黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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猫天屋質店

 翌日朝早く、RABBIT小隊と共にブラックマーケット近郊へと向かう。

 ブラックマーケット周辺の情報に関しては便利屋等そこを出入りしている者に依頼することはあるが、直接このあたりを訪れるのは久しぶりのことだ。

 

 今回向かっているのはいわゆるブラックマーケットの直接的な区域内ではないが、どこの学校の自治区内でも無いという点においては変わりがない。

 このキヴォトスに於いては、いずれかの学校の自治区内か、D.U.などの連邦生徒会の膝元に店舗を構えるのが普通だ。

 

 それぞれの学校の保護を受けることが出来る上、生徒や、その他住民が多く暮らしているため、顧客も多くいるという当たり前の理屈である。

 

 にもかかわらず、敢えてブラックマーケットの周辺に拠点を構えるのは何故か。理由はいくつか考えられる。

 第一に、ターゲット層がブラックマーケットの住民たちである場合だ。例えばブラックマーケットにはまともな病院が無い。

 ケガ等に耐性のあるキヴォトスの住人と言えど、ブラックマーケットほどの治安と環境の悪さではケガや病気になってしまう可能性もある。そのため需要の高い薬品や衛生材料を高値で販売している業者がいるという話を聞いたことがある。

 

 他の理由としては、自らも表向きに出きない事業を行っている場合があげられる。違法物品や盗品、そして人身の売買。違法賭博の元締めや闇金融など、例を挙げていくとキリがない。

 それらがまともに取り締まられることなく存在する場所こそが、ブラックマーケットだ。トリニティに限らず、多くの学校が出入りを禁止あるいは制限しているのも当然のことだろう。

 

「皆さんは、ブラックマーケットへ行ったことはありますか?」

 

「流石に無いよ。情報収集のために行ったことあるって先輩もいたけど、2度と行きたくないって言ってた」

 空井サキが答える。

 

「私もないです。ですが、今サキも言った通り、SRTでは出入りを完全に禁止されていたわけではありません。行きたいと思ったこともないですが」

 月雪ミヤコもそれに続き、霞沢ミユも隣で頷いていた。

 

 しかし、残りの1人、風倉モエは露骨に私や月雪ミヤコから目をそらしていた。

 

「モエは行ったことがあるの? ……何をしに?」

 隊長が隊員を疑わしい目つきで見る。

 

「いやいや、決めつけないでよ~。行ったことは無いよ、行ったことは」

 手と首を振って誤魔化そうとする風倉モエに追求することはできなかった。

 

「あ……誰かいます……あの建物の裏」

 霞沢ミユが、何かに気付いた様子を見せたのだ。

 

「……誰かというのは誰でしょう? 心当たりはありますか?」

 月雪ミヤコが表情を変えず、足も止めることも無く尋ねる。まだ霞沢ミユが示した建物には少し距離がある。

 

「……誰なのかは分からないけど、一人じゃなくて……複数人。待ち伏せして……襲撃するつもりかも」

 七度ユキノらと特訓した成果だろうか。霞沢ミユはいつものおどおどした様子は影を潜め、冷静に報告する。

 

「心当たりといえば、猫天屋質店の店主にアポイントを取ったくらいですね。どういう反応を示すかと思っていたのですが、もしその結果なのだとしたら、熱烈な歓迎をしてくれるようですね」

 隠れている者の待っている人物が私たちではないなどという希望的観測は捨てるべきだろう。

 

「くだらないこと言ってないで、先生は下がってて。集中的に狙われたらめんどくさい」

 空井サキの助言に従い、後ろに回りつつシッテムの箱の戦闘支援アプリを起動する。

 すぐに周辺区域の俯瞰情報が画面に反映される。確かに何者か敵対勢力が待ち構えているのが分かる。だが大した人数ではない。5.6人だろう。

 

「そこに一旦入って裏から爆撃しちゃう?」

 待ち伏せされている場所の手前にある廃墟の裏手を指さして、風倉モエが楽しそうに言う。

 

「流石に先制攻撃はどうかと。変な口実を与えてしまうかもしれません」

「こっちだけそんな常識に囚われる必要ある~? ま、従うけどさ」

 

「ですが、とりあえず敵対行動を取られたら良しとしましょう。ドローンに一発撃たせてから反撃するのはありですね」

 月雪ミヤコが表情を変えないままそう言った。

 

