黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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白衣の天使と高嶺の花

『先生は本日、シャーレにいらっしゃいますか?』

 

 調月リオとの初めての面会を終えた次の日、彼女ほどではないが珍しい人物からそう連絡があった。同じくミレニアムの3年生であり、何度か接触のあった明星ヒマリであった。

 

 偶然というよりは、何かしらの関係性があるのだと思うが、これはシャーレに訪問してくる、ということだろう。外出の予定は無かったのでそう返信する。

 

 彼女が予想外の人物と連れ立って現れたのは、昼過ぎのことだった。

 

 

 ―

 

 

 もうすぐ到着するという連絡があった後シャーレは車椅子での移動に困るような構造にはなってはいないが、念のため入口付近で待機していると、

 

「こんにちは、先生。直接お会いするのはお久しぶりですね。ミレニアムの高嶺の花、病弱美少女の明星ヒマリの、シャーレ初訪問をお出迎えいただき、ありがとうございます」

 

「こ、こんにちは、先生。私もお久しぶりですね」

 

 いつも通りの自己賛美過剰な挨拶をして優雅に微笑む明星ヒマリは、何故かトリニティの救護騎士団長、蒼森ミネに車椅子を押されながら現れた。

 

「こんにちは、ミネさん、ヒマリさん。珍しい組み合わせというか、お知り合いだったのですか?」

 2人とも、シャーレに直接来るのは初めてのはずだ。特に蒼森ミネは来るという連絡があったわけでも無い。珍しい者同士の気になる組み合わせだった。

 

「いえ、駅の辺りで丁度お見掛けしたので、声をかけたんです。お一人で車いすを使われていたので、何かお力になれるかと思いまして」

 蒼森ミネが答えた。成程、彼女らしい分かりやすい答えだった。

 

「結局、車椅子がトリニティでも見かけないような高品質の物だったので、私の助力は不要だった気はしますが……」

「いえ、どれだけ操作に慣れていても、人の手を借りた方が助かることは多いですよ。それに、トリニティの救護騎士団長がわざわざ声を掛けてくれたのですから、お断りするわけにはいかないでしょう?」

 

 明星ヒマリが悪戯が成功したような笑みを浮かべると、蒼森ミネが目を見開く。

 

「し、知っていたんですか!?」

「ええ、偶然ですけどね? 優しく車椅子を押される感覚は、トリニティ流の救護の真髄を味わうような、素晴らしい心地よさでした」

「そ、それほどでしたか……?」

 

 

 偶然である訳は無いと思うが。明星ヒマリはとりあえず揶揄う相手を見つけて実に楽しそうだ。蒼森ミネは驚いたり照れたりと忙しそうにしている。

 

 

「ところで、お二人は何かここに用事があったのですか?」

 

 話しやすいカフェへと移動し、二人に尋ねる。

 

 明星ヒマリからは予告だけはあったが、用件は特に聞いていなかったし、蒼森ミネは最近の救護騎士団の状況からかなり忙しいはずだ。落ち着いたのだろうか。

 

 

「ああ、それでしたら、先生のお顔を見にきただけですから。無事にここにいらっしゃったので、安心しました」

 明星ヒマリは意味深な言い方でそう語った。

 恐らくは、調月リオと私が接触したのを知り、心配になったのではないだろうか。この二人の関係性を深くは知らないが、全面的に協力しているというような様子では無さそうだった。

 

「……? 先生、また何か危険な目に遭われたのですか?」

「いえ、そう言うことは無いですよ。ミネさんは何故こちらに?」

 

 蒼森ミネに訝し気な顔をされたので話を逸らす。すると、彼女は複雑な表情をした。

 

「その……実はお休みをいただいたので」

「休み、ですか。それはある程度状況が落ち着いた、ということですか?」

「いえ、そういう訳ではないのですが……実は、後輩たちから休みを取るように強く言われてしまい、仕方なく……」

 

 彼女が言い淀んでおり、いまいち状況が見えない。

 

「つまり、ミネ団長はそう言われるほど、休んでいなかったということではないですか?」

 

 明星ヒマリが推理を披露するようにそう尋ねる。

 

「ええ、皆からそう言われました。気付けば、調印式の日から働きづめでしたので……」

「調印式……って、あれから結構経ちますよね?」

 

 明星ヒマリが呆れたようにそう言うが、恐らくはそれ以前、アリウスによるトリニティ襲撃の……つまり、補習授業部での仕事が終わった辺りから休みなく働いていたのだろう。

 

「駄目ですよ、ミネさん。医者の不養生というのは。患者さんにも心配をかけてしまいます」

「はい……返す言葉もありません」

 

 本来の救護対象であるような車椅子の少女から駄目出しをされ、蒼森ミネは落ち込んでいた。

 

「……それで、折角休みをもらったのですが、じっと過ごしているとつい、現場に戻りそうになるので、遠出をしてみようと思いまして、シャーレまで足を運んでみたのです。ナギサ様もこの間訪問されたようで……嬉しそうに語っていましたから」

