百鬼夜行への調査に行った翌日。3つのファイルを調べ終わったRABBIT小隊が、情報をまとめるために集まっていた。
なお、テマに関しては相談の末空井サキと同室、ということになったらしい。当分はアリウススクワッドの生徒達と同様、シャーレの施設内であれば自由に過ごして良い、と伝えているが、彼女達のように聞き分け良く過ごしてくれるかは定かではない。
そのため居場所は月雪ミヤコと私とが分かるように衣服にGPSが密かに取り付けられた。
それはさておき、狐坂ワカモの捜索についての話だ。
「まず、順番に調べていった3つのファイルですが、残念ながらどれも狐坂ワカモの現在の居場所を特定できるような情報は得られませんでした」
月雪ミヤコが調査資料をまとめたもを並べながら話し始める。この資料は風倉モエが徹夜でまとめたらしく、起こったことや聞いた話などが時系列順に並べられており、よくできているが、本人は非常に眠そうにしながら参加していた。
「というか、結局ワカモに関係ありそうなのって、最初に調べたやつだけだよな? 片方は狂言強盗、もう片方はテマの仕業だったんだし。殆ど振り出しじゃないか」
空井サキがそれぞれの資料を見比べながら、苦い顔をする。
「確かにそう。こういう、勘違いやウソの情報もたくさんあるはずですよね。情報を募集すると、様々な信憑性のものが来ますが、今回は3つの中であまり関係なさそうなものを最初に選んだはず。でも、それが唯一狐坂ワカモに近いものになったし、あっちの、細かい目撃情報の山の中にすごく重要な情報があるのかもしれません」
月雪ミヤコが指をさした方には印刷された目撃情報の束があった。
「あ~、それだけどさぁ。昨日まとめながら思ったんだけど……、保険金詐欺の話は置いといて、テマちゃんの方は案外関係あるのかもなぁって」
風倉モエが目をこすりながら、自分用に別で用意していたらしい資料をめくっていく。
彼女の主観交じりで、重要性が高そうな順に証言や情報がまとめられている他、メモらしきものが付けられている。
案外デスクワークも得意なようだ。何故か私の仕事を手伝ってもらおうとは思えなかったが。
「えーと……アリウスの子の証言でさぁ、ワカモは黒いお面をつけてたって話だったでしょ? で、昨日二人が戦った怪物……あの絵の怪物なんだけど、あれも黒い仮面だったよね」
黒の狐面。確かにそのように見えた。そして、私が昨日感じていた違和感はそれだったようだ。黒い仮面の話を、私たちは聞いていたのだ。
「あの絵ってさ、歪だったよね。何というか、
「うーん? ……言われてみると、確かにその通りだな。何というか、
空井サキが絵をじっと見て、考察する。風倉モエが頷いて、話を続ける。
「でさ、こっち。あの忍者のイズナが言ってたでしょ。テマちゃんは多分お面が好きでさ、お面被ってて、狐耳がついているイズナを誰かと勘違いしたんじゃない? だから、イズナが話しかけたとき、少しがっかりしたように見えた。近くで見たら流石に
風倉モエの話す推理を、他の隊員たちは固唾を飲んで見守っていた。彼女は相変わらず寝不足の少し気だるげな様子のまま、話し続けた。
「それで~、何だっけ。ああ、そうお面を被ってて狐耳の人って、まさに私たちが探してる、狐坂ワカモの特徴そのものじゃないですか~……って感じ。つまり、テマちゃんの探してる『あねさま』は狐坂ワカモなんじゃないのって……まあ、憶測だけどねー」
風倉モエはそう言うと、欠伸をして小さく笑った。
「……いえ、かなり良い推理のように思えます」
真剣に話を聞いていた月雪ミヤコが、画像の中の怪物が持つ銃を指さす。
「真っ赤な銃身の先が鋭くなっているようにも見えますね。狐坂ワカモの使用する銃はキヴォトスでも珍しい銃剣だったと先輩から聞いた事があります。そうしてみると、この銃、
状況証拠の集まりのような状態だが、テマの探し人が狐坂ワカモである可能性は、実際のところ十分あるとは言えそうだ。
しかしそうなると、天地ニヤは一体どこまで考えたうえで我々に依頼をしたのだろうか。謝罪している間も彼女は一切そのようなことを口にすることは
