シスターフッドの歌住サクラコを経由しての救護騎士団と、便利屋68の陸八魔アルから、それぞれ保護されたアリウスの生徒と目される写真が送られてきた。
今日はその写真を確認してもらうため、秤アツコと、そしてそれ以外のスクワッドメンバーの全員をシャーレ内会議室に呼び出していた。
「4人揃って呼び出されるの、久しぶりじゃない?」
秤アツコが集まったメンバーを見て、少し嬉しそうに言った。
「ああ、以前集められたときは他の生徒も何人かいたから、アリウスにいた頃、以来だろうな」
錠前サオリが同意して頷く。
「えへへ、呼び出しにあまり良い思い出はありませんけどね……」
「……というかいい思い出自体があんまりないんだけど」
槌永ヒヨリと戒野ミサキはややネガティブなことを言っているが表情はあまり暗くない。口々に話している彼女たちも、最近は共に生活しているSRTとの交流も活発になっている。
錠前サオリが訓練に自主的に参加しているのは特によく見られた。意外なことに、しばしばそこに槌永ヒヨリが参加していたり、狙撃手であるオトギと何か話したりしていることもあった。霞沢ミユも巻き込まれて、二人で悲鳴を上げている姿を見かけたことも一度だけある。
秤アツコは元々七度ユキノとよく一緒にいたのだが、そこにセットで月雪ミヤコがいることが増え、七度ユキノは(尊重はされているものの)奔放な二人に囲まれて、七度ユキノは溜息をつくことが増えたということだ。
そういう意味で、戒野ミサキはあまり積極的に関わっているところは見られなかった。唯一、彼女の胃袋を掴んでいる吉野ニコと話しているところは偶に見かけるが。
しかし、そんな彼女に興味を持った者がいた、同じくシャーレに住む謎多き少女、テマだ。どこか厭世的、退廃的な雰囲気を持つ彼女に惹かれたのだろう。偶にカフェに現れる彼女に纏わりついて何やら聞いている光景が見られた。
戒野ミサキはそういった人物があまり得意ではないのではないかと思われたが、これも意外なことに、適当に相手をしているようだった。
子どもの純粋な好意はあまり無下にはできないのだろうか。
―
「それで、どうして私たち集められたのかな? この間の話?」
秤アツコが私に尋ねる。この間のこと、というのは調査報告会の事だろう。
「ええ、それにも関連しています。新たに保護された生徒の話があったと思いますが……その生徒と、他にもう一人、とある組織に保護された生徒の写真を入手したので、皆さんに見ていただきたかったのです」
「とある組織、って何それ。学校じゃないの?」
戒野ミサキに尋ねられる。彼女たちは学校に属している組織ではないのでそういう言い方になったが別に隠すようなことではないだろう。
「ええ、便利屋68という、いわゆる何でも屋を営んでいる組織です。知っていますか?」
「……聞いた事はあるような……」
「ああ……確か元はゲヘナの特殊部隊で、今は学校を辞め、傭兵稼業をやっている……というのは建前で実際には先生の私兵部隊だという噂は聞いた事があるな」
その噂、どういった経緯でアリウスにまで伝わったのだろうか。尾鰭が付きすぎているが、まさかベアトリーチェが伝えた訳でもないだろう。情報の殆どが嘘で出来ている。
「そのような集団ではありませんよ。ただ、懇意にしているというだけです」
言っても仕方ないと思うが、一応訂正をしつつ、印刷した2枚の写真を取り出した。
「こちらがその二人の写真です。アリウスの生徒ということで間違いはないでしょうか」
救護騎士団から送られてきた写真はまだ意識を取り戻しておらず、眠っている状態の生徒のもの、そして便利屋から送られてきたのは困ったような表情を浮かべながら座っている状態のものだった。
4人が写真を眺める。
「うん、二人とも間違いなくウチの生徒だよ」
秤アツコが代表して回答した。他のメンバーも頷いている。
「念のためですが、調印式への襲撃に関わっていた生徒ですか?」
「ううん、関わっていない……はず。勿論、ベアトリーチェが直接何か指示を出していた可能性は無くは無いと思うけど……」
秤アツコが首を振る。やはり、便利屋に保護された生徒も作戦参加者ではなかったようだ。