 

 蒼森ミネは恥ずかしそうにそう語った。

 

「なるほどなるほど、そう言った経緯で、私にも素敵な出会いがあったのですね? 私も、ミレニアムから離れることは滅多に無いのですが、やはりたまには、遠出をしてみるものですね」

 

 明星ヒマリは、そんな彼女のフォローをするようにそう言った。

 

「分かりました。つまり緊急事態であるとか、特別な用事があったわけではなかったのですね。ある意味安心ですが、では、折角なのでごゆっくりお過ごしください」

 

 先ほど蒼森ミネの姿が突然見えた時はやや警戒したが、何かがあったという訳ではないのであれば、それに越したことは無かった。

 

「そう言えば、最近シャーレに保護された子どもがいると聞いたのですが……」

 

 蒼森ミネがそう言った。アリウスの生徒の事である訳が無いので、テマのことだろう。百合園セイアか、阿慈谷ヒフミ辺りから伝わったのか。

 

「ああ、テマさんのことですね。丁度そこにいますよ。呼んできましょう」

 

 カフェの隅で何かしているのが見えたので、テマに近づくと、どうやら何か文章を書いているようだった。

 

「テマさん、ちょっと良いですか?」

「ふあ!? ちょ、ちょっと手前様、これはまだ書きかけなので読んだら駄目ですよぉ!?」

 声を掛けると、彼女は大慌てで紙を隠した。別に興味は無い。

 

「そうですか。いえ、ちょっと来てもらってもいいですか? 会って欲しい方が来ているので」

「え? 手前に? 心当たりがないですよ?」

 

 それはそうだろう。とはいえ素直に立ち上がったので、連れていく。

 

「テマさん。こちら、トリニティで救護騎士団長を務めている、蒼森ミネさんです。こちらはミレニアムの明星ヒマリさん。どちらも3年生です」

 

 元のテーブルに戻り、テマに二人を紹介する。

 

「騎士団!? 何だかわくわくする名前ですねぇ」

 

 テマが目を輝かせる。

 

「初めまして、テマさん。騎士団と言っても『救護』騎士団です。医療や治療などの救護活動を行う部活動ですよ」

 

 蒼森ミネがそんな様子に微笑みながら話しかける。

 

「え? 救護活動?」

「まあつまり、()()()()()()()()()()

 

 よく分かっていなかったようなので補足すると、テマは一転、嫌そうな顔をした。

 

「医者!? 手前は全然病気とかじゃないですよぉ!? まさか注射を打てとかそんなこと言わないですよねぇ?」

 

 注射を刺した記憶など無いのではないかと思うが、彼女は首を振ってそう言った。

 蒼森ミネはそんな様子を慈しむように、そして明星ヒマリはそんな二人を面白そうな目で見ていた。

 

「大丈夫ですよ。注射はありませんし、少しだけ見させてもらうだけですから。……そうですね」

「うぅ……」

 慣れない相手に見られて緊張しているのか、テマは少し居心地の悪そうな様子だった。

 

「ご飯は美味しく食べていますか?」

「た、たべてますよぉ!? 野菜も食べろってサキちゃんがうるさいからちょっと嫌ですけど食べてます!」

 

 答えを間違えると注射でも打たれると思っているのか、妙に必死に回答した。

 

「そうですか。良いことですね。……先生、とりあえず大丈夫だと思います。痩せてはいるようですが血色も悪くありませんし、今は健やかな環境で生活できている、というのが分かりました。ありがとうございます」

 

 蒼森ミネはテマにそう言うと振り向いて、私に頭を下げた。 

 彼女にお礼を言われるようなことではないが、頷いて受け取っておく。

 

「テマちゃんはお野菜も食べられるんですねぇ。偉いです! うちの後輩なんかエナドリばっか飲んでるんですから……、そんな偉いテマちゃんにはこれをあげましょう」

 

 そして、その横で明星ヒマリは懐から何かを取り出して渡していた。飴玉のようだ。それも、百鬼夜行のそれこそ百夜堂で売っていそうな昔ながらの飴玉だった。

 

「わぁ! 良いんですかぁ!? 綺麗な飴ですねぇ! 手前、こういうお菓子も好きですよぉ」

 

 そして、テマは百鬼夜行のお菓子が大好物であり、彼女の好みにうまく合致したようだ。

 

「本当ですか!? 実は私もこういうのが好きなんですが、ウチの後輩にはあんまり受けが良くないんですよねぇ」

 

 そして明星ヒマリも何故か喜んでいた。受けがよくないというよりは、何か別の理由がある気がするが。言及するのはやめておこう。

 

 

 ―

 

 その後は、テマを交えて話をしたり、共に絵を描くなど、平和を象徴するような過ごし方を3人はしていた。

 アリウスとベアトリーチェの件について、決着をつける時が近づいている。その前の、僅かなひとときのことだった。

 

 

 

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