「順当にいけば、被害者がはっきりワカモの名前を出してる最後のファイルが一番近道な気がするけどな」
空井サキが3つ目のファイルを手に取り、そう言った。月雪ミヤコと風倉モエも異論は無いようだったが、霞沢ミユは、そうではないようだった。
「ミユ? それが気になるの?」
彼女の様子に、月雪ミヤコが気付いた。彼女は別のファイルを注視しているようだった。
「ひっ!? あ……えっと……最後のでも……」
自分に注目が集まっていることに気付き、彼女は慌てて自分の意見を無いものにしようとする。
「ミユ、何か気になることがあったならちゃんと言って。それから、みんなで判断しよう」
しかし、隊長はそれを許さなかった。隠れようとする彼女の顔を見つめて、問い質す。
「…………その……これだけ……分からないというか……おかしいと思うんです……」
彼女が見ていたのは立木マイアから提供のあった2つ目の資料だった。
「これの何がおかしいの?」
風倉モエがファイルを眺めながら尋ねる。
「えっと、モエちゃん。……これもワカモさんの可能性があるってことだから……誰かを、助けてあげたってことで……」
「あー。うん、確かにイメージとは合わないね。狐坂ワカモってとにかく破壊と略奪って印象だね」
言われて、風倉モエも頷く。
「もし、これが本当にワカモさんのことだったら……そもそも前提が変わってくると思うんです……暴れているのはワカモさんなのか……」
「あるいは、何か事情があるのかもしれない、と」
2番目のファイルを見直していた月雪ミヤコの補足に霞沢ミユが頷く。
「だったら、2番目からでも良いぞ。もし関係ないと分かったら、それはそれで可能性を潰せることにもなるし」
最後のファイルを提案していた空井サキも、意見を翻した。彼女たちの選択が決まったようだ。
「決まったようですね。情報提供者に連絡をとってみることにしましょう」
そう言って、すぐに救護騎士団の蒼森ミネに連絡を入れた。
―
救護騎士団長からの回答はすぐにあり、RABBIT小隊の生徒たちと私は、トリニティ自治区へと移動していた。
「先生、立木マイアという方は、どういう生徒なんですか?」
移動中、月雪ミヤコから質問を受ける。
「書いているとおり、元アリウスの住人ですよ。調印式での作戦の前、別の事件で保護された生徒です。保護された直後は極めて危険なレベルの衰弱状態にありましたが、最近は回復してきていて、救護騎士団の手伝いをしているらしいです。皆さんと同じ年齢ですよ」
肉体的衰弱に加えて、PTSDの症状も強く出ていた彼女だが、その状態でもアリウスで共に生活していた友人たちのことを心配していた彼女のことだ。友人の恩人のために動く、というのもよく理解できる話だった。
「……」
少し生徒たちの表情に陰が差す。アリウスの生徒たちが厳しい状況にあった、という話は伝聞で知っているのだろう。
「皆さんはアリウススクワッドの方たちと話したことはありますか?」
ふと思い立ち、問いかける。彼女たちとは同じ建物で一緒に生活しているはずだが、あまり一緒にいるところは見た覚えがない。
SRTシャーレ支部全体でも、例外は秤アツコと七度ユキノ位のものだった。
「挨拶くらいならありますが……」
予想通りの回答が返ってくる。挨拶すらしたことが無さそうな者もいたが。
「そうですか。無理にとは言いませんが、異文化で育ってきた者同士です。交流することで知れることもあるかもしれませんよ」
私のその言葉に、RABBIT小隊の生徒たちは神妙に頷いた。
―
立木マイアがかつて入院しており、そして今は手伝いをしているトリニティの病棟へと到着した。
受付をしていた生徒に用件を告げ、暫くすると、少々サイズが大きめの救護騎士団の制服を身に纏った本人が現れた。
「お待たせしてすみません。先生……と、えっと、あの、そちらの方たちは……」
後ろに控えていた見慣れない制服の生徒達に、戸惑った様子を見せる。SRT生徒たちが来ると、うまく伝わっていなかったようだ。
「ああ、すみません。こちらはSRT特殊学園シャーレ支部に所属の皆さんです。今回の調査には彼女達を中心に行ってもらうつもりでして」
「そ、そうなんですね……?」
立木マイアは恐る恐ると言った調子で頭を下げる。対して、月雪ミヤコが前に進み出た。
「初めまして、SRT特殊学園、RABBIT小隊の小隊長、月雪ミヤコです。よろしくお願いします」