「では、作戦に参加していなかったとして、彼女たちがアリウスの外で見つかった、というのは、何か理由が考えられますか?」
私は、保護された生徒が秤アツコのことを探していた、という情報を敢えて明かさずに、追加で尋ねた。
四人は顔を見合わせた後、暫く考え込んだ。
「一つは、マダムが……ベアトリーチェが送り込んできている、という可能性だろうな」
暫くして錠前サオリがそう言った。
「うん……彼女が何か交換条件をつけるか脅すかして、何かをさせようとした可能性はあると思う。でも、あの日作戦に参加してなかったのは、割と戦力外だったのも多いから……」
戒野ミサキが同意しつつ、補足を入れる。
「ちょっと言い方悪いよ、ミサキ。……でも、そうだね。この二人はあんまり体調良くなかったと思うよ。だから、どうだろう。ベアトリーチェが何かをさせようとした、というよりは……」
秤アツコが戒能ミサキを窘めつつ、自分の考えを述べ始める。
「『誰か』が逃がしてあげている、と考えることもできる。そうだとしたら多分……」
誰か、といいつつ、秤アツコは特定の人物を思い浮かべているようだった。私にも心当たりが一人存在した。
「梯スバルさん、ですか?」
私が尋ねると、秤アツコは少し驚いて目を丸くした。
「知ってたんだ? ああ、マイアから聞いたのかな」
「ええ、その通りです。聞いていた人物像から想像しまして」
そういうと、彼女は頷いて、そして表情を暗くした。
「やっぱりそうなんだ。でも……もし、そうだとしたらアリウスの状況は相当悪い、ってことだと思う。スバル先輩が、皆を外に逃がさなければならないという決断を下す、なんて」
「ああ、そうだな。スバルは、外の世界に救いがあると信じているタイプではなかった。最も、私も含めて殆どはそうだったとは思うが……」
そのような価値観の人間が、後輩をアリウスから逃がしている。とすれば、確かにかなり差し迫った状況である、という推測が出来た。
しかし、どちらにしても、やはり秤アツコを探していた、という点は気になる。やはり、直接聞いてみるしかないか。
「成程、ありがとうございます。それではもう一つ質問があります。こちらの生徒なのですが……」
便利屋に保護された方の写真を差す。
「アツコさんを探しているようなのです。何か心当たりはありますか?」
そう言って秤アツコの方を見た。
彼女はやや戸惑っているように見えた。
「え? 私を? ……うーん、心当たりはないかも」
となると、やはりこれは何かしらの罠の可能性が高いだろうか。錠前サオリの表情も厳しい物となった。
「……でも、私を探してるんだったら、直接会って、聞いてみるのが早いんじゃない?」
「! アツコ、それは……」
「わ、罠じゃないですか? 罠に決まっていると思います!」
秤アツコの提案を、錠前サオリと槌永ヒヨリが止めようとする。
「でも……もしかしたら、重要な情報があるのかもしれない。スバル先輩や、他の子達が危ないかもしれないんでしょ? 会ってみるだけだったら、そこまで危ない事にはならない、でしょ?」
しかし、秤アツコは折れず、そう言って私の方を見た。戒野ミサキは溜息をつく。恐らく止めても意味が無いことが分かっていたのだろう。
「……私自身もあまり推奨はできませんが……そうですね、シャーレに来てもらえるのであれば、という条件付きで、対応することは不可能では無いと思います」
実際のところ、手詰まりになりつつある、というのは事実なのだ。安全対策は万全に行って、迎えてみるしかないのかもしれない。
「ありがとう、先生。サッちゃん、どうしても駄目?」
「…………私も同席する。それと、不用意なことはあまりしないこと」
「はーい……ヒヨリも、ごめんね?」
「い、いえ……えへへ」
結局、スクワッドで秤アツコがこれと決めたことに逆らえる人物はいないようだ。
「じゃあ、先生。手配はよろしくお願いするね」
そう言って、秤アツコは頭を下げた。その髪には、以前贈った髪留めが確りとつけられていた。
あまり気は進まなかったが、その日の夜、私は陸八魔アルへと連絡をした。