「じゃあ、私たちカレー作ってくるね!」
聖園ミカと錠前サオリ、そして流れで氷室セナの3人に、厨房を使い慣れている七度ユキノを加えた4人で連れ立ってカフェを出て行った。
「先生、見て、あれ」
今度は秤アツコが声を掛けて来た。指示した方を見ると、槌永ヒヨリと霞沢ミユが部屋の片隅で何か会話していた。最近、何度か見たことのある光景だ。
「ヒヨリさんとミユさんですか。最近たまに見る組み合わせですね」
「うん、仲いいんだよね、あの二人。なんか、可愛いよね」
「まあ、言いたいことは分からないでもありません」
狙撃手同士、というのもあるのか。2人、特に霞沢ミユが、SRTの生徒やテマ以外と仲良さそうにしているところを見るのは珍しかった。槌永ヒヨリは何かの琴線に触れたのか、天童アリスや才羽モモイが彼女と遊んだりお土産を渡していたりしているようだが。
「でもミユちゃん、あんまり私とは話してくれないんだよね」
「そうなのですか? ……まあ、ミユさんは基本的に誰かと話していることの方が珍しいですが」
そもそもRABBIT小隊の中であってもそこまで多弁という訳ではなく、寧ろ他のメンバーから積極的に話を振られてようやく意見を言うような様子である。
「……ちょっと行ってみよう」
そういって秤アツコはガスマスクを取り出し──彼女のものは破壊してあったはずだが、どこで調達したのだろうか──何故かそれをつけて霞沢ミユと、槌永ヒヨリの元へと向かっていった。
よくわからないが、私もそちらの方へと遅れて近づいていった。
彼女が自らの39式小銃を槌永ヒヨリに見せながら何かを話している、その背後から迫っていく秤アツコに、初め槌永ヒヨリが気付き、ぎょっとした表情をした。
それが気になり、後ろを振り向いた霞沢ミユも、すぐ後ろまで来ていたガスマスクをつけた人物に気付く。
「……ひぃっ!!!?」
霞沢ミユは殆ど声にならない何かを叫び、手元の銃を掴んで槌永ヒヨリの背中に隠れた。
「な……何やってるんですかアツコちゃん……」
槌永ヒヨリが困惑した表情で尋ねる。
「……二人で何を話してるのかなーって思って」
明らかにそれ以外の意図があったような気もするが、秤アツコはそう返事をしていた。
「えへへ……ミユさんの銃の扱い方を教わっていました。メンテナンス方法とか……」
「ふーん、ヒヨリのお世話してくれてありがとうね、ミユちゃん」
「……は、はい! い、いえ……あの、そこまで大した話では、な、無いです……」
霞沢ミユがしどろもどろになりながら返事をする。
「同い年だから、敬語じゃなくていいよ。明日はよろしくね」
「はっ、はい。……少しでもお役に立てるよう、頑張ります」
終止気圧されていた霞沢ミユは、最後の秤アツコの言葉に対してだけには、明確に返事をした。
ついでなので残りのメンバーのところにも行き、挨拶をしておこうと思い近づいていく。
小鳥遊ホシノと白洲アズサ、そして狐坂ワカモと戒野ミサキ、かなり異色なグループだった。
テーブルを囲んでなにかをしているようだ。
「こちらはまた珍しい集まりですね、何をしているのですか?」
「あ、先生。そこにあった箱に入ってたゲームで遊んでるんだ」
白洲アズサが答える。近づいてみてわかったが、直方体の木のブロックを積み上げたタワーを崩さないようにするゲームで遊んでいるようだ。これもミレニアムのゲーム開発部が持ち込んだものだろう。
「……」
丁度今は戒野ミサキの番のようだ。見たことの無いような真剣な目で木のタワーからブロックを抜き取り、慎重に頂上へと乗せた。
「……ふぅ。……うわっ、黒服。何しに来たの?」
無事に自分の番を終わらせた戒野ミサキは、ようやく私の存在に気付いたようだ。
「いえ、珍しい光景を目にしましたので、気になりまして。ゲームで親睦を深めているのですね。結構なことです」
「いや、私は別に……アズサが」
戒野ミサキは言い訳をするように白洲アズサの方を見た。
「うん、ミサキは私に付き合って一緒にゲームをしてくれてるんだ」
白洲アズサがそう言った。恐らく、そういう体で一緒に楽しんでいるのだろう。そして白洲アズサの頭には白い狐面が付けられていた。恐らく狐坂ワカモからもらったものだと思うが、気に入ったのだろうか。
