「……ともあれ、体調は殆ど回復したようで何よりです」
「ありがとうございます。ここの皆さんにはとってもお世話になったので、ちょっとでもお役に立てていれば良いのですが……」
鷲見セリナが制服を取りに行っている間、立木マイアと近況報告がてら話をする。調印式での事件以降、今回の件の生徒以外で何人か、保護されたアリウス生徒がいたらしい。
しかし、全員がそろったわけでもなければ、アリウスに残っていた生徒たちが見つかったという報告もない状況だった。
一方、RABBIT小隊の生徒たちは、何か別件を話しているようだった。
「すみません、思ったより予備の制服の在庫が無くて、今すぐお貸しできそうなのは2着しかありませんでした。」
戻ってきた鷲見セリナは、頭を下げながらそう言った。立木マイアがそうであるように、トリニティの制服に身を包み、活動を始めているアリウスの生徒が増えているため、そういうことになっているのだろう。
「いえ、助かります。その……そもそもそのマイアの友達という子の状態を考えると大勢で押しかけるのも良くないとさっき思い至ったので……」
「あ……ありがとうございます。そうですね、その方があの子も落ち着いて話が出来ると思います。」
月雪ミヤコの礼と気遣いに対し、鷲見セリナも礼を返す。立木マイアも世話になっている彼女に続き頭を下げた。
「さて、そうと決まれば誰が聞き込みをするかですが、ミユ、誰と行きたいですか?」
「え? ミユが決めるのか? 3人で決めればよくないか?」
「私は別にどっちでも良いから好きに決めていいよー」
3人が口々に意見を述べていく。
「え? ……あ、あの……私は確定なんですか……?」
出遅れた霞沢ミユが慌てて抗議のようなものをし始めるが、
「え?……うん。ミユの意見でここに来たのだから、ミユは確定で良いと思う」
と、それが当然であるという様子の月雪ミヤコに、残りの二人が同意して頷く。それ以上反論する気力がなくなったらしく、彼女は肩を落とした。
「はい、私の勝ちー!」
結局残った3人でじゃんけんをして勝った者、ということになったらしく、空井サキが快哉を挙げていた、
聞き込みを行う二人が決まり、鷲見セリナはその二人を連れて更衣室へと案内していく。
しかし、誰が聞き込みを行うかという話のわりに妙に盛り上がっていた。
「ミヤコさん、なぜ聞き込みを行う人物選びで白熱していたのですか?」
気になり、尋ねてみると、
「……ああ、ええと。……くだらない話と言わないでくださいね?」
回答の前に月雪ミヤコはくぎを刺すようにそう言った
「はい?」
「トリニティの制服を着れるチャンスなんてめったにないじゃないですか。お嬢様学校ですよ? 一度くらいは着てみたいというものです」
まあ、負けたので着れないんですけど、と彼女は肩を落とした。
「……成程」
それは、私が分からない訳だ。思いがけない回答だったが、妙に納得した気分になった。
待つこと暫く。トリニティの一般生徒の制服に身を包んだ二人が戻ってきた。鷲見セリナは次の用事があるということで、二人を連れて戻ってきた後、再びどこかへと去っていった。
「先生、どうかな?」
戻ってきて早々、空井サキに尋ねられる。隣で霞沢ミユも黙ってこちらを見ていた。
「そうですね……とてもよく似合っていると思いますよ。どこから見てもトリニティの生徒にしか見えません」
私が素直な感想を述べると、空井サキどころか霞沢ミユからも抗議するような目を向けられた。私に何を望んでいるのだろうか。
「あっ……あの、先生、そろそろ」
2人と似たような表情でこちらを見ていた立木マイアが、役割を思い出したように言う。
彼女の友人が待っているはずだ。そろそろ行くべきだろう。
情報提供者が入院しているという病室に、立木マイアが先行して入室した。私ではなく別の生徒が聞き込みを行うことなどを説明するのだろう。
数分も待っていると、立木マイアから入室の許可が下りたので中へと入る。
室内で起き上がってこちらを見ていたのは、言われていた通り、立木マイアと比べてもさらに小柄な、髪を短く切りそろえた少女だった。
「こ……こんちわ……」
恐る恐ると言った様子で彼女は、入ってきた私たちに頭を下げた。隣を見ると、それを受けて空井サキが霞沢ミユの背を押していた。
「サキちゃん!? あ……えと、こ、こ、こんにちはっ……!!」
余程緊張した様子の霞沢ミユが、動揺しながら頭を下げた。そしてそれを確認した空井サキも、苦笑しながらそれに続いた。
「こんにちは。1年生の空井サキと言います。こちらは霞沢ミユ。それと……」
「マイアさんから話を聞いていると思いますが、今回引率で訪問しているシャーレの先生をやっている者です。よろしくお願いします。」
珍しい丁寧な言葉で、空井サキは卒なく挨拶や紹介を行った。彼女もまた、エリートであることを思い出す。
「あ、うん。えーっと、マイアちゃんが言うには、私の恩人を探してくれるって話だけど、ほんと、ですか?」
たどたどしい敬語で、少女が尋ねる。
「は、はい。あ……でも、その前に詳しくお話を聞きたくて……」
「あ、うん。そうだ、ですよね。えと、じゃあ、話しますね。
「最悪様……?」
お互いに緊張しているからか、微妙に話が噛み合っていない状態で、アリウスの少女は話し始めた。
~~
あの作戦の日、本当に何が起こってるか分からなくて、聞いてた話と違うじゃん! って思いながら誰もいない路地を逃げてたの。
アリウスの生徒だと思ってた子がいきなり服とガスマスク取って別の制服になるし、目の前で友達が捕まっちゃって、あの時は本当に殺されるって思ってたから、必死で。サオリが撤退の指示を出すより早く逃げてた。
後から知った話だけど、あの時殆ど
偶々目くらましを持ってたのと、後、多分私ちっちゃいから、見つからなかったのかな。
でも、今自分がどこにいるかなんて全然分からなくて、躓いて転んじゃって。痛いし、怖いし、お腹すいたしで、動けなくなっちゃって、泣きながら蹲ってたんです。
しばらくそうしてたら、突然、声を掛けられたの。
「そこのあなた。少しお聞きしたいことがあるのですが」
いきなり話しかけられて、びっくりしてそっちを見たの。
そうしたら、少し変わった服装をしてお面を被った人がこっちに銃を向けていて。
その時、ああ、私ここで死ぬんだ、って思って……うーん、多分そこで気を失ったんだと思う。思います。
~~
「その仮面って、どういうのだったか覚えてる?」
アリウスの少女による、仮面の人物が現れるところまでの話を聞き、空井サキが尋ねた。
「うーん……、その時のはあんまり覚えてない。何となく赤と白のお面だったと思うけど……」
「こういうの?」
狐坂ワカモがつけている狐面を見せると、彼女はそれをじっと見つめて。
「うーん……こんなんだったような、ちょっと違ったような……。ごめんなさい、思い出せないで
す。あ、でも、私が目覚めた後は、別のをつけてた。もっと、なんというか
と言った。彼女にとって見慣れない、異文化の仮面だ。上手く言語化できないのも仕方ないだろう。
それよりも、彼女の話を聞いていて気づいたことがある。空井サキや霞沢ミユが気付いていないようであれば、後で補足しておこう。
「成程? ……うん、そっか。話の腰を折ってごめん。続きを聞かせてもらえる?」
空井サキがそう言って続きを促すと、少女は頷いて再び話し始めた。