それはそうと、月雪ミヤコの機嫌は多少回復したようだ。
「うーん……まあ、テマの探し人がワカモだったら、目的が一つになってそれは良いことだけど、結局のところ、ワカモを見つけるという方向性で進展がないのは変わらなくないか?」
そこで、空井サキが現実に立ち返る発言をする。無駄骨ではなかっただけ良かった、という話ではあるが、本来の目的への距離が縮まったとは言えないのだ。
「まあ……そうですね。仕方ありません。こっちの束を地道に調べていくしかないでしょうね」
月雪ミヤコは肩を落として、そう言った。やや落ち込んでいる状態に戻ってしまったようだ。
霞沢ミユが心配そうな顔で月雪ミヤコを見ていた。未調査の情報に関しては、彼女がある程度仕分けしていたようで、いくつかのファイルにまとめられており、彼女もまた、忙しい中で自分の出来ることをやっていたようだ。
その後も暫く打ち合わせが続けられた。全員で一つずつ直接訪問して訪ねに行く方式だと時間がかかりすぎることから、それぞれが手分けして調べ、メールや電話での事前聞き取りを行うなど、効率的な調査をするような方針が決められた。
「では、分担はこんなところでしょうか。モエも徹夜明けで疲れているみたいですし、今日のところはいったん解散としましょう。先生も、よろしいですか?」
月雪ミヤコが最後にそう言って、打ち合わせは終了となった。連日の遠征で疲れがたまっているところだろう、ということで、今日はこの打ち合わせだけで臨時の休息日にするらしい。
空井サキと、風倉モエが、教室を出ていき、霞沢ミユも少し後ろを気にしながら、それに続いた。教室には、月雪ミヤコだけが残った。彼女は調査資料を眺めていたが、その様子は少し落ち込んでいる、あるいは不満があるように見えた。
「先生、テマの事なんですけど……」
深刻そうに、彼女が話を切り出す。やはり、残っていたのは私に話があったようだ。
「何かありましたか?」
「それが……実は……テマが私よりサキの方に懐いているみたいなんです! 部屋もサキと一緒が良いって言うんですよ!? 」
「はぁ」
そこまで深刻ではない、というかどうでもいい話だった。
「何が原因なのでしょう」
「それは……サキさんはテマにお菓子をあげましたが、ミヤコさんは彼女に本を返さなかったからではないでしょうか」
「やっぱり、そうですよね……」
どうやら、落ち込んでいたのはそれが理由らしい。紛らわしいとは思ったが、彼女にとっては重要なことなのだろう。恐らく
「何というか、先生のように上手くいかないです。私には突出した技術が無いですし、知略とかそういった方向で活躍できないかと色々考えてみたんですが、結果ユキノ先輩は怒らせてしまったし、テマは泣かせてしまいました」
基本的に相手を騙しているのだから、それは普通のことではあると思うが。しかしそういったことが分からない程に、彼女は今まで人を騙すことに慣れていなかったのだろう。月雪ミヤコは俯いている。
「嫌われる覚悟が無いのであれば、相手を騙すなどというのは控えた方が良いと思いますよ。もっとも、ユキノさんは後輩の成長を喜んでいない訳は無いと思いますし、テマにしても、ミヤコさんに懐いていない、ということは無いでしょう」
実際、嘘つきと月雪ミヤコを罵倒してからも、テマは彼女と楽しそうに会話をしているように見えた。あの場でテマの心に初めて寄り添ったのは、彼女であることに間違いは無かったのだ。
「ですので、これから先どうするかはミヤコさん次第です。陰謀や策謀を自分の力にしたいというのであれば、協力できることはあるでしょうが、推奨はできませんね」
天地ニヤ程とは言わないが、せめて不知火カヤ程度には裏表を使い分けられるようにならなければ、ストレス過多になってしまうだろう。
「……はい。よく考えてみます。励ましてくれて、ありがとうございます。私も戻りますね」
あまりそうした覚えは無いが、月雪ミヤコは私に礼を言って去っていった。とりあえず、受け取っておこう。
そして、それから数日間、肝心の狐坂ワカモの捜索に関しては、これといった有力な情報を得ることはできなかった。
そろそろ、SRT編も終わりが近いです。