後半戦は、月雪ミヤコが率いるRUBY小隊の勝利となった。
C拠点を映し出しているカメラでは、宝物を見つけた吉野ニコが、最も近くのカメラに向かって笑顔で手を振っており、その後ろでは死体のふりをしている風倉モエが映っていた。
外からも歓声が聞こえたので、2年生たちも勝利の瞬間を見ていたのだろう。
「それで」
途中から解説を入れることも忘れ、楽しそうに映像を眺めていた不知火カヤに尋ねる。
「はい?」
「ミヤコさんは、貴女をどうやって口説き落としたのですか、カヤさん」
「なんだ、やっぱり気づいていたのですね」
私の質問に、彼女は一瞬だけ表情をひきつらせたが、呆れたように笑って返事をした。
「ですが、やはり、そのあたりの種明かしは作戦を組み立てた本人にしてもらった方が良いのでは?」
確かに、その通りだ。間もなく戦っていた生徒達は戻ってくるはずだ。その際に話を聞けばいいだろう。
それに前半・後半で1対1となったのだ。ルール通り、代表同士の1対1で勝敗がきまることになる。
生徒達が戻ってくる。
最も早かったのは高倉クルミで、待っていた私の顔を見ると
「もしかして、また先生がおかしなことしたの!?」
と問い詰めてきた。しかし今回のことに関しては、私は殆ど無関係だ。
首を振った私を疑うような目で見ていたが、そのまま黙って椅子に座った。
次に現れたのは天神山オトギと、何故か彼女に背負われている霞沢ミユだった。
「ちょっと、あんたミユに怪我でもさせたの?」
「いや、何か試合終わった瞬間ぶっ倒れたんだよね。まあ、ずっと鬼ごっこしてたから私のせいといえばせいだけどさ」
森の中で狙ってくる先輩から重装備で逃げ回り続けていたのだ、心身ともに限界だったのだろう。
「……あぅぅ……ご、ごめんなさい……」
いつもよりもさらにか細い声が辛うじて聞こえる。意識はあるらしいが、体調次第では対応する必要があるだろうか。
天神山オトギは霞沢ミユを何とか座らせると、高倉クルミの隣に腰掛けた。
そして残りの5人は集団で帰ってきた。談笑しているようだったが、七度ユキノはその輪に加わっている様子は無い。
「皆さん、お疲れさまでした。RUBY小隊の勝利によって、1対1となったわけですが、すぐに延長戦へ入りますか?」
これで全員が集まったので、私が労いの言葉とともに生徒達にそう尋ねる。
「それよりも」
七度ユキノがこちらを一瞥した後、月雪ミヤコの方を見る。
「そろそろ、どういう事だったのか聞かせてほしいんだが」
そう言われたRUBY小隊のリーダーは、
「もちろんです、ユキノ先輩」
と即答し、種明かしを始めた。
「まず、私たちが後半戦で立てた作戦は、単純な物なんです。一つは、前半戦で大活躍していたミユの動きを潰すこと。それと、ニコ先輩に自由に動いてもらう事、です」
彼女が吉野ニコの方を見る。それに応じて吉野ニコは笑顔でピースサインをした。
「飛行ドローンの操作に長けているニコ先輩以外では、2拠点の探索は不可能に近いので。現に前半戦、あれだけこちらが人数不利に追い込まれて尚、ミユが2拠点を探索できたのは、本当に時間ギリギリのことでした。そうですよね?」
今度は逆に七度ユキノへと尋ねる。
「ああ。だからこそ、私は確認した。運だよりにするのか、と。だが……」
「はい、私は運には頼らないと宣言して、ユキノ先輩はそれを信じてくれた。多分、私たちはユキノ先輩を正面突破するつもりだ、という宣言だと思ってくれたんだと思います」
「……嘘だったのか? 」
「いいえ、嘘ではありません。ただ、あの時私は既に、A拠点に宝物が無いことを知っていたんです」
推理を説明する探偵のように、月雪ミヤコは回りくどい言い方をする。自分の作戦がうまく行ったことがそれだけ嬉しいのだろう。しかし、彼女が敬愛する先輩のストレスになっていることには、あまり気づいていないかもしれない。
「……それこそ、どういうことだ?」
「A拠点のことも、B拠点の事も、先輩に教えてもらったんです。B拠点については、もちろんニコ先輩のドローンですね。 でも、A拠点はニコ先輩ではない、別の先輩からの情報なんです」
別の先輩、そう言われて、七度ユキノは周囲を見る。普段の本来のチームメイトが首や手を振って違うことをアピールしていたが、やがて彼女は一人の人物に視線を止めた。
そして答えに行きついたように目を見開いた。
「……は? ……カヤ?」
余程動揺しているのだろう。普段なら呼ぶことの無い、呼び捨てで呼び、不知火カヤの顔をまじまじと見た。
「私がどうかしましたか? ユキノさん」
見られていることに気付いた不知火カヤが。わざとらしく微笑んでそう言う。
