黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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秤アツコの決意①

「シャーレって初めて来たけれど、凄いところね!」

 翌日、予定通りに便利屋68がそろってシャーレを訪ねて来た。陸八魔アルの溌溂とした声が、屋内に響いた。

 

「くふふ、先生この間ぶり~」

「お。お久しぶりです。先生。ご無沙汰しています……」

 

 浅黄ムツキと伊草ハルカが社長につづき現れる。

 

「こんにちは。先生、今日はよろしく」

 そして、見なれない少女の手を引きながら鬼方カヨコが最後に顔を出した。ゲヘナ学園の制服を身につけているが、この少女が保護された生徒だろう。

 

 その少女は私の姿を見て身体を硬直させた後、鬼方カヨコに促され、慌てて頭を下げた。

 小柄な生徒だ。アリウスの生徒は錠前サオリや槌永ヒヨリのような例外を除けば小柄な者が多い。成長環境にも影響しているのだろう。

 

「お待ちしていました。便利屋の皆さん。そして、初めましてですね。私はシャーレの先生をやっている者です。そちらのアル社長は、黒服と呼んでおられるかもしれませんが……」

「はっ、はい。杠(ゆずりは)リツカです……」

「リツカさん、ですね。よろしくお願いします」

 

 二つの時間軸を通しても、全く聞いた事の無い名前だ。もっとも、そのような人物は数えきれないので、気にしても仕方ないだろう。

 

 便利屋のメンバーと杠リツカを面会場所となる会議室へと案内する。念のため、出来る限り人目を避けて行動している。会わせたとき何かが起こらないとも限らないからだ。

 

「それでは、ここでお待ちください。アツコさんを呼んできます」

「は、はい。あ、ありがとうございます」

「お礼は結構ですよ。私は仲介したに過ぎませんので。会うことを決めたのはアツコさんです」

 

 そう言い残し、会議室を出る。

 秤アツコの待つカフェの方へ向かうと、後ろから声がした。

 

「先生、ちょっといい?」

 鬼方カヨコだ。会議室を抜け出して追いかけて来たらしい。

 

「どうかされましたか?」

「……まだ、誰にも言ってないんだけど、これ……」

 そう言って、彼女は懐から何かの機械片を取り出した。破壊されているが、似たようなものを見たことがあった。

 

「これは……機械の残骸ですか?」

「うん……多分盗聴器だと思う。リツカがつけていたガスマスクに着いてた。見つけた時咄嗟に破壊しちゃったんだけど……」

 盗聴器の持ち主が誰であれ、正しい対応だ。しかし、誰が盗聴していたか、というのは問題ではある。

 

「それは、アルさんが私に連絡するよりも前の話ですか?」

「うん、初めに事務所まで連れ帰る間だったから、まだそんな余裕は無かった時。最初はあの子の雇い主がつけたのかな、とも思ったんだけど。違うと思う。これ、ガスマスクの内側にあったから」

 

 ベアトリーチェか、あるいは梯スバルか。誰かは分からないが、少なくともアリウスを出てからつけられたものではないだろう。また、救護騎士団に保護されている他のアリウスの生徒が身に着けていたガスマスクには、盗聴器のようなものはつけられていなかったのは確認済みだ。

 

「恐らくはアリウスでつけられたものでしょうね。非常に助かります。他にはありましたか?」

「うん、身体に埋め込まれでもしていない限り、多分大丈夫だと思う。着ていた物は色々言いくるめて全部処分しちゃったから」

 

 対応がかなり徹底している。その上、私に共有するために残骸だけは手元に残しておいたのか。流石に優秀だ。

 

「ありがとうございます。十分に気を付けることにしましょう」

「あ、でも……」

 

 鬼方カヨコは続けて何かを言いかけて、少し言い淀んだ。

 

「何か、他に気になることが?」

「ううん。そうじゃなくて、その……リツカのことなんだけど。確かに、盗聴器のこともあるし、凄く怪しいとは思うんだけど、それでも、リツカ自身は悪い子じゃないと思う。ごめん、根拠とかはないんだけど……」

 

