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目覚めた時、ああ、夢だったんだって思った。でも、どこから? って思って、そのとき、気づいたんだけど、柔らかい布団で寝てたんです。こんな布団で寝たことなんて無いし、自分がどこにいるのかもわからなくて。
でも、やっぱり夢じゃなかったんだなって言うのは分かったかな。
みんなはどうなったんだろう、とか、逃げた方が良いのかな、とか思ったんだけど、柔らかくて暖かい布団からどうしても逃れられなくて、ぼうっと天井を見上げてたんです。
しばらくそうしていたら、部屋に人が入ってきて、それは多分あの時私を見つけた人でした。
多分っていうのは、その……。仮面が多分変わっていて、ちょっと格好も変わっていたので、絶対とは言い切れないだけです。多分、声とかは同じのような気がします。
「あら、目覚めましたか」
その人は私が起きているのに気づいたみたいで、私に声を掛けてくれました。
スマートフォンを持って、何かを確認していたみたいですが、それはやめて、私の方を見ました。
「急に気を失ったから連れてきたのだけど、あなた、もしかして今話題のテロリストの一味?」
そう聞かれて、返事をしようとしたんだけど全然声が出ませんでした。たぶん、すっごく喉が渇いてたから。その様子に気付いたのか、その人は水を持ってきてくれました。
とっても、綺麗でおいしい水。見ただけでいつも飲んでいるものとは違う、と分かって……ここに入院してからはまるで当たり前のように飲ませてくれますケド、あの時の私にとってそれはとんでもないことで……
一息で飲み干した後、それが全部涙に変わるみたいにまた泣いちゃった。目の前の恩人が困ってるのは分かったけど、どうしても止められなかった。
涙が止まるころには、あの人はいなくなっていて、呆れられたのかな……って思ったんだけど、暫くしたらまた戻ってきてくれたの。
それも、お水のおかわりと、食べ物を一緒に持ってきてくれました。食べたことないような甘いお菓子で、また涙が出そうになったんだけど、その前に
「もう泣かないでくれると助かります」
とため息交じりで言われたので頑張って我慢した。でも、その位おいしかった。
それで食べ終わった時、まだ質問に答えていないことを思い出して、慌てて正直に答えたの。
「話題のテロリストというのが何かは分からないけど、アリウスの生徒です」
って。正直に言ったら何かされるかも、とも思ったんだけど、十分に良い思いはできたから、それでも良かったんです。何もかも虚しいと思っていたのに、赤の他人にこんなに優しくしてくれる人がいるんだって知れたから、それで。
でも、あの人は、それを聞いて、一際深いため息をついて。
「……今、私がとても機嫌が良くて助かりましたね。お友達のところに連れて行ってあげます」
って言いました。
どういう事だろう、と思ったんだけど、そしたらあの人はいきなり私を引っ張って後ろを向かせると、私に目隠しをしたの。それで多分何か箱みたいなものに入れられて、あ、でも全然息苦しいとかは無かったなあ。
抵抗も出来ずに、といってもする気もなかったんだけど。そのまま私は抱えられて、結構長い間、どこかに運ばれていました。
気づいたらまた私は寝ていて、身体を揺すられて目覚めました。
外に出された後、目隠しを外されました。えーっと、場所はここから100mほど離れた人気のない路地です。
「ここをまっすぐ行けばお友達に会えるわ。後は好きになさい」
と、そう言ってあの人はどこかへと行こうとしていました。慌てて、聞いたんです。せめて名前だけでも知りたくて、そしたらあの人は立ち止まって
「……さいあく」
って言ったんだけど、その後
「……いえ、名前など知る必要ないでしょう? 忘れなさい」
って、言われて……だから、それが名前なのかは分かんないけど、私は最悪様って呼んでいるんです。
その後、言われた通りまっすぐ進んだらそこにいたトリニティの子に見つかって……今は救護騎士団の子だってわかってるけど、すぐに捕まって、あの人の言う通り、それからすぐに……死んじゃったと思ってたマイアや、他の友達と再会できました。
あの人はきっと、探してほしくないと思ってるかもしれないけど、やっぱり私はお礼が言いたくて……ここまで詳しく話したのは皆さんだけです。
もし、あの人を見つけることが出来れば、私がお礼を言いたがっていると伝えてくれませんか? あの人が拒否したら、それはそれで良いから。どうか、よろしくお願いします。
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最後に頭を下げて、彼女は話を終えた。
「……あ、ありがとうございます。話してくれて。……えと、見つけられる保証は、その……できませんが、また必ず、報告に来ます」
霞沢ミユが少したどたどしく、しかし、意思を込めて証言者の生徒へと約束した。空井サキもそれに続き、立木マイアを除く3人で、病室から退室した。
そして、待機していた二人と合流し、外へと出て、その足で、彼女が解放されたという路地へと向かった。
「期待はしてなかったけど、
