黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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今回一部視点変更があります


模擬戦 後半戦②

「クルミが突然やられたかたらまさかとは思ったが、お前たち二人掛かりで相手していたのか」

 月雪ミヤコと空井サキが進んだ先、B拠点へ続く細い道で、七度ユキノは待ち構えていた。

 

「そうでもしないとクルミ先輩には勝てなかったので」

「まあ、あのままだったらリタイアになっていたのが私だった、というのは否定しない」

 二人は警戒を強め返事をする。

 

「そうか。戦略として間違っているとは言わない。だが、前半戦で分かったとはずだ、このルール、全部の拠点を攻略するには4人バラバラで行動しても時間はギリギリになる。その作戦だと、運に頼る必要が出てくるぞ」

 

 そう言われた時、月雪ミヤコの表情が変わった。その変化には、後輩相手に余裕を見せていた七度ユキノも少し動揺しているように見えた。

 彼女は、不敵に笑っていた。

「私は運に頼るつもりはありません」

 

 そう言って、月雪ミヤコが動く。三度、彼女の自走式ドローンから繰り出された閃光弾が音と光で視界を奪う。

 

「……! 芸が無いな!」

 七度ユキノはすぐに冷静さを取り戻し、対処しているようだ。こうしてカメラが異常光を検知し再起動するのも3回目だ。彼女の言う通り、味方の人数が増えたからといって有効な手段となっているかは分からない。

 

 それにしても、1対2で戦っているにもかかわらず、戦闘は七度ユキノが優位に進めているように見える。

 勿論、キヴォトスでは一人の組織最高戦力がその組織の他の構成員全員を上回るような規格外の生徒が存在することを私はよく知っている、

 

 今戦っている3人も、そういった通常の枠を越えつつある生徒たちであろうことは間違いないだろう。しかしこの1対2に限って言うと、七度ユキノと他二人とで、そこまで身体能力に差があるようには見えない。

 ただ着実に、人数の差を七度ユキノが埋めていっているということは、戦闘について素人の私でもよく分かった。

 

 そして予想を外すことも無く、状況が動く。先ほどのクルミとの戦闘で被弾ダメージが蓄積していた空井サキが、月雪ミヤコを庇うように前に出たその直後、

 

「……あっ」

 彼女の情報がリタイア判定へと切り替わった。一つ前の戦いによるダメージが思ったよりも多かったようだ。

 

「これで1対1。まだ勝てる気でいるのか?」

 七度ユキノが挑発するように問いかける。意外と戦闘時に高揚するタイプなのだろうか。

 

「……もちろん。私たちが勝ちます。ユキノ先輩に勝てるかどうかは分かりませんが」

 月雪ミヤコも真顔で言い返す。そして、申し訳なさそうな顔をしている空井サキを置いて、戦闘の続きが始まった。

 

 空井サキと二人で戦っていた頃は彼女たちから仕掛ける場面が少なからず見られたが、1対1になってからは、防戦一方になってしまっていた。

 

 それも当然の話だ。そもそもこの二人は前半戦で戦っており、それ以前に先輩と後輩として何度となく相手をしているはずだ。

 

 表情に余裕があるのは、月雪ミヤコの方に見えた。彼女のそれは自分の計画がうまく行っていないとは思えないものだ。

 一方で、七度ユキノの表情は険しい、というよりも困惑に近いものだった。

 

~~

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()、七度ユキノは困惑していた。自分が優勢に立ち回っているはずなのに、自分が目にかけている後輩は余りにも平然としていた。

 

 それが気になって、集中しきれず、後輩のミヤコを倒すのにいつもより手間取っている、そう思っていた彼女はあることに気付いた。その認識は間違いだ。

 この後輩は、明らかに時間稼ぎをしている。時間稼ぎをして得をするのは防御側のはずだ。やはり何かがおかしい。

 

 そして、「うまく行っているはずが全くそうでない」という状態に、覚えがあることを思い出したとき、彼女の手が完全に止まってしまった。

 あの時の、調印式で自身が参加した作戦のときのアリウス生達の思いは、そういうものだったのではないだろうか。

 

