黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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狐坂ワカモの襲来

 数日後の夕方遅く。もう夜と呼んでも良い時間帯になって、現状報告のためにRABBIT小隊の生徒たちが再度集まっていた。

 

 今日は先ほどまで彼女たちそれぞれが調査を行っていたのもあり、終った者から事務室へと来てもらっていた。

 

「やっぱり、有力な情報はなさそうですか」

 

 月雪ミヤコは数日前から進展がない状況にため息をついた。無理もないことだ。

 

 

「実際、詳しく聞いてみたらヘルメット団だった、とかがすごく多いんだよな。一番情報元として多かった百鬼夜行なんて、お面の集団が沢山いるみたいで、もうよくわからなかったし……覆面水着団だっけ、珍妙な名前の組織の噂とかもあったけど」

 

 空井サキが愚痴を吐くように言う。ここで覆面水着団などを念入りに調べられても無関係なうえに藪蛇になっていた可能性があるため、コメントは差し控えておくべきだろう。

 

「あ……でも、まったく意味がないわけでもなくて……お面というのがガスマスクだというのが分かったケースもあったので……」

 

「あー、アリウスの逃走者じゃないかって話になったやつだよね。あれは先輩に投げたケド」

 

 霞沢ミユの報告に、風倉モエが補足する。本件は現在アリウスについての広域調査を行っている2年生のスカウトチーム(HAMSTER小隊)に担当が移されてた、と報告を受けている。

 

 

「あっ、……これもワカモさんの情報につながる話ではなかったですよね……ごめんなさい」

 

 霞沢ミユが申し訳なさそうに言う。

 

「落ち込む必要ないですよ、ミユ。そもそも、何かしらの成果をあげられた調査ってそれだけなんだし。……はぁ」

 

 月雪ミヤコが再度ため息をつく。まだ数日のことではあるが、先が思いやられるのだろう。 

 

 目撃情報が本物であったとしてもそうでなかったとしても、現実的に狐坂ワカモの足取りを掴むのは困難を極めている。

 何せその情報は、まさしくキヴォトス中に拡散しており、情報が全く出てこないところは、アビドスのような極地くらいのものといえた。

 

「ご報告ありがとうございます。重要な情報は残念ながら見つからなかったようですが、それはそれとして。皆さんが追跡しているという情報が拡散されるだけで意味はありますよ」

 

 確実性のあるわけでもない話だが、私はそう考えていた。

 

「え?」

 

 生徒たちが不思議そうな顔でこちらを見ている。

 

「まあ、一般論です。さて、皆さん今日もお疲れさまでした。もうこんな時間ですし、食事でもいかがですか?」

 

 詳しい説明はせず、そう提案する。彼女たちにも多少息を抜く時間は必要だろう。

 

「えー、また先生の奢り? やった~」

 

 風倉モエが即座に食いつく。空気を変える意味もあるのかもしれない。

 

「ちょっとモエ。……良いのですか?」

 

 一応窘めるポーズはとるが、私にそう尋ねる月雪ミヤコの目にも期待が浮かんでいた。

 

「デリバリーでも注文しましょう。以前利用したことがあります」

 

 以前、ジャブジャブヘルメット団を勧誘した際に利用したことがある。好評だったので、それでいいだろう。もう遅い時間だが、カフェに誰か生徒が残っていれば、その生徒も一緒でも問題ないだろう。

 

 

 ―

 

 

 テマを呼んでくる、と居住区のほうへ向かった空井サキを除く3人を連れ、カフェのほうへと向かう。

 

 

「先生、結局先ほど言っていた一般論というのは何だったんですか?」

 

 月雪ミヤコに聞かれる。別に隠すようなことでもないだろう。

 

「ああ、それは行方不明者の捜索の話ですね。意外と本人は自分が失踪しているなどと考えていないこともよくあるそうなんです。まあ、ある意味当たり前ですが……」

 

 そこまで話したが、私はそこで言葉を止めた。すぐそこまで来ていたカフェの中から、物騒な物音と、怒声のようなものが聞こえてきたのだ。

 

「今の声は……」

 

 聞き覚えのある声だ。すぐに思い出す。

 

「……ユキノ先輩っ!」

 

 月雪ミヤコが走り出す。霞沢ミユと風倉モエも慌ててそれに続いた。

 3人はすぐにカフェの扉の前にたどり着き、そこで中の様子を見て固まった。

 

