黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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File③ 証言

「色々と話が逸れてしまって申し訳ありません。事件の詳細についてですね。概要はお送りした通りですが、実際に被害にあったのは、所謂ブラックマーケット近郊の……学区外に居を構える古物商。要するに質屋のような物ですが……」

 

 漸く話し始めた尾刃カンナだが、妙に歯切れの悪い話し方だった。

 

「何かそのお店に問題があるのですか?」

 月雪ミヤコが尋ねる。

 

「……正直に言いますと、今回の被害にあったと主張しているその店の証言には()()()()()がいくつかありまして、その上、その店の実態にも不鮮明な点があります。そして、その店は自分たちの商品に盗難保険をかけていた」

 

 公安局局長がこめかみを抑える。

 

「まさか、事件自体が狂言だと?」

「いえ、流石にそれは……襲撃時の映像なども残っていますし。ただ、それが狐坂ワカモなのかというと、判別しかねる内容でしたね。被害者本人と上層部にはシャーレの先生に見せることへの許可は下りています。ご覧になりますか?」

 

 尾刃カンナは私を名指しして確認する。つまり「先生」になら見せても良いと言われたということだろう。

 

「今回、私は引率という立場になりますが、SRTの皆さんも一緒に見ても問題ありませんか?」

 そのため念のため確認すると、尾刃カンナは頷いた。

 

「その辺りは問題ありません。そこまで含めて許可が下りています」

 彼女は頷いてそう言った。準備の良いことだ。

 

 尾刃カンナが持ってきたPCに接続されたディスプレイに監視カメラの映像が映される。

 先日模擬戦で使用されたカメラと比べると性能が大きく劣るのが一目で分かるような、低画質の映像だ。

 

 表示されているのは営業時間外と思われる深夜だ。しばらくは動きの無い時間が続いていたが、突然不審な人物が画面端から現れ、画面上に映るショーケースと商品を破壊し始める。

 そして、一通り終わると、何かを盗むでもなく、画面外へと消えていった。

 

「え、これだけ……?」

 空井サキが呆気にとられたように言う。気持ちは理解できる。あの映像だと顔の判別すらできない。これを見て狐坂ワカモの仕業だと断定するのは無理があるように見えた。

 

「そうなのです。それもまた、難しいところで、確かに押し入りがあった事実認定には使えそうですが、この映像をみて何故被害者が狐坂ワカモが犯人だと、しかも初動ではなく途中から言い出したのかが分かりません」

「何それ? めっちゃ怪しくない? なんというか、ワカモのせいにしようとしているというか。案外、襲われた理由も心当たりがあったりするんじゃない?」

 

 風倉モエも指摘する。狐坂ワカモの調査に来たはずだが、またも雲行きが怪しくなってきた。

 

「それと、聞いた話では盗難にもあったということでしたが、この映像だと単に破壊しただけで盗難はされていないように見えるのですが」

「はい、その通りです。実際にはこの映像の後、カメラの死角でも更なる破壊行為を行っており、そして、被害状況の確認のため店を調べていたら、多くの物が盗まれていた、という主張なのです。その盗まれたものというのが……」

 

 続く月雪ミヤコの指摘に対して尾刃カンナは別の資料を取りだす。

 

「こちらです。内容は一目瞭然ですが……」

「これは……銃とか弾薬とか……武器類?」

 リストに書かれていたのは、実銃や銃弾、手榴弾など、キヴォトスの中でなければ許されないようラインナップだった。

 

「ええ……それらの物品を狙い撃ちして盗まれた、と主張しています」

「質屋がブラックマーケット近辺でまともな警備も使わずに武器扱ってたのか? 言ったら悪いが、それ、襲ってくれと言っているようなもんじゃないか?」

 

 空井サキが呆れたようにそう言う。彼女の言う通り、相当な間抜けでもなければ、普通はそのような真似をしない。

 普通はしない、ということは何か裏がある可能性がある。

 

「ええ、その意見は偏見ともいえないでしょうね。あの周辺は学校の自治区外であり、連邦生徒会の力が届かない場所でもあります。そのようなことをわざわざやっているのは、彼らに何かしらのメリットがあるからだと思うのです」

 

 そして、公安局も当然、それを分かって捜査していたのだろう。尾刃カンナは続ける。

 

「しかし生憎のところ、そこまで調べ切る前にワカモの話が出て、捜査は一時中止となりました。正面切って喧嘩でも売られない限りは、上層部は七囚人と関わりを持ちたくないのが本音のようです。嘆かわしいことです」

