なる展開を迎えることは想像できた。
「ところで、先生。今回、宝物はどこに隠されていると思いますか?」
スナイパー同士の争いを眺めていた不知火カヤが、不意に私に尋ねる。
「そうですね。B拠点か、C拠点であることは確かだと思いますが。Aでないことは確かでしょう」
「何故そう言い切れるのです?」
「準備時間中にFLAME小隊の誰もA拠点には近づかなかったからです。マップ上の情報ですので、今戦っている生徒たちには知る由もありませんが」
「ああ、確かにそうですね」
私の答えに満足したのか、彼女は頷いて再びマップを眺め始めた。マップ上では、また前半戦を彷彿とさせるような接触が起ころうとしていた。
~~
「何よ、よく会うわね、サキ!」
B拠点周辺で、空井サキと高倉クルミが接触しているのをカメラが捉えていた。
「……またクルミ先輩か。なあ、そこ通してくれないか?
攻撃側である空井サキが、挑発めいた発言をする。
「先輩を餌付けしようとすんな!」
クルミが憤慨するように言い返すが、彼女は防御側。時間稼ぎをするためにあえて挑発に乗って言い返しているのかもしれない。
「今回はオトギの救援は望めないわよ! なんか向こうでミユとやりあってるみたいだし!」
言いながら、クルミが最も得意とする近接格闘の間合に詰めようと動き出す。
「こっちもさっきと同じにはさせないぞ!」
空井サキもそう言って応戦する。言い放った通り、先ほどと同様の間合に入らないようけん制するような動きだ。
「どうする? このまま拮抗してたら時間切れになっちゃうわよ。私はそれでもいいんだけど、もっと攻めてこないと」
拮抗した展開が続き、何故か防御側の高倉クルミが焦れたようにそう言った。実際のところ、マップが見えなければ観戦している私も空井サキの行動の意図が掴めていなかっただろう。
「そうだな、じゃあ、そろそろ通らせてもらう!」
空井サキの言葉は挑発に乗ったように聞こえるが、その実声色は非常に冷静と感じた。
そしてそのまま、高倉クルミが得意とする間合へと踏み入る。
そして、案の定というか、当たり前ではあるのだが、空井サキは追い込まれているように見えた。前半戦と同じように徐々に追い込まれ、バランスを崩したその時、
「……え?」
高倉クルミの背後に自走式ドローンが迫っていた。そして閃光が走る。
カメラには一瞬しか映らなかったが、前半戦で、月雪ミヤコが使っていたものだ。
先ほどまでのテンポの取れた銃撃戦ではなく、激しく乱雑な銃声と格闘音をマイクが拾う。
そして、高倉クルミの状態がリタイアと切り替わった。これで彼女は仲間との通信が遮断され、攻撃行動が不可となる。
「な……何でアンタがこんなところにいるのよ!?」
リタイアになっても元気に叫ぶ高倉クルミのその言葉は、今回の勝敗条件を考えれば至極真っ当なものだった。
高倉クルミと空井サキが接触する前、マップ上の月雪ミヤコは明らかにもぬけの殻のA拠点へと向かっているように見えた。
しかし、高倉クルミと空井サキが接触する
「勝つためです、先輩。サキ、大丈夫?」
「……うん、何とか」
月雪ミヤコは言葉少なに返事をし、仲間の状況を確認する。はあはあと荒い息を吐いて、倒れていた空井サキが起き上がる。
「助かったよ。ミヤコ。でも大丈夫なのか? 時間ちょっとヤバいぞ」
「まだ何とかなります。では、クルミ先輩、また後で」
月雪ミヤコは納得のいっていない顔をしているクルミに挨拶をして、立ち去る。空井サキもその後に続いていくのが確認できた。
~~
全体マップに切り替えると、二人がかり、かつ奇襲で先輩1人を打ち破った二人は、B拠点へと真っすぐ向かっているようだ。
そしてその方向にはまた、二人にとっての最大の壁が立ちはだかっていた。