陸八魔アルがアリウスの生徒を連れてくる日が決まり、その前日のこと。私はトリニティに訪問していた。
各所に用事があり、加えて地下通路で保護された生徒の様子も気になっていたため、直接出向いたという訳だ。
「でもさ~……セイアちゃんもナギちゃんもずるいよ? 私もシャーレに遊びにいきたいのに!」
トリニティに訪れるときはまずティーパーティーとの打ち合わせから始めるのが定番となっている。今日は3人の生徒会長が全員揃っており、主要な報告をお互い済ませたところである。
そして、今聖園ミカが抗議の声をあげていた。
確かに彼女が最後にシャーレを訪れてきたのは二人よりも以前のことであり、桐藤ナギサはお忍びで現れた際と調査報告会の時で2度来ている。また、聖園ミカは地下通路探索チームに加わっており、歌住サクラコと共に精力的に地下通路の探索を行っていた、とのことだ。
トリニティにおいては、白洲アズサを除けば最も地下通路に詳しい人物であり、彼女がチームに加わるのは自然なものだった。尚、その白洲アズサももちろん、チームには加わっていた。
つまり、聖園ミカのその抗議は間違ってはいない。ただ……
「何がでもなのか不明だが。ミカ。最近行けてなかったというだけで回数で言えば君が明らかに行った回数が多いだろう? それにこの間なにやら楽しそうに電話で話していたじゃないか。あれは誰かと計画を練っているのではなかったのかい?」
百合園セイアの言う通り、最近は『フウカちゃんのお料理教室』のグループチャットが活発になっており、近々次のイベントが開催される見込みだ。
「予定はあるにはあるけど、それはこっちの状況が落ち着いたらって感じだからいつになるかわかんないんだもん」
聖園ミカが唇を尖らせる。しかし、もう一人の、彼女の幼馴染も味方ではないようだった。
「セイアさんの言う通りです。それに私は前回は仕事で行っただけですから。ミカさんもいけばよかったのに、報告の仕事はサクラコさんに任せたのでしょう?」
「い、いやぁー……私って人前に立つだけなら問題ないけどレポートをまとめて発表するとかあんまり得意じゃないからさー……ねっ?」
聖園ミカは誰かに同意を求めるが、誰も彼女をフォローしようとはしなかった。
「……サクラコさんにもお話しましたが、地下通路の調査に関しては、ありがとうございました。SRTの生徒達ともトラブルを起こすことなく協力できたと聞いています」
「あ、うん。えへへ。ユキノちゃんも、他のみんなも良い子だったからね。SRTの子たちってみんなあんな感じなのかな? きっちりまとまっているというか……」
聖園ミカの伝えたい内容は理解できた。SRTの生徒たちは、学生らしい活発さや自由さが無いわけではないが、それ以上に規範を重視し、統率の取れた行動が得意なものが多い。例外はあるものではあるが。
「そうですね、SRT特殊学園はその名の通り、特殊部隊を養成する学校であり、そこに所属する生徒自体が特殊部隊として実際に任務を行っていますから。普通の学校とは少々異なります」
トリニティのような巨大校ではない。特にシャーレ支部として再開されてからは全校生徒数たったの16人だ。実態としては彼女たち全員合わせて一つの部隊のようなものである。
「ほえ~……」
「まあ、このような話はユキノさんに直接尋ねた方が良いでしょう。それはそれとして、念のため皆さんの耳に入れておきたいことがありまして」
この話しはそろそろ良いだろう、もう一つ、彼女たちにしておかなければならない話がある、そう思い、話を逸らす。
「どういった話でしょう?」
「はい。明日なのですが、最近、とある生徒たちからアリウスの生徒を保護したという報告があり、その方と、アツコさんを会わせることになっています」
「へ~……駄目なの?」
聖園ミカに尋ねられる。詳しく説明しないとそうもなるだろう。
「その生徒、というのが、先日地下通路で保護された生徒と同様、調印式襲撃の作戦に加わっていなかった生徒だ、というのです。しかも、その生徒はアツコさんを探していたそうです」
そこまで説明すると、三人の顔色が変わる。
「……いきなり話がきな臭くなりましたね……」
「それって大丈夫なの?」
桐藤ナギサと聖園ミカが難色を示す。
「……先生のことだから、安全には十分注意しているとは思うが、それをどうして私たちに伝えたんだい?」
そして百合園セイアはそれそのものより、私の動機が気になっているようだ。
「もし保護された生徒が他のアリウス生との合流を希望された場合、受け入れてもらうことが可能かどうかの事前確認のため、というのがまず一つですね。それと、何かしら問題が起きた時にこの話を一からする必要が無いように、という理由もあります」
私の返事に、百合園セイアが納得したように頷いた。
「受け入れに関しては、問題ありません。というより問題があったとしても受け入れが出来るように調整は可能です」
そして、桐藤ナギサが彼女に代わって返事をした。
「ありがとうございます。どのような結果になるにせよ、この件についてはまた連絡します」
私はそう言って、次の予定、つまり、救護騎士団の方へ向かう、と告げようとした。
丁度その時、やや慌て気味の様子で部屋に一人の生徒が現れた。
「打ち合わせ中に申し訳ありません。ナギサ様っ!」
「いえ、丁度終わりそうなところだったので、問題ありません。何かあったのですか?」
「は、はいっ、あの、救護騎士団長が至急ナギサ様にお会いしたいと」
どうやら、蒼森ミネが訪ねてきたようだ。何かあったのだろうか。入れ違いにならなくて済んだのは良かったと言えるだろう。
「分かりました。すぐにお通ししてください」
桐藤ナギサはすぐに来客を伝えに来た生徒に返事をした。程なくして同じ扉か蒼森ミネが現れた。
「ナギサ様、お伝えしたいことが……皆さん、おそろいだったのですね。それに先生も」
彼女は急用があったようだが、そこに私がいることに気付き、頭を下げた。
「ミネさん、何かあったのですか?」
桐藤ナギサが尋ねる。蒼森ミネは頷いて、
「はい、実は例のアリウスの生徒の目が覚めまして……」
「本当!?」
聖園ミカが嬉しそうに言うが、肝心の蒼森ミネの表情が暗いままなところが気になった。
「はい。ですが、その……かなりの錯乱状態でして、武装の奪取と脱走を図ろうとしていたので、やむなく再度、眠っていただきました」
どうやって、というところは彼女は言わなかった。想像は容易だが。
「成程、ところで、その方は何か言っていませんでしたか?」
便利屋に保護された生徒は秤アツコを探している、と言っていた。蒼森ミネが驚いた表情になる
「何かご存じなのですか? 実は、『姫に会わないと』と何度も言っていました」
やはり、想像通りの回答が帰ってきた。
後から保護された生徒は、何者かによって、明確な目的を持たされた上で、アリウスから逃がされている。彼女の回答は、その推測を補強するとともに、罠である可能性も高まった。といえるだろう。
先程の私の話を聞いていた三人も目を見張っている。
「姫、というのはアリウスの秤アツコさんのことの可能性が高いです。ミネさん、申し訳ありませんが、その生徒のことを何日か、注意深く見ていてもらっても良いですか?」
「え、ええ……もとより、そのつもりです」
蒼森ミネは困惑の表情になりながらも首肯した。
―
結局、私はその日はその保護された生徒の様子を見に行くのはやめ、そのままシャーレへと戻ることにした。
戻った後、スクワッドのメンバーにそのことを話したが、案の定秤アツコの意志は変わらなかった。
結局、不穏な気配を残し、面会の日を迎えてしまうことになった。