「だが、……それはルール違反では」
「いいえ、先輩。ルール違反ではないんです、カヤ先輩の協力は。……先生、ルールの説明書はお持ちですか?」
月雪ミヤコに問われる。その質問は想定内であったので、私はすぐにルール説明時に配った資料を彼女へと渡した。
「ここ、禁止事項のところ、
・SRT所属の生徒のうち、RABBIT小隊やFOX小隊以外の生徒、そしてシャーレの先生への協力依頼は禁止
・SRTシャーレ支部に無関係の生徒の参加も不可
となっています」
「うん、やっぱりルール違反じゃない」
状況が分からず黙っていた高倉クルミが口を挟むが、月雪ミヤコは首を振った。
「カヤ支部長は学籍は連邦生徒会に置かれているのでSRT所属ではありませんし、一方でシャーレ支部長ではありますので、当然関係者です。要するに、それが私の作戦だったんです」
月雪ミヤコはそう言って、初めて不知火カヤの方を見た。不知火カヤもそれに反応し、二人は悪戯がうまく行った子供のように笑いあった。
「……そういうことだったのか」
しばらく言葉が出てこなかった様子の七度ユキノが、大きなため息をついて、そう言った。
月雪ミヤコがその反応にやや焦りの表情になる。
「は、はい。……話を戻しますね。それで、カヤ先輩は解説のようなことをする手はずだったので、それを利用して私に様々な情報を教えてくれていたんです。ルール上、本部に何かを仕掛けるのは禁止でしたが、本部から連絡するのは自由でしたから」
後半戦の始まりの時の狙撃回避や、霞沢ミユの移動先に天神山オトギがその裏をとるルートで行動したことなどから始まり、この戦いは、RUBY小隊にとって都合の良いことが連続で起こりすぎていた。
その最たるものが、A拠点の探索を捨てるような行動を、早々に取り始めていたことだ。この行為が結果として高倉クルミへの奇襲や七度ユキノの混乱を誘う切っ掛けとなったのだろう。
そして不知火カヤは、確かに宝物の隠し場所についても後半戦の間に言及していた。
「種明かしは以上です。何か質問はありますか」
月雪ミヤコが問いかける。
「は~い」
黙って聞いていた風倉モエが挙手する。
「何でしょう」
「何でカヤ支部長はミヤコに協力してくれたの? 買収?」
一切歯に衣着せぬ言い方で、月雪ミヤコではなく、不知火カヤへ問いかける。私も気になっていた部分だ。
「……別にそういった直接的な報酬は受け取っていませんよ。後から面倒なことになるのは困りますからね。ただ単純に……ユキノさんに一泡吹かせてやりたい、という思いに共感したのですよ。作戦内容自体はどこかの「嫌な大人」の影響をしっかり受けているようであまり気に入りませんでしたが」
不知火カヤはそう答えた。嫌な大人、の部分で私に視線が集まったが、そういうことを臆面もなくいえるのであれば、甘んじて受け入れよう。
そして、風倉モエに続く人物はいなかったが、真相を悟って以降頭を抱えるような仕草をしていた七度ユキノが再度溜息をつき、この場にいる全員が彼女に注目した。
「……完敗だ。ルールの読み込みが甘かったのは反省すべきところだな。利用するつもりが無かったとしても、何が出来るか位はきっちりと把握しておくべきだった。誰かの影響を受けているようなのは少し気になるけど。言い訳をするつもりはない」
そして彼女ははっきりと負けを認める発言をした。
「先輩……」
「さて、じゃあ、1対1になったので、延長戦だな。行くぞ、ミヤコ」
「え?」
七度ユキノが、月雪ミヤコの肩を掴んだ。
「後輩の成長は嬉しい物だな。1対1でも成長した姿、
「先輩? ユキノせんぱい!? もしかして、怒ってますか!? 1対1はもう今日2回もやりましたよねっ!?」
先輩が後輩をひきずるようにして、二人は演習場へと向かっていく。しかし元々ルールで決まっていたことなので、こちらはどうすることもできない。
その場の生徒たちは、呆れていたり嬉しそうにしていたりと、様々な表情で延長戦の様子を眺めていた。
「先生」
種明かしの間、黙って様子を見ていた空井サキが私に声を掛けてくる。
「お疲れ様です。サキさん、どうされました?」
「あの虐められてる、ウチのリーダーなんだけどさ」
彼女は戦っている2人の様子を呆れた顔で一度見た後、こちらを見る。
「もう少しあいつがリーダーでも良いかなって思ったよ。 今日のあいつは、何というか……面白かったから」
そして、照れくさそうに笑いながらそう続けた。
こうして、初の試みとなるチームシャッフルによる模擬戦は
前半戦 FLAME小隊の勝利
後半戦 RUBY小隊の勝利
延長戦 FLAME小隊の代表、七度ユキノの勝利
となり、FLAME小隊の優勝で幕を閉じた。