黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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選択 File1

「昨日は徒労に終わった感じがありますが、今日からは最後に残ったファイルを調べていきましょう」

 

 猫天屋質店に向かった行った日の翌日、三度集まったRABBIT小隊が、日を開けず調査を再開した。

 

 改めて、ファイルの内容を確認する。

 

 File① 「謎のお面の生徒に襲われました」

 情報提供者:百鬼夜行陰陽部

 場所:百鬼夜行自治区

 情報:百鬼夜行内の山道にて、お面をつけた女生徒と思われる人物に襲撃された。犯人は直前に買ったばかりの菓子類(羊羹、饅頭)を強奪し、逃走した。と陰陽部に通報があった。現在治安維持を務めている百花繚乱紛争調停委員会が活動停止中のため、シャーレに調査願いたい。

 

 

「うーん……最後に残っただけあって、ちょっと微妙じゃない? 仮面つけてるとは書いてるけどさ……お菓子強盗だよ? 実はお菓子が大好物とか?」

 風倉モエがイメージとの乖離を語る。

 

「まあ……そうですね。でも、トリニティの時のように事情を聞けば何か分かるかもしれませんし。ただ、気になるのは場所が百鬼夜行内だというところです。先生、狐坂ワカモって……」

「ええ、現在は停学中ですが、百鬼夜行連合学院の生徒です」

 

 月雪ミヤコの確認に頷く。かといって、彼女の目撃情報が百鬼夜行自治区内に偏っているわけではなく、寧ろ少ないのだ。彼女の素性を知っている人物が多いのも影響しているかもしれないが

 

「ですよね。……まあ、ここで話していても情報は増えないと思いますので、予定通りですが、とりあえず行ってみましょうか。百鬼夜行へ」

 

 月雪ミヤコがそう言って、その場の全員が同意す。る一同、百鬼夜行に向かって出発した。

 

 ──

 

 私にとっても、先生になってから2度目の訪問だ。前回は予定外の訪問だったのと、時間もあまり無かったため百夜堂への訪問のみだった。生徒会組織である陰陽部への訪問は初めてのこととなる。

 そういえば、ニャン天丸……猫天屋質店の店主についての話を、どう河和シズコに伝えるべきか……

 

 百鬼夜行に到着し、百夜堂の前を通りがかったとき、そのことが気にかかり、つい店舗の中を覗き見てしまった。

 

「先生、どうかしたのですか?」

 月雪ミヤコに指摘され、残りの生徒たちも私の視線の先の方を見る。

 

「あ、ここ百夜堂じゃん。こんなとこにあるんだねー」

 風倉モエは存在を知っていたらしく、その建屋を写真に収め始めた。

 

「有名なお店なのですか? カフェのように見えますけど」

「学外にも名前が通じる程有名な店のようですよ。一度行きましたが、お菓子が有名なお店です。土産にも適していますね」

 

「お菓子ですか……事件にも関わる内容ですし、後で寄ってみましょう」

 月雪ミヤコは目を輝かせた。周囲を見ると、全員期待しているようだった。

 

「……そうですね。ここのオーナーにも少し用がありますので、陰陽部での用が済んだら行ってみましょうか」

 

 特に拒否する理由も無いので、私は彼女たちの要望に応えることにした。

 

 百鬼夜行陰陽部本館へと到着した。受付にいた生徒に月雪ミヤコが近寄っていく。 

 真面目に受付業務をやっているというよりはただ座って何かをじっと見つめていたその生徒に多少たじろいだ様子を見せながらも、彼女は用件を伝えた。

 

「こんにちは、SRT特殊学園の月雪ミヤコです。本日お会いするお約束をしていたのですが……」

「……んー? あっ…… こんにちは。ここは、陰陽部だよ~」

「……はい、そうですよね。あの、こちらの部長の天地ニヤさんにお会いする約束をしていたのですが」

 

 受付の生徒の調子がずれた挨拶に、月雪ミヤコは動揺しつつ、用件を述べた。受付の生徒はというと

「そうなんだ? ……うーん、ちょっと待っててねー」

 

 と言うとそのまま席を外してしまった。

 

「大丈夫でしょうか……」

 曖昧な返事をした生徒に、月雪ミヤコが心配そうに彼女が歩いて行った先を見つめていた。

 

「お待たせ~」

 暫くして、受付にいた生徒が戻ってきた。

 

「部長は、いなかった~」

 そして再び、そう言って受付に座った。

 

