ブラックマーケットからアビドスの校舎に戻り、入手した資料を調べるにつれ、生徒たちの表情は険しいものとなっていった。
借金を返済したその金が、そのままアビドス襲撃の資金源となっていたという事実が浮き上がったからだ。
行きがかり上同行しているだけの阿慈谷ヒフミも他人事とは思えないといった様子で理由を考えている。
私の持つ情報、と言っても調べれば誰でも分かることではあるが、それを切るべきなのは今だろう。おそらくあの『先生』はもっと後に気付いただろう。
「皆さん。実は私も独自で調査をして知ったことがあるのです。皆さんはご存じかもしれないと思っていたのですが……」
「何? 先生。重要なこと?」
砂狼シロコが直に聞き返す。
私は頷いて続きを本題を話す。
「このアビドスの土地の権利についてです。そうですね、端的に言うとこのアビドスの地の多くの部分の権利はカイザーコーポレーションが握っています」
「……は?」
一瞬沈黙があった後、だれかがそう呟いた。
私は懐から書類を取り出し、近くにいた奥空アヤネに手渡し、話を続ける。
「勿論この校舎の敷地内は違いますが、砂漠地帯の大部分、そして元々市街地だった廃墟地域や、現在も住民が暮らしている部分にまで、カイザーが所有する地点は多数あります」
奥空アヤネが無言で、そして焦りながら資料を確認する。
生徒たちの注目が彼女に集まる。そして、
「……先生の、仰っているとおりです」
資料を確認した奥空アヤネがうなだれるようにそう言い、俯く。
重い沈黙が再び流れる。しかし、私がこれを口にしたのはそのような空気を作るためではない。
「どのような経緯でそうなったのかは調べ切れていませんが、そうですね。話を整理しましょうか。何故カイザーローン、あるいはカイザーコーポ―レーションそのものがアビドスを攻めているのか」
話を再開した私に重い視線が集まる。
「土地の権利を集めていることからみるに、敵はアビドスの土地そのものが目的と考えるべきでしょう。いくら権利を持っていても、アビドスという学校があれば思い通りに開発するのは難しい。そのために敵はアビドスを疲弊させ、借金を返せない状況に追い込もうとしている。というのが理由として考えられます」
あくまで想像という体で話をしているが、これは事実だ。私は彼らが何を探しているのかも、実際にそれが存在していることも知っている。
そしてそれがどうなったかという顛末まで。
しかし、アビドスの生徒たちにとってはにわかには信じられず、しかし反論することも出来ない様子で、なかなか二の句が継げずにいるようだ。
時折口を開くが、「何で」とか「そんな」といった感情が漏れ出した言葉のみ。
「ふむ。今日のところは解散にしましょうか。結局のところ、状況が今すぐ変わるわけではないのです。幸いにして襲撃の実行犯たちにはある程度の打撃を与えていますし、考える時間もあるでしょう」
生徒たちには時間が必要だろう、そう思い会議の打ち切りを提案する。
「そ、そうですね! 私もトリニティに帰らないと……」
唯一当事者ではない阿慈谷ヒフミがいたたまれない様子から立ち直り、解散に同意する。
その声に釣られ、アビドスの生徒たちも顔を上げ、立ちあがる。
「えー、ヒフミちゃんはアビドスに残ってくれてもいいんだよ?」
「ん。ファウストなら大歓迎」
「その名前はやめてください!?」
空元気だろうが、小鳥遊ホシノと砂狼シロコがいつもの様子でふるまう。
十六夜ノノミも暗い表情を隠すように小さく微笑む。
俯いていた奥空アヤネも、こちらをすがるような眼で見ていた黒見セリカも頭を振って、立ちあがる。
そして、トリニティに戻るという阿慈谷ヒフミへ一定の口止めをして見送り、この日は解散となった。