「あっ。はい、よろしくお願いします。立木マイアです。本日は、あの、えっと、わざわざお越しいただきありがとうございます?」
見慣れない制服に身を包み、軍属のようなことを言う月雪ミヤコに、立木マイアは恐縮しているようだった。それを見た月雪ミヤコは少し思案するような表情をし、そして表情を緩めた。
「そんなに緊張しなくてもいいですよ。マイアさん。先生から聞いた話だと、私たちは同じ学年だそうです。なので、何なら呼び捨てでも構いませんよ」
「あ……ありがとうございます。えと、ちょっと人見知りで……ごめんなさい。ちょっと呼び捨ては難しいですけど、そう言ってくれて、ありがとうございます。あ、でも、私の事はマイアと呼んでもらって大丈夫です」
彼女の場合は生来の人見知りというよりは環境によるものが大きいのだろうが、月雪ミヤコの生来の面倒見の良さのようなものに惹かれたのか、立木マイアは少し落ち着いたようだ。
「そう? じゃあ、マイア。早速なのですが、何故私たちがここに来たか、というのは分かっていますか?」
「は、はい。あの、友達を助けてくれた人を探してくれるって話ですよね?」
その人物を探す、というよりはその人物が狐坂ワカモなのかを調べるというのが目的だが、間違ってはいない。月雪ミヤコはどのように返すのだろうか。
「そうです。見つかる保証はありませんが、全力を尽くすと約束します。まずは、もう少し詳しい話を聞きたいのですが……」
真正面からそう言い切った彼女に、立木マイアの表情が明るくなる。
「は、はい! では早速……あ」
そして今すぐにでもその友人の元に案内してくれそうな雰囲気があったのだが、何か問題があったかのように固まる。
「どうかしましたか?」
「えと、皆さんそのー……着替えとか持ってませんよね?」
立木マイアが妙なことを言い出す。
「すみません、着替えは持ってきていないですね。一応この制服自体は清潔な物を着てきましたが」
「そ、そうですよね……あの、その友達なんですけど……私と同じくらい、かそれよりも人見知りで……そのうえ、あの調印式の日にSRTの方に襲撃されたのをトラウマに思っているみたいなんです」
そう説明する彼女は、申し訳なさそうな顔をしていた。
「ああ、ユキノ先輩……は別か。でも、FOX小隊の先輩達のことですね」
「は、はい、多分そうだと思います」
月雪ミヤコの確認に、彼女は頷く。
「成程……そういう事であれば、仕方ないですね。一度出直しましょうか?」
そう言って月雪ミヤコは、後ろで待機していた隊員たちの方に振り向き、尋ねる。
「今からか? 結構面倒だぞ。服ならその辺で売ってるものを買ったりできないのか?」
「いやいや、サキ。ここトリニティだよー? 破産しちゃいそう……あ、
「そ、そんな高級服、私には勿体なくてとても……」
突然話を振られたからか、大いに脱線している。私が口を開こうとしたその時、背後から突然声がした。
「
「……いつからそこに?」
いきなり現れた鷲見セリナに尋ねる。以前も似たようなことがあった記憶があるが、今回も何の気配も感じなかった。SRTの生徒たちどころか、向かって正面で話していたため後ろが見えていたはずの立木マイアすら驚いている様子だった。
「こんにちは、先生。丁度通りかかったところで、服が必要というのが聞こえましたので、お力になれるかなと思いまして」
服が必要という話が聞こえていたのなら、それから暫く話を聞いていたということだ、声を掛けられるまで全く気付かなかった。
これ以上この場で調査しようとすると帰れなくなりそうなので、それに関して指摘することは諦めた。
「……えっと、あなたは?」
困惑していた月雪ミヤコがその表情のまま問いかける。
「はい。救護騎士団の2年生。鷲見セリナです。マイアちゃんの相談を受けてくださって、ありがとうございます」
「は、はい。ありがとうございます。私はSRTの月雪ミヤコで、この3人は同じ小隊の隊員です」
立木マイアに対してした正式名称での自己紹介ではなく、彼女は簡潔な自己紹介を行った。
「よろしくお願いしますね。それで、制服はどうされますか?」
「えっと、その、凄く助かります。お願いしても良いですか?」
まだ少しペースを取り戻せていないが、他校の先輩に彼女はどうにか頷いて答えた。
「はい、では少々おまちくださいね」
そう言って、鷲見セリナはどこかへと去っていった。
「……ミユならあれマネできるんじゃない?」
風倉モエのからかいに、霞沢ミユは必死に首を振っていた。