現在の時間軸において、ゲマトリアとしての私が存在したという痕跡を見つけることは出来ていません。
少なくとも今の私の立場で確認できる範囲では何も見つからなかった、というのが現実です。
アビドスにいる間にいくつか実際に行って調べることが可能な場所があるので、近いうちに行って確かめる予定です。
ゲマトリア自体に関しては、これはあると考えるのが妥当でしょう。
こちらについては、特に派手に動いていたベアトリーチェが活動していた痕跡を発見しています。
ただし、構成員のいずれにも、こちらから連絡を取る手段は現状存在せず、あくまで可能性としての話になります。
ゲマトリアがあると仮定して、私の代わりとなる構成員がいるのか、という話ですが、これについても不明です。
私が先生の立場になったように、何者かが黒服という立場を得ている可能性もあります。
あるいは私の全く知らない構成員がいる可能性もあるでしょう。
そのような存在がいるかどうか、はある意味どうでもいいことではあります。今気にすべき点は、そういう存在がいたとして、それが敵になるのか、ということです。
小鳥遊ホシノに取引を持ち掛けたり、あるいはカイザーに協力したりする人物が私の代わりとして存在している場合、その人物への対策も考えなくてはいけないということになります。
本人からは聞き出すことは出来ていませんが、アビドスの現状について認識を改めた今日以降、近日中に何かアクションがあるかもしれないと考えています。
本日は以前の時間軸で私が小鳥遊ホシノに提案を行った日と同日です。
私は二つの予想を立て、そのうち一つについては予想通りに事が進みましたが、もう片方について、つまり小鳥遊ホシノが誰かに会いに行きアビドスを不在にする、ということにはならず、彼女は私の元へと現れました。その際の会話記録です。
ホシノ:ごめんね、先生。今朝は来れないっていうのは知ってたんだけど……
私:いえ、別件の所用については終わりましたので大丈夫ですよ。何かありましたか?
ホシノ:それがね、私にもよくわからなくてさ。何だか今日は、先生に会わなきゃいけなかった気がして
私:それは……
ホシノ:うん。変な話だよね。前にさ、先生と初めて話したとき、前にも会ったことが無いかって言ってたでしょ?
私:確かナンパじゃないかと仰って躱されましたね
ホシノ:う、そうだけど。あの時はごめんね。
私:気にしていませんよ。続けてください。
ホシノ:うん。それで、今日は先生と何かお話をしなきゃいけないような気がしたんだ。そんな気がするとしか言えないんだけど……
私:成程……。不思議な話ですね。
ホシノ:だよねー。あはは、何なんだろ。
私:直感、あるいは前世の記憶という可能性もあるでしょうか。
ホシノ:えっ、先生も冗談とかいうんだね。
私:私を何だと思っているのですか?
ホシノ:あはは、ごめんね。……先生、この前、借金の借り換えの話をしてくれたでしょ。
私:ええ、しましたね。
ホシノ:頭では、受けた方が良いと思ってるんだ、私は。でも、どうしても信じきれないっていう気持ちが出てきちゃって……、それを言うことが出来なかった
私:……ホシノさんの意見が出れば、賛成にしろ反対にしろ大きな意味を持つでしょうからね。慎重なのは良いことです。
ホシノ:うん、ありがと。……先生、信じても良いんだよね?
小鳥遊ホシノの話は、以前の時間軸と記憶が混線している、あるいは本人も時間遡行をしており、それを覚えていないという可能性すら考えられる内容でした。
しかし、この時の私はまた、あの『使命感』のようなものの影響を受け、その考察へと思考を割くことが出来ていませんでした。
私:……誤解なきように言っておきます。ホシノさん、私は悪い大人です。
ホシノ:え?
私:目的のためなら手段を選ばない、外道と言われても否定しようのない選択を取ったこともありますし、それを後悔もしていません。
ホシノ:……
私:ですので、ホシノさんが私を信用しないのは当然といえますし、助言を与えるとするなら、あのような提案を受け入れることには常にリスクがある、ということです。
ホシノ:せ、先生?
私:私は裏表のある人物です。その上で、ですが、あの提案自体に一切の裏はありません。アビドスの生徒たちの状況を改善するための提案です。皆さんでよく話し合って、考えてください。
ホシノ:……うん、ありがとう。先生は悪い大人だってことは覚えておくよ
私:そこですか。
ホシノ:あはは。……
私:さて、ホシノさん。よければ食事でも行きませんか
ホシノ:えー、先生と?
私:はい。ですが、そろそろ皆さんも揃っていると思いますので
ホシノ:みんな? あ、紫関ラーメンだ
私:正解です。
記録はここまでです。
考えるべきことは多くありますが、今のところは小鳥遊ホシノに接触しているゲマトリアの構成員はいないと考えて良さそうです。