「……いや、それだけですか? 他にどなたかいらっしゃったりは……」

「? ……うん。いるよ」

「え? そうなんですか?」

「うん。私も陰陽部だよー」

「いや、それはそうなんでしょうけど……」

 

 2人の会話が完全に空回りしている。()()()()()()意地の悪いやり取りではないので、小隊の他の生徒たちも面白がって二人の様子を見守っているようだった。

 

「チセちゃん、先ほどニヤ様を探されていたのは一体どういう……」

 暫く二人の会話を眺めていると、別の女生徒が現れた。

 

「あ……カホ。……この子たち、部長に会いたいんだって~」

「……えっお客様ですか!? 申し訳ございません。もしかしてお約束されていたのですか?」

 

 カホと呼ばれた生徒は、困った様子の月雪ミヤコと後ろに控えている私たちを見て驚きの声を上げた後、頭を下げながらそう言った。

 

「ええと、一応。時間帯をお聞きしたところ都合の良い時間に来てほしいと言われたので……あ、先ほどもうすぐ着くとはメールでお送りしたのですが」

 

「さ、左様でございましたか。えーと、申し訳ございません、ご用件は……」

 

 恐らく役職を持つ地位に就いていると思われるその生徒は再度頭を下げながら、申し訳なさそうに問いかけていた。

 どうも連絡は全く行き届いていないようだ。

 

「はい、こちらの陰陽部の部長さんから、とある強盗事件……といいますか、山道で襲撃されてお菓子などを奪われる事件についての調査をしてほしいという話をいただいていまして」

 月雪ミヤコが、ようやく話を聞いてくれそうな人物の登場に安堵した様子で回答した。

 

「まあ、その件でお越しいただいたのですね。とするとひょっとして後ろの方は……」

 その生徒は私の方を見る。

 

「初めまして、シャーレの先生をやっている者です。本当はこちらにも以前からご挨拶に伺いたいと思っていたのですが、遅くなってしまい申し訳ありません。本日は、その事件を調査を行っていただいているSRTのRABBIT小隊の皆さんに同行させてもらっています」

 

 元々百鬼夜行の独特の雰囲気には興味があったのだが、それどころでない状況が続いてしまい、こうして生徒会組織に会う機会が後回しになってしまっていた。今日が丁度良い機会であったのは間違いない。

 

「やはり、そうだったのですね。お噂はかねがね伺っています。すみません、申し遅れました、陰陽部副部長、桑上カホと申します」

 

 彼女もようやく落ち着いたようにこちらに挨拶をした。副部長、つまりナンバー2のポジションだ。役職はあるだろうと思っていたが、ナンバー2ポジションだったようだ。

 

「そして、受付対応していましたのが……チセちゃん、自己紹介はしましたか?」

「ううん。今からするね。私はー、和楽チセ。陰陽部の2年生だよ。よろしくねー」

 

 受付の生徒は2年生だったらしい。あまりそう見えないが、RABBIT小隊の生徒より年齢が高いということになる。身長で言えばそこまでおかしい話ではないのだが。

 

「よ、よろしくお願いします。改めて名乗りますね。私たちはSRT特殊学園のRABBIT小隊で、私が隊長の月雪ミヤコです」

 

「同じく隊員の空井サキ」

「風倉モエでーす。よろしくね、チセさん。カホさん」

「か、霞沢ミユ……です……」

 

 そうしてようやく自己紹介までこぎつけ、本題に入りたいところだが……

 

「それで、すみません。話は聞いていると思いますが、部長の天地ニヤは生憎外出をしておりまして……詳しい話については本人からでないと……」

 

 やはり、話はあまり通っていないらしく、すぐには本題に入れないようだ。

 

「そうですか……仕方ありません。こんなお昼直前に訪問したこちらも悪かったと思います。暫く外で時間を潰していますので、連絡が取れればご連絡いただけたりしますか?」

 

 怒るでもなく、月雪ミヤコがそう言った。実際、連絡したとはいえ、急な訪問であったのは間違いない。

 

「左様ですか…… 他の御用がおありなのですか?」

「いえ、そういう訳では……、ですが先ほど百夜堂という有名なお店の話を聞きまして、どうせなら行ってみようかと……」

 

 少し照れながら、月雪ミヤコは返事をした。

 

「まあ、そう言うことですか。是非行ってみてください。部長が捕まれば、そのまま百夜堂に向かうよう伝えておきますので、申し訳ありませんが気を長くしてお待ちください」

 

 桑上カホはその様子に微笑んだ後、私たちにそういって再度頭を下げた。

 どうやら、先に私の用事を済ませることになりそうだ。

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