黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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グレゴリオ②

 数が増え、攻撃が来る方向も3か所と拡大された状態で、音楽が鳴り響く室内を、生徒達が戦っている。

 

 曲が変化し、先ほどと比べてややテンポは遅くなったが、重厚な響きの曲だ。恐らくマエストロの作曲したものだろう。彼は様々な芸術分野に精通していたが、それでも彼のオリジナルであると思われる曲を聴くのは初めてのことだ。

 

 しかし、今はそれをじっくりと鑑賞している場合ではない。この曲が何分あるのかは分からないが、これが恐らく第二段階であり、それに伴い曲が変わったことを踏まえると、曲が終わるまでの時間がタイムリミット、という可能性もある。

 

 攻撃が激しくなっている、と小鳥遊ホシノが言った通り、敵からの不可視の攻撃は頻度が高く、そして強度も上がっているようだ。先程は敵の攻撃を気にする様子も無かった聖園ミカも、何度かまともに食らった様子で痛がっていた。

 

 今は、どうやっているのか分からないが見えない攻撃を避けながら『陽動』という目的を達成するために苦心しているようだった。

 

 ただそれは、彼女の異常なほどの耐久力と戦闘センスでどうにかできている、というだけで全員が同じことができるという訳ではない。

 

 例えば、七度ユキノは信徒席に隠れながら状況を見ている。

 

「……!!」

 白洲アズサが大きく後ろへと弾き飛ばされるように下がる。一瞬、攻撃をまともに食らったと思ったが、これも回避する動作だったようだ。

 

「大丈夫ですか、アズサさん」

「うん、ちょっと試したいことがあって」

 白洲アズサがそう言うと同時に、煙が噴出する。彼女がスモークを使用したらしい。

 

「お……攻撃が弱まった気がする」

 

 そういった目晦ましが効くのか、という疑問はあったが、これもマエストロのこだわりだろうか、そういった搦手も通じるようになっているようだった。

 

「ホシノさん、ユキノさん。タイミングはこちらで指示しますので、同時攻撃をお願いします。観察している限り、聖歌隊が停止してから復活するまでには数秒のラグがありますが、可能な限り同時であることが望ましいです」

 

「うん、任せて」

「爆発のタイミングを先生の物に合わせる、ということですね? やってみます」

 

 2人からの返事を確認し、シッテムの箱でタイミングを設定する。こういった端末上からの指示を知覚的に受け取らせることができるのが、このオーパーツの持つ戦闘支援ツールの最大の強みだ。

 

 指示を出した後は、こちらで出来ることはうまく行くことを願うしかない。

 そして、シッテムの箱が映し出すカウントダウンが0になる。

 

 先ほどと同様のフォームで小鳥遊ホシノが射撃をすると同時に、丁度逆側から爆発音が聞こえた。

 

 聖歌隊も12体全てが沈黙し……

 

……うぐっ!?

 

 小鳥遊ホシノがうめき声をあげた。ふざけて言ったわけではないのはその言葉のトーンから明らかだった。攻撃を受けたのだろうか。

 

「ホシノさん!?」

「だ、大丈夫。……ちょっと着地狩りみたいなことされて上手く着地できなかっただけだから! それより、本体を!」

 

 小鳥遊ホシノは声にまだ苦しさを滲ませていたが、私に本来の役割を果たせと言ってきた。

 

「皆さん、本体に総攻撃を!」

 

 すぐにそう指示すると、待っていたかのように聖園ミカと白洲アズサが本体に最接近し、苦しんでいるような様子を見せる本体に攻撃を仕掛けた。歌住サクラコと霞沢ミユの援護射撃も本体へと吸い込まれていく。

 

「────-aaaa!!?

 

 そして再び、人工天使が叫び声をあげ音楽が止まる。

 これで終わると願っていたが、無情にも、まだ敵性反応は残ったままだった。 

 

「各員、まだ続くようです……ホシノさん、動けますか?」

「う、うん。でも、しばらく飛び上がるのはちょっときついかも~……ごめん、先生」

「いえ、本当によくやってくれました。今は身を守ることに専念してください。……次が来ます」

 

 

 

 3曲目の演奏が始まった。1曲目とかなり似ている気がするが、不気味さを演出するためか、それとも実際に壊れかけているのか、音が歯抜けになっており、不快感を強調している。

 

 今度の聖歌隊は中央の8人が再び現れ、左右の6体ずつも継続し、総勢20体になっている。

 

 攻撃は一層激しくなり、先ほどまでは身体を晒して戦っていた聖園ミカですら、身を隠している。

 

 そして、小鳥遊ホシノだけではない、彼女達は皆、傷つきながら戦っていた。安全圏で見ているのは私だけだ。

 