「まじ? ブッパOK?」

「ブラックマーケットでは舐められたら終わりだと聞いています。やってしまいましょう」

 

 こちらを監視している者からすると談笑しているようにしか見えないだろう。月雪ミヤコと風倉モエが先頭になり、建物の裏手へと向かっていく。

 

「なあ、ミヤコが日に日に悪い子になってる気がするんだが、そこんとこどう思う?」

 空井サキが楽しそうに先を行く二人を見て私に抗議するような言い方で尋ねてくる。

 

「さあ。きっと、頼りになる同期や先輩に恵まれたのでしょう」

 そう言うと、くっと霞沢ミユから空気が漏れる音がした。見ると、顔を赤くして手を押さえていた。ひょっとすると、笑ったのだろうか。

 

 裏手に入った風倉モエが手荷物からドローンを取り出した。

 長期間の旅行に行くものでもあり得ないくらいの大きな荷物を抱えていたのは、その中に手持ちの銃以外の火器類とドローンを入れていたかららしい。

 

 いつでも自爆できる準備はばっちりだよ~と笑いながら言っていたが、全く冗談に聞こえなかった。

 

 手筈通り、ドローンが待ち伏せしている人物の付近の空を目立つように周遊し始めた。

 何故か裏手へと行ってしまった我々に戸惑ったような動きをしていた敵影も、流石にすぐにそれに気付いた。動きが少し活発になる。

 

 ドローンはその人物たちを挑発するように飛び回る。そして、暫くも待たないうちに、発砲音がした。気の短い人物が撃ち落とそうとしたのだろう。

 

 その直後、ドローンは反撃を行った。大きな爆発音が響く。とはいえ、高威力の爆弾ではない、激しいフラッシュが見える。つまり閃光弾のようだ。流石に敵の正体が分かる前から本気で戦うのは良くないと直前で理性が働いたらしい。

 

「RABBIT2、制圧するぞ。後に続いて」

 待ち伏せがドローンに気を取られている内に、すぐ近くまで進んでいた空井サキが先陣を切っていく。

 そして、月雪ミヤコとだけでなく、普段オペレーターをこなしている風倉モエもそれに続いていった。

 

 霞沢ミユは近くに残っていた。

「ミユさんは行かないのですか?」

「あ……一応、護衛、です。私なんかじゃ心細いと思いますけど……」

「ああ、すみません。面倒をかけますね……」

 

 よく考えればわかる話だった。私が人質に取られる可能性もあるのだ。風倉モエもそうだが、ふだん前衛に出ない彼女も、私と比べれば、どころかキヴォトスの生徒全体を見ても上澄みの戦闘能力を持っているのだ。普段の様子からは想像もできないことだが。

 

 3人に遅れて戦闘が起こっていた地点に到着すると、既に制圧は完了していた。

 明らかにただの通行人と言い訳できない程度には重武装の集団であり、何らかの目的、というよりは恐らく私の襲撃を狙っていたことは明らかだった。

 

「は……話が違う。何でこんな戦闘慣れした連中が護衛についてるんだよ!?」

 縛られてはいるがまだ元気そうな人物が叫ぶ。特徴的なヘルメットであり、どこかのヘルメット団に所属する者だろう。無論、ジャブジャブヘルメット団ではありえないだろうが。

 

「話とは何のことです? あなた方は私を襲おうとしていたようですが、誰かに雇われてそうしようとした、ということですか。話を聞きたいところですね」

「うっ……」

 流石に失言をしたことに気付いたのだろう。慌てて黙り込むが、月雪ミヤコが銃口を彼女へとむける。

 

 その時、また新たな人物の声が聞こえた。

 

「これはこれは。妙に騒がしいと思って見に来たら……これは一体全体どういうことで?」

 

 そう言いながら現れたのは、和装に身を包んだ猫顔の人物だった。

 警戒するRABBIT小隊の生徒たちに合図をして、私が直接返す。

 

「いえ、些細なトラブルがあっただけですよ。それはそれとして、あなたが……」

「おお、これはこれは。もう到着されておったのだね。この辺は治安が悪くて良くない。おっと、儂が猫天屋質店のオーナー、ニャン天丸だ。よろしく頼むよ」

 

 今回の情報提供者は、白々しくそう名乗った。

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