 

「……ですが、結局捜査はシャーレに引き継がれることになった……ということですよね。そちらの上の方も、それなら問題ないと?」

 月雪ミヤコが話を総合して、そう尋ねる。捜査が中止になった理由が外部からの圧力なのか、ただの日和見なのかで話が大きく変わるからだ。

 

「今回に関しては、そうですね。なので、もし彼らが何か悪事を企んでいた結果、ワカモの名を持ち出しただけなのであれば……彼らにとってあなた達の存在はとんだ藪蛇になってしまうかもしれません。勿論、私は彼らが()()()()()()()()()()()()()()()()()()が」

 

 本当にそう思っているのか分からないが、公安局局長は最後に一応そう付け加えていた。

 

「……分かりました。結果がどうだったにしろ、公安局の皆さんが納得のいく説明が出来るよう、こちらで調査を続けさせてもらいます。その被害を訴えているお店の名前を教えてもらえますか?」

 

 事前に受け取ることの出来る情報は粗方出尽くしたところで、捜査状況の引継ぎの話になる。

 

「『()()()()()』 という店ですね。連絡先と先ほどの動画や、見せられる範囲での捜査資料を合わせて後程お送りします。よろしくお願いします」

「ありがとうございます」

 

 

 そしてそれも終わり、我々は一度シャーレへと戻った。ブラックマーケット近辺へ行くとなると、それなりに装備も整えていく必要もあるだろう。最後に不知火カヤが再び、尾刃カンナに何事か話しており、それに対して苦笑を返されていたのが少し気になった。

 

 ―

 

「それにしても、思ったより大変そうな話になったな。何というか、こっちはワカモがやってたってすぐにわかって、捕まえに行く話にでもなるかと思ったのに」

 シャーレの教室に戻った後、空井サキが残念さを混じらせた声でそう言った。

 

「っていうか、むしろ前回のと比べて今回のってワカモ関係無さそうな可能性高そうだよね。あの映像も手際よくは見えたけど、じゃあ、あれが狐坂ワカモなの? っていうと微妙だったし」

 風倉モエが感じた違和感は私も同様に感じた。狐坂ワカモと直接会ったのは一回だけだが、少なくとも私と会うまでの彼女は、あの場にいたもの全員を出し抜いて悠々とシャーレオフィスへと侵入する狡猾さを持ち合わせていた。

 

 そのような人物が、ただの定点監視カメラに気付かずにいるものだろうか。気付いた上で放置しただけの可能性もあるが……

 

「まあ、いずれにしても実際にあって話を聞いてみないと分からないこともあると思います。カンナさんのを疑う訳ではありませんが、公平な視点というのは大事です」

 

 月雪ミヤコの意見も至極真っ当なものだ。怪しいから間違っている、というように世界は回っているわけではない。

 

 そして3人が霞沢ミユの方を見る。視線が集まっているのに気づき霞沢ミユがおろおろとし始める。最近、意図して3人は霞沢ミユにも意見を述べさせたがる傾向がある。

 面白がってやっている側面も無くはないのだろうが、霞沢ミユもまた、意見をあまり言わないだけで、独自の視点を持っている。意見を確認するのも重要なことだろう。

 

「えと……もし、今回の被害者の人が本当は悪い人で……ワカモさんは関係ないと分かったら、どうすればいいのでしょうか」

 霞沢ミユが考えて出した質問も、ある意味重要な質問であった。

 

「そうですね……その場合、今回に関してはヴァルキューレに管轄を戻すべきでしょう。ある程度の証拠を集める位は必要でしょうが、狐坂ワカモが関係ないと分かれば、公安局が捜査を再開する口実も立つでしょう」

 

 連邦生徒会にも影響力を持つ大企業などであればそうもいかないかもしれないが、尾刃カンナの話を信じるなら、今回はそう言う話ではない。こちらは本来の目的である狐坂ワカモに集中する方が良いだろう。

 

「そ、そうですよね……ありがとうございます」

 霞沢ミユが頭を下げた。月雪ミヤコが満足そうにしているのは、どういう感情なのだろうか。

 

 ともあれ、今日はその辺りで解散ということになった。現場訪問は明日に行うということが決まり、彼女たちはその準備をするために戻っていった。

 

 私も、『猫天屋質店』について調べてみることにしよう。少し心当たりもある。私はとある人物に連絡した。

 

 

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