「昨日先生と別れた後話し合ったんですけど、サキの言っていた、最後のファイルでしたっけ、あれを次に調べたいということになったんです」
翌日、RABBIT小隊の生徒たちが選択したのは、ヴァルキューレからの情報提供である、「狐坂ワカモから襲撃を受けた」というものだった。
「もちろん構いませんよ。ちなみに、理由をお伺いしても良いですか?」
「昨日も似たようなことを話した気がしますが、情報としては昨日のものと一見真逆で、こちらは一般的なワカモのイメージとしても適合しています。だからという訳じゃありませんが、もしこちらが本物の狐坂ワカモだったとしたら、すぐにでも彼女の身柄を確保しなければならない、という理由にもなります。なので、2択ですがこちらを優先しようと思います」
月雪ミヤコはそう言った。話し合ったというのはその通りらしく、集合していた他の隊員たちも頷いていた。
「ありがとうございます。では、早速ヴァルキューレへと行ってみましょうか。情報提供者は公安局です。」
持ち物を取りに、RABBIT小隊の生徒たちを外に待たせ、一度事務所に戻ると不知火カヤがいた。
「今日はRABBIT小隊の子達とどこかに行くと言っていませんでしたか?」
「ええ、その場所が決まったので一度資料を取りに来たのです。今日はヴァルキューレに行くことになりました」
彼女からの質問にそう答えると、彼女は興味ありそうな顔になった。
「ヴァルキューレ? まさか公安局ですか?」
RABBIT小隊が狐坂ワカモの追跡をしていることは、彼女も承認を出している以上当然知っている。関連部署もそれで推理したのだろう。
「ええ、そうですね」
「……良ければご一緒しても? 公安局長とは顔見知りでして、一度会いたいと思っていたのです」
「それは……むしろ助かりますね」
丁度、ヴァルキューレへのコネクションが足りなくて困っていたところではある。顔見知り程度でも顔が利く者に同行してもらうのはありがたい。
「そうなのですか? では同席させてもらいますね。ちなみに、その資料というのは私が見ても良いものですか?」
少し考えたが、問題ないだろうと考え手を伸ばした彼女に書類を持たせた。
不知火カヤを引き連れて外に出ると、真っ先にそれに気づいた風倉モエが、こちらに背を向けている隊長をからかうように口を開いた。
「ミヤコ、先生が大好きな先輩連れて来てるよ~?」
「え、ユキノ先輩!?」
月雪ミヤコが勢いよくこちらを振り向いた。
「なんだ、カヤ先輩か」
そして、彼女は露骨にがっかりとした仕草をした。
「いきなり失礼な反応ですね……」
「カヤ先輩、なんで一緒に来たんだ? 一緒に行くの?」
空井サキが茶番を無視して尋ねる。
「ええ、少し公安局長の顔でも見に行こうかと。彼女とは腐れ縁でして」
「え、そうなのか。……そういえば、カヤ先輩って結構偉い人だったよな。ミヤコと遊んでる印象しかなかったから忘れてたよ」
空井サキのその意外そうな反応を見て、不知火カヤは私を睨んだ。
「それだけ親しみやすい人物と思われているということです。良いことだと思いますよ」
私がそう言うと、彼女は溜息をついた。
「……正直、以前ほどそういう発言に腹が立たなくなってきたのが一層癪に障りますね」
私と不知火カヤのその会話を、RABBIT小隊の生徒たちは不思議そうな目で見ていた。
―
ヴァルキューレ警察学校に着いた。受付にいた生徒は私よりもむしろ隣にいた不知火カヤに驚愕していたが、アポなしで行ったにも関わらず、しっかりとした応接室に揃って通された。
「カヤ先輩って
月雪ミヤコが改めてそう言った。
「それ、先ほどサキさんにも言われたのですが、そもそも支部長なのですから貴女方より偉いのは当然でしょう」
不知火カヤはとっくに聞き飽きたとばかりにそう言った。
