事前に情報共有を頻繁に行っていたため、二日後という急な連絡に対しても、各組織、勢力は迅速に対応し、翌日にはアリウスに突入する主要なメンバーがシャーレへと集まっていた。
アリウスへと向かう人数は、調印式当日と比べても大人数が予定されていた。
と言っても、一度にアリウスに攻め込むというわけではない。
いくつかの部隊に分かれて順次、アリウスへと突入する予定だ。
各校・勢力に依頼した協力内容は以下のようなものだ。
・トリニティ総合学園
トリニティからは白洲アズサと聖園ミカが前回同様作戦に加わり、そしてシスターフッドのリーダーであり、地下通路探索の責任者であった歌住サクラコも一員となっている。
また、後詰めとして救護騎士団と正義実現委員会も作戦に加わっている。
・ゲヘナ学園
一方、ゲヘナからは突入要員は存在しなかった。情報提供と、手薄になることが想定される治安維持、救護活動についての特例の人材派遣、という形になる。風紀委員の一部のメンバーと救急医学部が派遣されるわけで、つまるところ、エデン条約で想定されるような協力関係の前倒しのようなものだった。万魔殿からも正式な承認を得たというのが大きな変化だろうか。
現在も任務中のためこの場には来ていないが、便利屋68も突入までの警戒に協力してもらっている。
・アリウス分校
スクワッドメンバー全員と杠リツカが向かう。彼女たちには先を切って行動し、ベアトリーチェの気を引くという役割がある。非常に危険なポジションであることは間違いない。また、直接アリウスに行くわけではないが、立木マイアにも念のため、あることに協力してもらっていた。
・連邦生徒会/SRT特殊学園
不知火カヤが言っていた通り、連邦生徒会からは追加の予算が本作戦に投入されることになっており、無線機やドローンなどの追加投入が可能となったが、人員の派遣は無かった。SRTは突入メンバーとして七度ユキノの他、その偵察能力と狙撃能力の高さから霞沢ミユが抜擢された。
・その他
前回とは異なり、人員を割いての警備を行う、ということはしないため河駒風ラブを含めたジャブジャブヘルメット団は今回の作戦には関わっていない。
ただし外部協力者として、今回も小鳥遊ホシノにもアルバイトとして声を掛けた。打てる手は全て打つと決めたのだ、協力依頼に躊躇するつもりは無かった。
そして、もう一人、戦闘要員というより、特殊な役割を頼むつもりの生徒がいた。
というのも、昨夜、話し合いが終わり各所との調整に追われていた最中に、事務室へ一人で現れた秤アツコから、情報提供があったのだ。
~~
「こんばんは、先生」
消灯時間も過ぎたシャーレの事務室に、秤アツコが現れた。
とはいえ、ここでいう消灯時間とはカフェやSRTの物であり、居住区で暮らしている他の生徒達、つまり現状はアリウススクワッドしかいない訳だが、彼女たちの行動を縛る物ではないのだが。
「こんばんは、アツコさん。お一人ですか?」
「うん。今回はね……先生、改めて、今日はありがとう。私の我儘を聞いてくれて」
秤アツコが再び、私に頭を下げた。彼女を作戦に投入することに納得しきれていない自分もやはり存在するが、既に彼女がいる前提での作戦を構築し始めている。
「お礼を言われるようなことではありません。話し合いで、双方納得した結果によるもの、ということになったのですから」
どの口がそんなことを言うのか、と自分に思いながら、そう返事をした。
「うん。ごめんなさい」
「謝ることでもありませんよ。……それを言いに来たのですか?」
そうだとしたら、話はこれで終わりだろう。
「あ、ううん。実は、一個だけ、前から気になっていたことがあるの」
秤アツコが首を振った。どういったことだろうか。
「気になっていたこと?」
「うん。マダム……ベアトリーチェの目的についてなんだけど」
彼女から聞こえてきたのは、予想外の言葉だった。
「……彼女から何か聞いていたのですか?」
「うん。先生は、あの人の目的について、『
誰かから、というか本人から聞いていたのだが、言われてみればB世界での彼女と、今の彼女では目的が異なる、その可能性については、今まで検討していなかった。
「アツコさんが聞いていた話はそうではない、ということですか?」
「うーん……同じかもしれないし、違うかもしれない。でも、私は『崇高に至る』という言葉を聞いた事が無くて、代わりにあの人が良く言っていたのは『
『
「成程、かなり興味のある情報ですね。とはいえ、やるべきことは変わりませんが。ありがとうございます」
「先生の役に立てたなら、良かった。本当は、これを話しに来たの。他の人にはあまり、聞かせない方が良いかなと思って……」
正しい判断だ。しかし成程、これに関しても可能ならば調べる必要があるだろう。
~~
秤アツコから聞いたのは、ベアトリーチェの目的に関することだった。彼女自身が『崇高に至る』ということ『楽園』を作るというのとでは、やはり同じだとは思えない。そこで、私が協力を依頼したのは……
「先生♡ 重要な役目を任せていただき、このワカモ、感激しきりですわ!」
「くれぐれも、自分の安全を最優先してくださいね。危険なものが転がっている可能性は否めません」
「!!! ♡♡! ♡ はいっ♡」
『災厄の狐』狐坂ワカモだった。招集に応じて現れた彼女は、私の依頼に対しそう即答した。
彼女の潜入能力の高さに関しては、並び立つものはいないだろう。そして本人の戦闘能力などを加味すると、アリウスの中で単独行動をしてもらうにあたり、彼女以上の適任者はいないだろう。
精神的な側面で不安が全くないわけではなかったが、私に対して殆ど忠誠心のような感情を抱いていることも分かっている。その辺りも言い聞かせれば、命に関わるような無理はしないと信じたかった。
──
作戦に参加する各員に対し、こちらの計画の説明が終わった。調印式のような完全に準備万端の状態で迎えることは不可能であり、臨機応変な対応が求められることにも注意が必要だ。
アリウスの生徒たちの大半は既に保護されており、加えて「複製」の作成にも失敗しているベアトリーチェは、保有戦力がそう多くは無いはずだ。
しかし、彼女が諦めてはいないことは明白であり、彼女が私の知らない何かを研究している可能性が高いことも明らかになった。
改めて、気を引き締めなければならない。
一人そう考えている私を余所に、シャーレのカフェは明日の作戦などとは関係なく明るい雰囲気になっていた。
誰が言い出したのかは分からない、恐らく聖園ミカあたりだろうが、壮行会と称してパーティーを行うつもりのようだ。この場には直接アリウスへ行くことの無い生徒もそれなりに集まっており、結構な人数が参加するようだ。勿論一部の生徒はそれぞれの学校へと戻っていったが。
明日に影響が出るような時間まで遊ぶようなことが無ければ問題ない。それで結束力を高める、という考えもあるだろう。
そう思い、特に止めるつもりは無かった。