黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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壮行会①

 杠リツカや、便利屋68からの座標情報により判明したアリウスへとつながる通路の現在の入り口は、トリニティの中心部からやや外れた場所にある。

 

 アリウスへ突入するメンバーは小鳥遊ホシノと狐坂ワカモを除けば、トリニティまたはシャーレに拠点を持つものであり、それゆえにこの二人はシャーレに泊まり、明日の作戦に向かう予定となっていた。

 そのことに異を唱えるものがおり、それが聖園ミカだった。とはいっても、もちろん二人がシャーレに泊まることを反対したわけではなく

 

「私もシャーレで泊まってみたい!」

 と言ったらしい。

 

 それがいつの間にか、壮行会という名前になったようだ。

 他のメンバーでは白洲アズサが残っており、歌住サクラコは何やら準備があるということで帰っていった。救護騎士団や正義実現委員会、そしてゲヘナの風紀委員会のものたちはそれぞれの仕事のために帰っていった。

 そしてトリニティ以外では、突入メンバーではないが、明日の早朝からトリニティに入り救護騎士団の支援を行う予定のゲヘナ・救急医学部の部長の氷室セナも残っていた。

 

 他の部員数名もついてきていたはずだが、今は彼女一人だ。数回会っただけのイメージでしかないが、賑やかな雰囲気に自ら参加するタイプとは思えなかったので、実際今も、遠巻きに他の生徒が話しているのを眺めているようだ。

 

「セナさん。こんにちは。今日はお忙しいところ呼びつけてしまい、申し訳ありません」

「いえ、今日は元々非番だったので問題ありません」

「……そうですか。尚の事申し訳ない気がしますが……」

 

 氷室セナは表情を変えることなく返事をした。恐らく本当にそう思っているのだろうが。

 

「こうして、私だけを残して皆仕事に戻ってしまいましたので、今は非番を満喫していますよ。それに、先生には恩もありましたから」

「恩、ですか? 私が何かセナさんにしてあげたことがありましたか?」

 

 本当に覚えが無かった。寧ろ、トリニティとの協力体制を築くにあたり強引に仕組みを作り、それに巻き込んだりと、必要な事だったとはいえ迷惑をかけたという印象しかない。

 

「私をトリニティの現場へと導いてくれたことです。普段、他のやり方を知る機会は多くありませんので。特に今回のした……患者の方たちは、外科治療だけでなく、栄養失調やPTSDなどの内科的、精神科的な、私たちからすると専門外の療法が必要なことが多かったので、大きな知見を得ることが出来ました。ですので、その機会を下さった先生には感謝していました」

 

 意外なことに、彼女が言っていることがまさにその内容だった。成程、彼女は真面目なだけでなく、非常に勤勉な人物なようだ。

 

「つまり、今回の話も自分の意志で受けていますので、本当に気になさらなくて大丈夫です」

 

 そして、気遣いも出来る人物だった。やや物騒な発言をする変わった人物だと思っていたが、本質は同じ医療従事者のミネ団長と近しいところがあるのかもしれない。

 

「そう言っていただけるとありがたいです。ところで、もう一つ聞いてもよろしいでしょうか」

「はい、なんでしょう」

 

「今日は非番だとしても、シャーレに残った理由は何かあるのですか?」

「それは……興味本位です。ここには初めて来ましたし、残られた方も関わったことの無い方ばかりだったので、何となく、ですね。先程も言ったように、満喫しています。それに──」

 

「先生、ちょっと聞きたいんだけどっ……あ、えーと……セナさんだよね!? ゲヘナの救護騎士団の団長なんだっけ!?」

 

 聖園ミカが突然勢いよく声を掛けて来た。隣には何故か錠前サオリが着いてきていた。

 

「ゲヘナに救護騎士団はありませんが……そうですね。立ち位置としては似たものです。救急医学部の氷室セナといいます。よろしくお願いします。……()()()()()()()()、先生と話しかけていれば声を掛けられるのではないかと思っていました」