「もしかしてミヤコ、何か時間稼ぎをしているのか?」

 ユキノは探るように後輩にそう確認する。

 

「……バレましたか」

 ミヤコはしれっとした表情でそう言った。そして、彼女はそのまま種明かしをするように話をつづけた。

 

「私はまだまだです。たった一週間と少しでは、先輩の技術に追いつくことも、優柔不断を失くすこともできませんでした。……でも、十分時間稼ぎは出来たみたいです」

 そう言って、構えを解く。もう勝ちを確信しているようなその様子にユキノは更に混乱した。

 

「今ほど、先輩が教えてくれたんです。A拠点と、B拠点には宝物が無いことが確定しました。宝物はC拠点です」

 

 A拠点とB拠点に宝物はない。確かにその通りだ。ユキノは混乱しながら考える。

 だとしたら彼女は一刻も早く自分を倒すか、自分から逃げるかして、C拠点に向かわなければならないはずだ。

 

 ユキノからすると、B拠点を探索できる人間はいなかった。A拠点も同様にそうだ。

 しかし、それを為した人間がだれなのかはすぐに想像ができた。

 

 唯一動向を把握できていなかった相手、同級生であり、普段仲間としてオペレーターを任せているニコだ。彼女がA拠点を家探した後にB拠点をドローンで探索させていた場合、二つの拠点を調べることは可能だ。

 そして、B拠点周辺にドローンが来ている様子は、少なくともミヤコと対峙するまでは無かった。つまり、ドローンが近づいたのは……

 

「あの閃光弾は、ドローンのB拠点への侵入を気付かせないため、だったんだな?」

「はい、流石ですね。先輩」

 

 ミヤコが素直に認める。何度も同じ手を使っていた理由が分かった。そこは自分の失態だ、ユキノは内心認めた。

 

「だとすると、ニコは今A拠点だ。今すぐミヤコを倒し、C拠点を守りに行けば勝負はまだ分からなくなる」

 

 そのはずだ。少なくともA拠点からC拠点に行く場合、たどり着くまでで制限時間まであとわずかな時間になるだろう。ユキノはまだ、そう考えていた。

 

「そうですね、先輩。先輩は本当なら私たちの相手をせずに、C拠点に向かうべきだったんです。でも、先輩は私の『運には頼らない』という言葉を信じて、私たちを正面から受けてくれた」

 

 すべての作戦が終わったかのように、ミヤコはそう言った。まだ終わっていないはず、というユキノとの認識が完全にずれていた。

 

「どういうこと……!?」

 

 ユキノが再度問いかけようとして、言葉を止める。

 C拠点で待ち構えているはずの後輩、風倉モエが突然リタイア判定になったのだ。

 

 そしてそれから間もなく、演習場内にメッセージが流れる。

 

『ニコが拠点Cにて宝物を発見。RUBY小隊の勝利です』

 

 ユキノは、先日のアリウス生達の驚愕を、今度こそ自分が味わっている気分になった。

 

~~

 

 スタート地点傍の本部で不知火カヤと共に見ていた私には「時間稼ぎは出来た」という実質的な勝利宣言をする前から、RUBY小隊の勝利がほぼ間違いないということを把握していた。

 

 あの時点で、吉野ニコはC拠点の目と鼻の先にいたのだ。地図を確認できる私たちには容易にわかることだった。

 

 そこからは月雪ミヤコと天神山オトギの音声会話を残しながら、C拠点周辺の映像を確認していた。

 吉野ニコは天神山オトギの推理通りB拠点をドローンで探索した直後、恐らく無線妨害をしながら、自らC拠点に突入を開始していた。

 

そして、天神山オトギ達FLAME小隊は自分の推理に囚われたままC拠点の危機に気付くことなく、そのまま敗北したのだ。

 

なお、霞沢ミユと天神山オトギはそれぞれのリーダーの指示通り、それぞれを釘付けにすることに注力しており、結局決着がつくことは最後まで無かったようだ。

 

何にせよ、後半戦のRUBY小隊の勝利は、これで確定した。

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