小鳥遊ホシノを連れ、紫関ラーメンに到着したときには既に呼んでいた生徒たちは全員集合していた。
表には「本日貸切」の札が張られている。直前に大将に相談したのだが、快く許可してくれていた。
「くろっ……先生!? 遅かったじゃない。アビドスの子たちも呼ばれたって言ってるけどどういうこと!?」
入店直後、開口一番に陸八魔アルが問いかける。困惑こそしてはいるようだが、正に談笑していた様子で、十六夜ノノミと浅黄ムツキなどこちらに目線を向けた後、すぐに会話を再開し始めるほど馴染んでいた。
「それはこれから説明しますよ。大将、私にもラーメンをいただけますか? ホシノさんも好きなものを頼んでください」
「先生のおごり?」
「もちろんです」
「じゃあ、特製ラーメンにしよっかな~」
小鳥遊ホシノに動じた様子はない。というのもここに来るまでに誰がいるかも含め、凡その事情を伝えていたからだ
「ラーメンが来る前に簡単に紹介だけしましょうか」
席に着き、私がそういうと全員の視線が集まる。座席の間取りも少し話しやすいように大将がアレンジしてくれたようだ。
「アビドスの皆さん、彼女たちは便利屋68。アビドスに来るに辺り、私の護衛も含め、様々な依頼をしていた私の協力者です」
陸八魔アルが律儀に頭を下げる。伊草ハルカは慌ててそれに倣うが残り2人は静観している。
一方のアビドスの生徒たちはというと、
「そ、そんな……酷いじゃない先生!」
黒見セリカがこちらを糾弾するように叫ぶ。無理もない。
隠し事をしていた以上、それを明かせば信頼関係に支障が出るのは想定済みだ。
「この人たち、ご飯も食べられないほど困窮していたじゃない! そんな安いお金で働かせてたの!?」
私の考えとは違う理由で憤っていたらしい。陸八魔アルに顔を向ける。
「ち、違うのよ黒見さん! あれは不幸な偶然が重なって偶々お金が無かっただけで、先生にはとてもよくしてもらっているわ!」
陸八魔アルが慌ててフォローすると、何だそうなの? と黒見セリカが席に着く。
「ちょっと待って。気になることがある」
今度は砂狼シロコが手を挙げて発言する。大真面目な表情だが、良い予感はしなかった。
「どうぞ、砂狼さん」
奥空アヤネが唐突に仕切り始め、いつもの会議の雰囲気になり始める。
「先生は、こっちに来た日に遭難してた。この人たち、本当に頼りになるの?」
「何よそれ!?」
砂狼シロコの疑問もまた、私の予想したものではなかった。これにも陸八魔アルが動揺している。
「彼女たちに直接会ったのはこちらに到着してから暫くしてからなので、遭難しかけた責任はありませんよ」
「ん。ならいい」
聞きたいことは終わったらしい。続く者はいないようだ。
「私に協力者がいたことに関しては、特に思うところはないのですか?」
誰も指摘するものがいないので、念のためこちらから確認する。
「正直、身一つで来られる方が心配になると言いますか、そういう方がいて安心しています」
奥空アヤネがそう言い、残りの面々も頷く。そして隣で静観していたホシノが口を開く
「それにさ、先生。セリカちゃんを助けるために使ってた車、この子たちが用意してくれたものなんでしょ? だったらむしろありがとうだよ」
「そ、そうね! あなたたちも、私の命の恩人みたいなものよ! ありがと」
黒見セリカがそれに続いてお礼を言い、その場が収まる。特に異論はなく、受け入れているようだった。
「そうですか、わかりました。では、本題に入りましょうか、と言いたいところですが……」
「おう、その前に腹ごしらえにしないか? この子たち、全員が揃うまで待ってたんだぜ」
大将がラーメンの完成を伝え、先に早めの昼食を済ませることになった。準備が幸いして、まだ時間の余裕はある。
「さて、本題に入ります。便利屋68の皆さん、事情をお話いただけますか?」
食事を終え、一通り自己紹介も済ませたところで便利屋に話しかける。
「ええ、カヨコ。お願い」
陸八魔アルが鬼方カヨコに話を振る。説明は彼女が行うようだ。
「うん。先生の依頼でゲヘナとの境界辺りを監視してたんだけど、今朝、ゲヘナ学園の風紀委員会が部隊を引き連れてこちらに向かってきているのが分かった」
アビドスの生徒たちが息を飲むような顔をするが、鬼方カヨコは気にせず続ける。
「名目は恐らく、私たち便利屋68の確保、だと思う」
「え、あなたたち犯罪者なの?」
思わず黒見セリカが質問する。
「……指名手配されていることは事実だね」
「ブラックマーケットに出入りするだけで校則は違反しているでしょうね」
ここで追及に時間を取られるわけにもいかないため口を挟む。彼女たちの指名手配とそれは全く関係ないが、黒見セリカはそれで誤魔化されてくれたようだ。
「それで、進行速度から考えると大体あと1時間半くらいでこの辺りまで到着すると思う。簡単に言うとそんなところかな」
「ありがとうございます。つまり、それを何とかしなければならないということで、皆さんに集まってもらいました」
話し終わったのを確認し、あとを引き継ぐ。アビドスの生徒たちは顔を見合わせている。
「先生。それってこの人たちにアビドスから出て行ってもらえればすむ話じゃないの?」
「風紀委員会の目的が本当に私たちだったら、そうだね。でも……」
砂狼シロコの疑問には鬼方カヨコが答える。
「本当の狙いは、
アビドスの生徒たちが息を呑む。
「ま、まさか、そんなことありえるんですか?」
「ゲヘナの行政官はそういうことを考える人物だと思う。それに、そういった理由でもなければあなたたちに無断で越境して捕まえにくる意味が分からない」
アビドスの生徒たちが一度沈黙する。
鬼方カヨコの言葉には説得力があり、それを感じ取ったようだった。
「さて、対策を取る必要があることは分かっていただけたと思うので、具体的な作戦を立てることにしましょうか」
以前の時間軸において、小鳥遊ホシノが私と面会していたことにより、風紀委員会への対応が遅れたことは分かっていた。
今回に関しては小鳥遊ホシノが準備万端の状態でこちら側にいる上、便利屋68の完全な協力体制が得られている状態で空崎ヒナ不在のゲヘナ風紀委員に敗北する道理は無い。
そのため、作戦会議に関してはこちらが口出すことはなく、静観を決め込んでいたのだが、対策会議と同様の雰囲気で進む作戦会議は、あらぬ方向に進んでいき、最終的にはメインプランとサブプランの2通りの作戦が立てられることになった。
サブプランに関しては特に異論はなかったため、私はその作戦に反対することはなかったが、
「じゃあ、一旦大将と先生は店の外で待っててくださいね☆」
会議の結果、大人二人は店から追い出されることとなったのである。
「なあ、先生。女子高生ってのは元気なもんだなあ」
「ええ、最近私も本当にそう思うようになりました」
そして、私と大将は暫く大人の雑談を嗜んだ。