そして、今度はその狐坂ワカモの番らしい。
「うふふ♡ 先生、少し見ていてくださいませ♡」
狐坂ワカモはそう言って、
「うへ~……ワカモちゃんうますぎるよ。っていうか、これもう無理じゃない~??」
小鳥遊ホシノが平然と狐坂ワカモの名を口にしたが、誰も気にした様子が無い。このメンバーでも既に周知になっているようだ。まあ、打ち合わせの時のような大勢でなければ特に問題は無いと思われるが。
そして、小鳥遊ホシノは悩んだ末一つのブロックに手を付けようとするが、
「あら、ホシノさん。それは駄目ですわよ」
狐坂ワカモがそう言った。その直後、小鳥遊ホシノがそのブロックに触った瞬間、タワーがバランスを崩して崩壊した。
「うわ~っ……おじさんの負けかぁ……」
「次私に回ってきたら私も同じことになっていたと思う。惜しかった」
「うーん、ありがとう、アズサちゃん……」
白洲アズサが小鳥遊ホシノを慰める。そして戒野ミサキは珍しく口元を緩めていた。負けなかったのが嬉しいのだろう。こちらの視線に気づき、すぐに不機嫌そうな表情に取り繕った。
「ワカモはどうやっているの? 触る前に崩れるのが分かっていたみたいだ」
「うーん、詳しい説明は難しいですわね。簡単に言うとわたくし、構造物の弱点を見つけるのは割と得意なのです」
小鳥遊ホシノから狐坂ワカモに視線を移した白洲アズサが、目を輝かせる。
「すごい。ワカモは
「……流石だね~。これだとちょっと勝てる気がしないかも」
「ホシノさんも本気を出せばもう少しできたでしょう?」
「え~、どうかなぁ?」
狐坂ワカモの指摘に、小鳥遊ホシノは笑って誤魔化していた。
──
「さて、私は明日の準備が残っているので事務室に戻っています。何かあれば呼び出してください」
生徒たちにそう言って、事務室に戻る。メンバーではあるが、思いのほかそれぞれで親睦を深め、結束力を高めているようだ。
こちらも最後の詰めを考える。しかし、考えれば考えるほど、検討すべき事案が増えていき、終わりが見えることが一向に無かった。
そしてしばらく後、事務室を訪れる人物がいた。
「先生、失礼します」
他校の生徒達と夕食を作っていたはずの七度ユキノだった。
「カレーが出来たのですが、先生はどうされますか?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、まだ少し手が離せないので、皆さんで食べてしまってください」
私の返事に、七度ユキノはため息をついた。そして
「そういうと思いまして、先生の分をお持ちしています。テーブルに置いておきますので、冷めないうちに召しあがってください」
と言った。
「それは……すみません、ありがとうございます」
「先生はお仕事をされているのですから、当然のことです。ですが……」
七度ユキノは、テーブルに皿を置き、私の机へと近づいてくる。
手元から目を離し、彼女の方を見た。
「あまり思い詰めないでください。私たちが……明日作戦に参加する者たちは、皆先生のことを信じています」
それは分かっている。分かっているからこそ、失敗できないということでもある。
「ですが、それ以上に、先生の力になりたいと思っているはずです。その点で共通しているから、これほど多くの生徒達が集まって、皆すぐに仲良くできているのです。狐坂ワカモのことも……だから、先生……」
七度ユキノは、今も首に着いているチョーカーに触れる
「私たちの事を信じて、動かしてください。皆、必ず先生の期待に応えられるはずです。今度こそ、完全な勝利を掴みましょう」
そして、私の目を見て、そう言った。
「……そうですね。皆さんの力があれば、必ず達成できると思います。改めて、明日はよろしくお願いします」
「はい。……では、私も戻りますね。長居すると、また冷やかしや嫉妬を受けてしまいますので」
最後によくわからないことを言って、七度ユキノは去っていった。
生徒たちが、私のことを信じている。力になりたいと思ってくれている。どちらも私にとって重い物になっていたが、私の中で、手放しがたいものであるのも、間違いない事だった。
そして、我々は決戦の日の朝を迎えた