「あ、そう言えばそうでしたね」
「ミヤコさんが私に勝負を挑むのはそれが理由だったはずなのですが!?」
「そうでしたっけ? もはや日常になっていて忘れてました」
じゃれ合いにしか見えない二人の会話を眺めていると、風倉モエが近づいてきた。
「ミヤコって実際、カヤ先輩の事大好きだよね。多分、ユキノ先輩と同じくらいだよ、あれ」
私にそう耳打ちしてにやける彼女も、大概の性格をしていると言えるだろう。
そうこうしていると、応接室の扉が開かれた。現れたのは長髪と警察らしい鋭い目つきが特徴の女生徒だ。恐らく彼女が
「お待たせしてすみません。先生、SRTの皆さん。公安局局長の尾刃カンナです」
謝罪とともに名乗ったのは、やはり公安局長であった。彼女は不知火カヤについて言及しなかったが、視線は明らかにそちらに向けられていた。
「こんにちは、カンナさん。お久しぶりですね」
不知火カヤはその視線にも、意図的に挨拶から外されたことも気にした様子を見せず、にこやかに話しかけた。
「……シャーレの先生に飼い殺しにされていると噂になっていましたが、その様子だとそういう訳でもないようですね。どういうつもりでいらっしゃったのか分かりませんが
腐れ縁、と不知火カヤが語っていたのがよく理解できた。尾刃カンナは
そして、尾刃カンナのその発言に面白くなさそうな顔をしている者がいた。言われた本人は一切気にしていない。RABBIT小隊の生徒たち、中でもつい先ほど本人に対し失礼な発言を連発していた月雪ミヤコだった。
彼女が口を開こうとしたが、不知火カヤがそれを制するように再度返事をした。
「何か勘違いしているようですが、今回私は挨拶に来ただけですよ。RABBIT小隊の皆さんが公安局に行かれるというので、そのついでです。そうですよね、先生」
「ええ、まあ。今回に関しては
不知火カヤに語調を合わせる。今回の目的を考えると、今の彼女の行動は正解だっただろう。
「それと、カンナさんに一言伝えたくて。……私は色々と諦めて一旦出直すことにしましたよ。最初は惜しかったですが、最近はそう感じることも減ってきたのも確かです。……生意気な後輩と新しい友人もできましたしね。カンナさんからは卑怯者にうつるかもしれませんが……後は
彼女がそう言い終え、月雪ミヤコの方を見る。苛立ちを見せていたはずの彼女は少しの困惑がありつつも、本来の目的を思い出したようだ。
そして尾刃カンナも、自分の発言にSRTの生徒たちが怒りを見せていたことと、その後の不知火カヤの言葉に、何か感じるところがあったのか、戸惑った表情をしていた。
「あの、すみません。ご挨拶が遅れました。SRT特殊学園の月雪ミヤコです。私たち4人でRABBIT小隊というチームを組んでいて、その隊長を務めています」
気持ちを切り替えた様子の月雪ミヤコが、改めて自己紹介をする。
「今日は、狐坂ワカモの目撃情報……というより被害報告について、詳しい話を聞きたくて訪問しました、よろしくお願いします」
そう言った彼女に続き、他の隊員もそれぞれ頭を下げた。
「……いや、失礼。みっともないところを見せました。色々と考えを改める必要がありそうです。こちらこそ、来ていただきありがとうございます。恥ずかしい話、狐坂ワカモについては、ウチだけでどうにかしたいという気持ちもありましたが、上層部は身柄の拘束にあまり乗り気ではない状況です。現行犯ならまだしもね。そちらが彼女の情報を集めていると聞いて大喜びでしたよ」
尾刃カンナも切り替えたと思いきや、別の方向性からまたも彼女の鬱憤が見え始める。妙に最初から喧嘩腰のように見えたのも、かなりストレスが溜まっているからなのかもしれない。
ともかく、ようやく詳しい話が聞けそうな状況になったらしい。