路地を眺めながら、空井サキが言った。道すがら、証言について重要そうと思われるやりとりについては待機していた月雪ミヤコと風倉モエにも伝えていた。
「ちょっと、聞いても良いですか?」
その場所で、月雪ミヤコが言う。
「聞いていた3人は、どう思いました? その、
その言葉に、実際に聞いていた2人は思案顔になる。
「うーん……正直分かんないな。雰囲気とかはそれっぽい気がするけど、狐坂ワカモだとして、行動は謎だよな。あの子めちゃくちゃ感謝してたし、聞いてる立場からだと、めちゃくちゃ親切な良いやつって感じ? ただ、素性を隠そうとしてるのは指名手配犯だから、と言えばそれっぽいとは思うけど」
空井サキは、そう答えた。霞沢ミユも頷いている。あの証言者は話が特別に上手い部類ではなかったが、それでも実体験に込められた感情は真に迫っていた。
「そう? 又聞きだから正しいかわかんないけど、行動の違和感っていうのは薄れたかなーって思ったけど」
「え? なんでだ?」
「だってさー」
風倉モエはいつもと同じ笑みを浮かべながら続ける。
「その最悪様? がやったことって、普通に誘拐だよね。された側がそう受け取ってないだけで」
「……え?」
証言を直接聞いた二人が呆然としていたが、聞いていた本人では気付きにくいこともある。先ほど気付いたことと併せて私が指摘しようかと思っていたが、必要なかったようだ。
全員で証言を聞かなかったことが、寧ろ良かったのかもしれない。
「普通に推測だから、話半分で聞いてほしいんだけど。多分、その
淡々と話す様子に、他の生徒たちがじっと見守っている。彼女の発言がそこまで注目されているのは珍しいような気がする。
「でも、あの子が起きる前に多分、推定ワカモはその知りたかったことを知ってしまった。あるいは、その情報が必要なくなってしまった。一日くらいあったなら、あの事件の表向きの顛末くらいは十分知れるはずだしね」
彼女の推測は筋が通っていた。なんの情報もない人物が、あの日、調印式の会場とされていた場所で爆発が起きたとしたら、何が起きているのか気になるのも当然ではある。それより問題は……
「多分その顛末は推定ワカモにとって都合が良いもので、だから気まぐれか、または同情心みたいなもので、水や食べ物をあげて、解放してあげた。その子はとても喜んでたみたいだし、勿論悪い事じゃないけど、捕虜や誘拐の被害者に飲食物を与える、なんてのも別に変なことではないしね~」
風倉モエが推測を話し終えた。空井サキと霞沢ミユは何も言えないようだった。彼女の推測に納得してしまったのだろう。
「……私も、似たような感想を持ちました。ただ結果的に、その人物が行ったのが
月雪ミヤコが2人をフォローするようにそう言った。
「先生は、何か気付いたことはありましたか?」
「……ええ、そうですね、一つ。彼女が倒れた場所なのですが、恐らく設定していた
「何故そう言えるのですか?」
証言を思い出しながら、続ける。
「彼女が逃げている途中、誰とも会っていないと言ったからです。エリアへ入る道には警備員がいたはずですし、実際警備を振り払って逃げていった者がいるという報告も上がっています。しかし彼女の場合はそうではありません。彼女を保護、あるいは誘拐した人物は立ち入り禁止エリアの内側に
当日の警備などの配置を決めていた私からの説明を聞いているうちに、その意味に気付いた生徒たちが目を見開く。
「彼女が本人か、そうでないか。確信は持てませんが、私は本人である可能性は高いのではないか、と思いますね。行動原理ではなく、能力的な問題、という側面で」
可能性が高いというより、私は殆どその人物が狐坂ワカモであること自体はほぼ間違いないと思っていた。見た目は真似できても能力までは真似できない。
「それと、これはあまり重要でない推測なのですが、『最悪様』というのは本人が名乗る時に『最悪』と言ったからと言っていましたが、『災厄』の聞き間違いではないでしょうか。つまり、『災厄の狐』を名乗ろうとしたが、途中で思いとどまった」
この推測も、件の人物が狐坂ワカモであるという説を補強していた。
ただ、それが分かったとしても、分からないことはまだ多くあった。
「……本物だとしたら、ワカモはどうしてそこにいたんでしょうか。古聖堂を破壊しようとしていた、とか?」
「うーん……それだと、終わった後上機嫌だった、というのも気になるな。テロリストの気持ちは分かんないけど、獲物を横取りされたようなもんじゃないのか?」
生徒たちもそれに気づいているようだった。
「うーん……とりあえず今言えそうなことは、今回のワカモが本物だったとしても、何か解決するる訳ではない、という事です。調査に関しては、むしろ偽物だった場合の方が都合が良かったかもしれません」
月雪ミヤコは、路地で行われていた話し合いを、そう結論付けた。
「では、他のファイルの調査をしますか? と言っても、今日これから行くにはもう遅くなりそうです。今日のところは帰りましょうか」
私がそう言うと、生徒たちは素直にうなずいた。これで、一つ目の調査は終了となった。
翌日、RABBIT小隊が決めた2つ目の調査先は……
File① 「謎のお面の生徒に襲われました」
File② 「友達を助けてくれた人を探しています」 済
→File③ 「狐坂ワカモに襲撃を受けた」