 その上、この状況で打つ手が思いつかない。自分の無力さに怒りすら湧いてくる。自分の能力がさしたるものでないことは十分自覚していたはずだ。故に事前準備を入念に行うことでカバーする必要があった。しかしこの様では、何もできていないと同じではないではないか。

 

「先生。先生……聞こえておられますか?」

 

 ふと、()()()()()が聞こえ、熱が冷めていく。歌住サクラコから話しかけられていたようだ。彼女はこの状況でも私の護衛に徹し、気遣ってくれていた。

 

「すみません、次の手に迷っていました」

「はい」

 

 もちろん彼女にも余裕はないだろう。それでも、彼女はそれ以上私に何かを催促するようなことはしなかった。冷静になるべきだ。私が無力であろうと、そんなことは()()()()()()()はずだ。必要なことはこの状況を打破することだけだ。そしてその可能性について、既に私は気づいているはずだ。

 

『皆さん、もう少し耐えられますか?』

 私の問いかけに戦っているもの全員から即答を受ける。

 

 ──

 

 私はシッテムの箱を操作し、A.R.O.N.Aと対話するための画面を開いた。

 

「A.R.O.N.A。教えてください」

 

 -はい。何でも聞いてください。

 

「以前ミカさんとアズサさんが、使用した特殊な攻撃についてです」

 

 -それは、EXスキルのことですね?

 

 そのような名前がついていたとは知らなかったが、それで間違いないだろう。

「その通りです。あれを意図的に起こす方法はありますか? あなたの力に生徒を共鳴させる、と言っていましたが」

 

 -可能です。EXスキルはA.R.O.N.Aの力が不可欠ですが、A.R.O.N.Aの力とは、持ち主である先生の力でもあります。そして、生徒さんの想いがA.R.O.N.Aと共鳴するという事もまた同じです。

 

 聞き覚えのある説明口調。誰に似たのだろうか。しかし、それ故にその言葉の意味もよく分かった。

 

「ありがとうございます。やってみます」

 

 -信じています。先生

 

 ──

 

 シッテムの箱の画面を戦闘支援アプリへと戻す。誰に託すのかは、既に決まっていた。

 

「ユキノさん、かなり無茶なことを言いますが……聞いてもらえますか?」

「……ええ、言ってください」

「再び煙幕により攻撃が弱まった際、全ての聖歌隊を同時に処理してほしいのです」

「……本当に無茶苦茶なことを言いますね」

 

 七度ユキノが溜息をついた。先程の手榴弾による投擲技術を考えると他に適任はいなかったが、それ以上に純粋に今、()()()()()()()だと感じたのだ。

 

「似たようなことを考えていましたが、精々2か所同時が限界だと思っていたところです」

 

 しかし、彼女のその言葉は拒否を示すものではない。

 

「最近、自信を失うことが多かったのです、先生。今、ここで細かいことを言うつもりはありませんが一つだけ覚えておいてください。……だからこそ、先生から頼まれたら、やって見せようと思えるのです。絶対に

 

 シッテムの箱が明確に熱を帯びている。意図的にこのような状態を引き起こしたのは、今回が初めてだ。

 

「アズサさん。行けますか?」

「うん。こうなると思って、準備してたから」

 

 白洲アズサの返事の通り、再び、室内が煙幕に包まれる。

 

「うん、さっきと同じように、攻撃が弱まってるね」

 小鳥遊ホシノは足を負傷しつつも立ち上がり、盾を構えて状況を確認した。

 

「ユキノさん!」

 

 他に何かを言うことも出来ず、そう叫んでシッテムの箱に許可を出す。

 それとほぼ同時に、七度ユキノが左右の聖歌隊に二つの手榴弾を投擲する。

 

 

 -これで終わりにしましょう、先生

 

 

 そして、左右の爆弾が爆発すると同時、彼女のアサルトライフルが中央の8体の聖歌隊を正確に撃ちぬいた。

 

「やるねー」

「すご……」

 別軸の強者達の感想が聞こえてくる。

 

 そして、今まで最も激しいノイズが室内に響き渡る。これは七度ユキノが正確に目標を成し遂げたことの証拠であり、

 

「あーもう! いい加減、終わりになれ!!」

 聖園ミカの、そして残りの生徒全員の攻撃が一斉に人口天使本体へと降り注ぐ。

 

aaaaaaaaaaahhhhhh!!!!!!!? aa………………」

 断末魔の叫び声を上げた人工天使が、頭からグランドピアノへと崩れ落ち、そして、ピアノもまた、先ほどまで攻撃が通っている様子が一切なかったのが嘘のように崩壊した。

 

 念のため、シッテムの箱を確認する。

 聖園ミカの怒りが届いたのかは定かではないが、ついに、敵性反応が消滅するのが確認でき、そして稼働限界を迎えたかのように、シッテムの箱自体も動きを停止した。

 

 私たちの勝利だ。

 

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