 はっきりしたことが言えないために、私に話しづらかったようだ。しかし、そういった人の直感という物も、案外侮れないものだ。

 

「ありがとうございます。リツカさんについてはやはり不審な点もあるので、私自身でも判断することにしますが……カヨコさんがそう感じた、ということ自体も、重要な判断材料となるでしょう」

「あ……うん、ありがとう。じゃあ、私は戻って、待ってるから」

 

 鬼方カヨコは少し口元を緩めてそう言い、踵を返して会議室へと戻っていった。秤アツコを待たせている。私は少し足早にカフェへと向かった。

 

 カフェでは、予定通り秤アツコが待っていた。と言っても一人でいた訳ではなく、念のための護衛として呼んでいた七度ユキノと、特に呼んではいないが気になっているのだろう、錠前サオリがそこにいた。

 

「あ、先生。リツカが来たのかな?」

「ええ、便利屋の皆さんと一緒に来られました。挨拶をしましたが、とりあえず、普通に話せそうではありましたよ」

 

 妙な先入観を与えてもいけないだろうと思い、盗聴器のことは彼女には説明しなかった。七度ユキノには、彼女に気付かれないようにメールで説明しておくことにする。

 

「そっか。じゃあ、サッちゃん。行ってくるね」

「本当に、私が同席しなくてもいいのか?」

「大丈夫だよ、ユキノちゃんがいるし、向こうの人も、先生が信頼してる人たちなんでしょ?」

 

 こちら側からは秤アツコの要求で、スクワッドではなく、まずは彼女一人で話したい、ということだった。便利屋のメンバーもいるので、そこまでこだわらなくて良いとも思ったのだが、秤アツコは何故かそう強く要望していた。

 

「ああ、しかし……」

「心配性だなぁ、サッちゃんは……でも、駄目だよ。だって……」

「だって?」

 

 しかし、錠前サオリは納得していないようだ。尚も食い下がろうとする彼女に、秤アツコは首を振って、同席させない理由を告げた。

 

「だって、サッちゃんがいたらリツカが怖がっちゃうでしょ」

「………………そうか」

 

 錠前サオリは暫く思考停止していたようだったが、長い沈黙の後にそう言って俯いた。

 

「あ、サッちゃん落ち込んじゃった。かわいそう」

「何を他人事のように……」

 

 黙って二人の様子を見ていた七度ユキノが思わず口を挟んだ。

 

「だって、サッちゃんって訓練の時とかめちゃくちゃ厳しいんだよ? 自分にも他人にも、だけど。 それでろくにフォローもせずにその辺はスバル先輩に任せちゃうし。そりゃ、一年生に鬼だと思われても仕方ないよ」

 

「…………鬼だと思われているのか……」

「もうやめてやれ。というか私の胸も痛くなってきた……」

「あ、ユキノちゃんもやっぱりそっち系なんだ?」

 

 更に落ち込む錠前サオリと、似たような心当たりがあるのか、顔を顰める七度ユキノを見て、何故か秤アツコは少し嬉しそうにしていた。

 

「まあ、長く一緒にいれば、優しい人だって分かるんだけどね。でも、それとこれとは別問題。ただでさえ胡散臭い雰囲気の先生が一緒にいるんだから、これ以上リツカを委縮させるような空気にはしたくないの」

 

 何故かこちらにも言葉の刃を向けて来たが、秤アツコはきっぱりとそう言った。彼女の意見は変わらないだろう、というのはよくわかった。

 

「…………分かった。先生、ユキノ。アツコを頼んだ」

「了解した」

「ええ。話がまとまったようで、何よりです」

 

 既に来客を待たせているのだから、その辺りは私がここに来るまでに解決してほしかったところではあるが、言っても仕方ない。

 

 ―

 

 秤アツコと、七度ユキノを連れて、会議室へと戻る。

 扉を開けて、3人で中へと入ると、すぐに杠リツカが言葉を発した。

 

「姫……! 本当に、無事だったんだ……」

「久しぶり、リツカ。それ、ゲヘナの制服? 似合ってるね」

 

 想像していたよりも穏やかな雰囲気で、二人の会話は始まった。

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