「え? 何の話?」

 

 聖園ミカが疑問符を上げているが、氷室セナは、特に説明するつもりは無いようだった。

 

「まあいいや、ミネ団長やナギちゃんが、すごく助かってるって言ってたから、お話したかったんだよね! でも、お見舞いでもないのに病院に押しかけたら迷惑でしょ? だから……あれ、サオリは何で黙ってるの?」

 

「ああ、いや。……話には聞いていたが、実際に見ると信じ難いという気持ちがな……」

 

 錠前サオリがやや言葉を濁しつつ、聖園ミカを見ていた。

 恐らく、聖園ミカがゲヘナ生に対して好意や興味から話しかけていることが信じがたいのだろう。彼女のゲヘナ嫌いを利用した経緯があるのであれば、猶更だろう。

 

「? まあ、いっか。よろしくね、セナちゃん!」

「はい、よろしくお願いします」

おお、クールビューティ

「はあ、ありがとうございます」

 

 殆ど意味のない二人の会話を見ていると、錠前サオリがこちらに話しかけてきた。

 

「先生、少しいいか?」

「はい? ああ、そういえば何か聞きたいことがあるのでしたか」

 

 言っていたのは聖園ミカだが、彼女も連れ立ってきたということは何か用件があるのだろう。

 

「あちらでアツコや、小鳥遊ホシノと話している生徒だが……あれは何者だ?」

 錠前サオリがそういって指し示した方を見る。その先には、二人と談笑する狐坂ワカモがいた。予想はついていたが。

 そしてどういう理屈か分からないが、こちらに背を向け話していた彼女は、私が視線をやるとそれを察知したかのようにこちらを見、手を振ってきた

 

「……まあ、本人は魑魅一座、深黒流のサカコと名乗っていましたね」

 一応本人が偽名を使うという配慮をしていたのでそれに合わせる。

 彼女は今日は黒の狐面を横向けにつけ、素顔を見せて会話をしている。曰くその方が百鬼夜行以外では正体がバレにくいらしい。

 そして、当然だが、百鬼夜行の魑魅一座にはそのような流派は存在していないようだ。

 

「いや、所属や名前はどうでも良いんだが、小鳥遊ホシノやミカと似たような……尋常じゃない気配を感じてな。ミカに聞いてみたが、知らないと言うから一緒に聞きに来たんだ」

 

「成程、そういうことですか。ええ、まあ彼女も極めて秀でた才能の持ち主であることは間違いありませんよ。ホシノさんやミカさんのように戦闘面で頭抜けているという訳ではありませんが」

「多分、セイアちゃんに最近できたお友達っていうのが、あの人なんじゃないかなーって思うんだけど」

 氷室セナと2人で話していた聖園ミカが突然話に加わってきた。

 

「というより、あの方、()()()()()()()()()()()。指名手配されている」

 そして共に手が空いた氷室セナも話に加わってきた。しかも彼女は狐坂ワカモの正体に気付いていたらしい。

 

「……ご存じだったんですか?」

「いえ、……()()に見覚えがあったので、記憶を辿ったところ手配書で見たのだということに思い至りました。手配書では仮面を被っていたのですぐには分からいませんでしたが」

「え、セナちゃん凄くない!?」

 

 聖園ミカが驚きの声を上げるが、私も同感だった。これは医療従事者が故にできるというレベルではないだろう。

 

「私よりも、そんな指名手配とすらもつながりがあり、こういった場に呼べる先生の方が凄いように思えます」

 

 氷室セナが謙遜する。彼女の場合本心でそう思っているのかもしれないが。

 

確かに! ……っていうか、あの子ってすごい先生ラブな感じじゃない? それも気になるんだけど!?」

 

 聖園ミカが途中から小声になり、そのようなことを言った。

 それに関しては私もよくわからない。本人に聞くとまたデリカシーが無いといった罵声を浴びることだろう。ということだけは想像がついた。

 

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