 少しして私も彼女たちに追いつく。

 

「うわ~、すっごい美人……」

 

 風倉モエが場違いな発言をする。彼女たちにならって、中の様子をのぞき込む。

 

「なぜお前がここにいる?」

 

 剣呑な様子で、七度ユキノは銃を構えていた。そしてその相手は

 

「あら、おかしいですねユキノさん。聞いた話によると、ここは生徒なら誰でも利用してよいと聞いていたのですが……」

 

 同じく銃剣を構えている、その顔に見覚えこそなかったが、それでも、彼女が何者であるかはすぐに分かった。

 

「生徒以前に、お前は指名手配犯だろう。狐坂ワカモ!」

 

 予想通り、七度ユキノは相手をそう呼んだ。

 

 一触即発の雰囲気、七度ユキノはかなり警戒と緊張をしているように見えた。当然だろう、相手は連邦生徒会長と小隊全員で過去に戦った相手なのだ。

 

 RABBIT小隊の生徒たちもかなり緊張していた。どうやって七度ユキノに加勢しようか考えているのかもしれない。

 

 だが、そのようなことは不要に思えた。彼女の、狐坂ワカモの目的は私にとって明らかだった。

 

 RABBIT小隊の生徒たちを避けて、室内に入る。

 

「カフェ内では戦闘行為は禁止ですよ、ユキノさん」

 

 気が立っている七度ユキノに声をかける。ルールはルール。守ってもらう必要がある

 

「先生!? 危険ですっ、前に出ないで……っ!!?」

 

 七度ユキノが私の登場に動揺した一瞬の隙をついたのか、狐坂ワカモが動いた。そしてそのまま私に飛びつくように跳躍し、実際に飛びつくことはなく、2歩手前あたりに着地した。

 

「うふ、うふふふふふふふふ♡ お久しぶりですね、あなた様♡」

 

 そして挙動不審になりながら私を妙な呼び方で呼んだ。

 

「ワカモさんも。銃は降ろしてくださいね。この部屋を使用する上での最低限のマナーです」

 

「はっ、はい! 申し訳ありません」

 

 理由はわからないが、彼女は私の言うことには従順に従っている。とりあえずこちらに危害を加えるつもりのない様子なのは明らかだった。

 

「それで、ワカモさんはどうしてここにいらっしゃったのですか?」

 

「そ、それは……あなた様がこのワカモをお探ししている、とお聞きしまして、居てもたってもいられず!!! あ、あのもしかして、わたくし何か勘違いをしておりましたでしょうか……」

 

 話している途中で、彼女は妙に自信なさげな様子へと変化した。

 

 七度ユキノは驚愕なのか怒りなのかわからない様子でこちらをにらんでいた。後ろを向くとRABBIT小隊の3人は口を開いてこちらを見ていた。仕方ない。

 

「いえ、私も探していたので、間違いではありませんよ。もっとも、主体となって捜索していたのは彼女たち、RABBIT小隊の生徒たちですが」

 

 正直に話す。背後から抗議するような視線を感じたが、事実を伝えただけだ。

 

「まあ……そうだったのですね」

 

 狐坂ワカモは一瞬だけ後ろにいる月雪ミヤコたちのことを見たようだが、すぐに私へと視線を戻した。どうやら彼女たちにはあまり興味がないようだ。

 

「丁度、彼女たちと食事にしようとしていたのです。折角ですので、ワカモさんもどうですか? 彼女たちと話をしてみては」

「先生!?」

 

 七度ユキノが驚きと抗議の合わさった声を出すが、

 

「え、あなた様とお食事ですか!!? は、はい、喜んで♡♡♡」

 

 何故か頬を染めた狐坂ワカモは一旦放置して、後ろを振り返る。

 

「皆さんも、せっかく探していた相手に会えたのです。色々と聞きたい話もあるでしょう」

 

 私がそういうと、恐々とした様子で、3人が入ってきた。テマを呼びに行ったはずの空井サキは、まだ戻ってこないようだ。

 

 

 狐坂ワカモ。七囚人であり『災厄の狐』。危険人物であるという話は重々承知していたが、実際に会った彼女のことを、何故か私の中で警戒する感覚はあまり訪れなかった。

 これは、先生として与えられた使命とは別の感覚であると、私はどこかで確信していた。

 

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