「つまり、ワカモは新しくこの同盟の仲間になった! ということですね?」
現れた天童アリスに簡単な経緯を説明すると、彼女なりの理解で話の内容をまとめた。
そこで、そもそも本人の意志は聞いていないことに気づき、狐面ワカモの方を見る。
「あなた様の勧誘ということであれば拒否することなどあり得ませんが、そもそも……この同盟は何をするところなのでしょう?」
彼女はもっともな疑問を口にした。そもそも誰もそれについて説明していなかった。
「基本的には自分自身の『記憶』や『過去』について分かったことがあれば報告する、という程度ですね」
発端は、ただ偶然集まったメンバーに、特殊な事情が重なっていた、というだけのものだ。そしてこのメンバーの間であれば私は何にも縛られることなく、自分の事情と現状を話すことができる、という副次的な効果もあるが、今のところ、大した活動はできていない。
「後は、夜にアリスがゲームを配信したり、お話したりしてしています!」
天童アリスが楽しさを前面に押し出すような笑顔で補足する。そういったことに参加することは殆どないが、結構な頻度で通話を行っているのは認識していた。
「こんなふうに集まるのもそう気安くはできないからね。それぞれ、立場や自分の仕事というものがある。特にアビドスは少し遠いのもある。それでも、普段あまり関わることの無かった友人と夜の会話を楽しむというのはなかなかに、刺激的な経験とも呼べるね」
「楽しいんだけど、つい夜更かししちゃうこともあるから寝不足には気を付けなきゃだよね~……」
百合園セイアと、小鳥遊ホシノがそれぞれ肯定的と取れる発言をする。彼女たちは自然に、親睦を深めているらしい。
「なるほど……とっても楽しそうではありますね。ただ、……そのような空間に私が入っても良いのか、ということは気になりますね。先生や、『セイアちゃん』に迷惑をかけるようなことは本意ではありません……」
狐坂ワカモはそう言って目を伏せた。天童アリスと小鳥遊ホシノは目を見合わせる。あまり彼女のことを知らない二人にとって、何を言っているのか理解できていないのだろう。
「存外、そういうことを気にする性質なのだね、君は。聞いていた話では破壊的な享楽主義者だ、とのことだったが、とてもそうは見えない。まあ、初対面のあれこれで多少変わっているな、とは思ったが」
そして、百合園セイアはそう口にした。驚いているようにも、諭しているようにも見えた。
「……そうですわね。先生とお会いする前は、確かに、そういった側面があったのは否定してません。今も、それが無くなった、と言い切ることはできませんが、先生とお会いした時、わたくしの中の様々なものが砕け散ったような感覚に陥いりました。そして先生のことをはっきりと思い出して、その他のことへの興味が、凄く薄れていたのです」
あの時の言動はそういうことだったらしい。
「ですが、そのグループでお話したりする、というのが興味深いというのは、本当なのです。以前のわたくしならきっと殆ど興味がない話だったのもまたその通りですが、今のわたくしは、それを本当に楽しそうなものだ、と『知っている』ような感覚があるのです。不思議なことですが」
そう言って、狐坂ワカモは微笑んだ。その笑顔は、私が彼女の質問に答えられなかったときのものに似ている気がした。
「ふむ……。二人はどう思う?」
百合園セイアが、話を聞いていた二人に話を向ける。
「それは、ワカモと一緒に何のゲームをするのが良いか、と言うお話ですか? そういう時、アリスにはおススメのゲームがあります!」
「うへ~、アリスちゃん。それって、アレのことだよね? 確かに人生の価値観を変える可能性は感じたけど、おじさんは暫くあの画面見たくないかも…… まあ、ワカモさんもさ、嫌じゃなかったら入ったらいいんじゃない? 何かしなきゃいけないってことも無いし、身の回りに起こった不思議なことを共有できる秘密の相手ってほら、何となくわくわくするでしょ?」
既に仲間になっていることが前提の天童アリスと、諭すような言い方をする小鳥遊ホシノ。
「まあ、もしご自身の状況のみが懸念点なのであれば、それに関しては心配不要と言っておきますよ、ワカモさん。この集まりは私が主宰していることになっていますので、私が責任を持ちます」
「え、ええ!???♡♡♡♡ そ、それは、そ、その……あ、愛の告白と受け取ってもよろしいのですか!!?」
「よろしくありませんね」
「そ、そうですよね……」
咄嗟に拒否してしまったが、良かったのだろうか。狐坂ワカモは打ちひしがれているように見えた。
百合園セイアは突然に豹変した彼女を変な生き物を見る目で見ていた。小鳥遊ホシノは何故か少し呆れたように私の方を見ており、天童アリスは様子を理解していないのか天真爛漫な様子で笑顔でそれを眺めていた。
「さて、気を取り直して。先生もおっしゃて下さってくださったのでわたくしもこの同盟に参加させてもらいますわね」
しばらく呆然と膝をついていた狐坂ワカモがやおら立ち上がり、そう言って頭を下げた。
「立ち直り方がいっそ清々しいね。まあ、歓迎するとも。初対面から数々の蛮行を繰り出された気もするけれどもね」
微妙に納得しきれていないのか、愚痴をこぼしながらも百合園セイアが微笑んだ。
「よろしくねー。ワカモちゃん? ワカモさん? そういえば、何年生なんだっけ」
「昨年停学になったときに3年生だったので、一応3年生ということになるんでしょうか?」
「え? じゃあ
「わたくしがおばさんみたいな言い回しはやめていただけませんか!?」
「いや~、そんなことは言ったつもりはないんだけど……」
自称おじさんを個人的な理由で拒否する人間を始めて見たが、小鳥遊ホシノは肉体的な部分だけでなく、精神的にもやや幼い部分がある。狐坂ワカモではないが、彼女がおじさんを自称することに気になる部分が私も無いわけではなかった。
「アリスも、仲間が増えて嬉しいです。それと、ずっと気になっていたことがあるのですが、聞いても良いですか?」
「はい、なんですか?」
「アリスが入っていた時、ホシノを抱っこしていたのは何故ですか?」
「……い、いまそれですか?」
天童アリスが室内に入ってきたとき、狐坂ワカモはやや慌て気味で小鳥遊ホシノを降ろしていたが、彼女はそれが気になっていたらしい。
「えーと、あれは先生の検証のため、というか。説明が少し難しいのですが……」
狐坂ワカモが、しどろもどろになりながら私の方を見た。
彼女は、天童アリスや小鳥遊ホシノも含めたこの集団を既に仲間のように受け入れつつあるように見えた。以前、SRTの生徒たちに対しては全く興味があるように見えなかったが。
恐らく、そこには彼女も気づいていない何かがあるのだろう。
いずれにせよ、今後の為にも助け船は出しておくべきだろう。そう思い、天童アリスに事の経緯を説明した。
「なるほど、理解しました。……つまり、私もワカモに抱っこされてみることが、先生の研究のためになる、ということですね!」
説明を聞いた天童アリスは目を輝かせてそう言った。狐坂ワカモの反応次第では、あながち間違いでもない。
「まあ、間違ってはいませんね。ワカモさんの反応があったとしても無かったとしても、参考にはなります」
「あなた様!?」
私が頷くと、天童アリスは抗議のような声を上げた狐坂ワカモに期待に満ちた表情で近づいていく。狐坂ワカモは周囲を見るが、彼女の味方になってくれそうな生徒は存在していないようだった。
狐坂ワカモは観念して両手を広げ、天童アリスは全力でその胸の中に飛び込んだ。
お知らせ
ストックがほぼ消えたので次週からハーメルンでの更新は月火 木土の週4でやっていこうと思います…