黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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トリニティ/アリウス後日談編
事後調査① 杠リツカ


 ベアトリーチェとの決戦が終わってから既に数日が経過していた。

 体力が衰弱しトリニティへと向かうことの難しい生徒のため、予定通りアリウスには救護騎士団が派遣され、現地で治療、救護活動を行っている。

 

 肉体的にはともかく、精神的には調印式やクーデター事件の時に保護された生徒たちよりも落ち着いている生徒が多い、とのことだ。彼女たちにとって梯スバルというリーダーが存在していたことが、良い方向に働いていた、ということだろう。 

 

 その中で、立木マイアと梯スバルとの再会等のイベントが多少はあったのだが、概ね平和に事は進行していた。

 

 アリウスの今後に関しては、アリウスで代表を立て、トリニティ側と協議を行う予定である。

 基本的アリウスには産業がなければ資産も未知数ながら多くは無いことが見込まれている。自力での復興が難しい場合には、トリニティ、あるいは再び連邦生徒会の力を利用することになる可能性もある。

 

 同時に、アリウスで何が行われていたのか、ということに関しても調査を行うことになっている。

 

 禁足地であるポルタパシスにベアトリーチェが侵入していた痕跡がある以上、彼女の目的が何だったのかを知るには、そこの調査が必須事項である、という個人的な理由もあったが。

 

 しかしそちらに手を付けることができるのは少し先の話になりそうなので、差し当たっては話を比較的聞きやすい杠リツカと、アリウスに最後まで残り、調印式以降、ベアトリーチェとの接触が多かった梯スバルに聞き取り調査を行うことにした。単に近況を訪ねるのにもいい機会だろう。

 

 

 

 以前スクワッドとの面談に利用した部屋に、杠リツカが座って待っていた。彼女は基本的に便利屋68の見習いとして、彼女達と寝食を共にしているが、今日は一人でここに来てもらっていた。そういえば一人で彼女と話すのも初めてのことだろう。

 

「お待たせしました。リツカさん。今日はわざわざ来ていただき、ありがとうございます」

「……こ、こんにちは。先生には、お世話になったから、大丈夫」

 

 

 彼女はやや不安そうに私に返事をした。私の姿が怖いのかもしれないが。

 

「さて、今回お呼びした理由はいくつかあるのですが、どれも長くはならない内容です。また、リツカさんの責任を追及したり、単純に説教をするようなものでもないので、リラックスして聞いてください」

 

「は、はい」

 私の発言に、彼女は余計に緊張してしまったようだ。だとすれば手短にするに越したことはないだろう。

 

「まずは、感謝の言葉をお伝えします。リツカさん、あなたがもたらしてくれた情報と、私たちを案内してくれたことにより、アリウスへの到達が相当に早まり、残りの生徒たちを助けることができました。本当に、ありがとうございます」

「はい……え? え、えっと、私はマダムの命令があったから……」

 

 私が頭を下げると、彼女は戸惑っている様子だった。礼を言われるとは思っていなかったのだろう。

 

「最終的にアツコさんや、私たち。もしくは便利屋68の方々かもしれませんが、それを信用して、味方になっていただいたのは間違いありません。これは私個人の意見でもありますが、それだけではありません。トリニティの上層部からも感謝と謝礼を出すべき、というような話も上がってきています」

 

 上層部というのはつまり、ティーパーティーの生徒会長であり、とどのつまり聖園ミカが言い出して、桐藤ナギサがそれに乗った形だが、彼女達の金銭感覚は信用していい物か分からないので、一旦保留にしているのだ。

 

「えっ、えと、そういうのは困る。そういうつもりでやったわけじゃないし、そもそもお礼を言われるようなことはしていないから……」

 

 案の定、内容を伝える前に本人から断られた。用意していた別案を提示することにしよう。

 

「成程。では、リツカさん個人への謝礼、という事ではなく、便利屋68からの情報提供、ということにするのはどうでしょう。リツカさんは便利屋に入られたのですよね?」

「……うん、見習いだけど」

 

「見習いだとしても、所属していることには変わりありません。彼女たちは元々私の依頼で任務を行っていただいていたので、その情報提供者として、報酬に色をつけるのというのはどうでしょう」

 

 杠リツカはしばらく首をひねっていたが、しばらくすると私の言っている事の意味を理解できたらしく、そわそわと口を開いた。

 

「社長、喜んでくれるかな?」

「もちろん、大喜びするでしょう」

 

 あの()()()()()()()()()()()()()()()()であれば、ただお礼を言われたと伝えただけで自分のことのように喜ぶだろうが、決して嘘ではない。

 

「じゃあ、そういう感じなら、良いと思う。……あ、そうしてくれたら、嬉しい、……です」

「承知しました。そのように手配しましょう」

 

 これで一応トリニティへの言い訳も立つ。感謝と礼を済ませたところで、最も気になっていた話題に移る。

 

「次は、あの日のことについて聞きたいのですが、よろしいですか」

「うん。多分、聞きたいこともわかってると思う」

 

 杠リツカは神妙に頷いた。

 

「ええ。あの日、私たちはアツコさんからの緊急通報でバシリカへと向かい、そこで彼女からのメッセージで、『リツカさんがいなくなった』という報告を受けました。あの時、一体、何があったのか、教えていただけますか?」

 

 あの状況で勝手な単独行動に出るとは、やはり思えない。彼女の立場から話を聞きたかった。

 

「やっぱり、その件だよね。ごめんなさい、勝手な行動をしたのは、本当なの。でも、何でそんなことをしたのかは……よく、分からなくて」

 

 彼女が言い出した内容は、ある程度想像通りではあった。全く覚えていないという可能性も考慮していたからだ。

 

「何か覚えていることはありますか?」

「……声が、聞こえた気がして」

「声? 誰のものですか?」

 

 彼女は私の質問に、頭を抱えて当時のことを思い出そうとしていた。

 

「……思い出せば、全然知らない声だった気がする。でも私は、()()()()()()()()()()、とどうしてか思い込んで、バシリカの中に入ったの。声がする方に、歩いているつもりだったけど。自分がどこにいるのかという意識とか、スクワッドのみんなのこととか、今考えればおかしいと思うことに全然気づいてなかった」

 

 杠リツカの顔は青褪めている。そろそろやめさせるべきだろうか。

 

「それから……それから……。気づいた時はミカに背負われてて、スバル先輩が近くにいるって教えてくれた。ごめんなさい、やっぱり、その間のことは思い出せない……です」

 

 そう思ったところで、丁度彼女の話にも区切りがついた。

 彼女の話は、どういうことだろうか。単純に考えれば、ベアトリーチェの仕業、ということになる。スクワッドのメンバーを呼び寄せるために何かしらの暗示を彼女にかけていたとすれば、不可能ではないだろう。

 

 しかし、ベアトリーチェがやったとすれば彼女が便利屋に保護される前、アリウスから出る前にそれを行っていた、ということになる。それ以降の杠リツカの行動はかなり偶発的な経緯をたどっており、そこまで上手く彼女を誘導することが出来るだろうか。

 他の可能性を検討する必要もありそうだが……

 

 ──

 

「せ、先生? や、やっぱり怒っているよね。ごめんなさい……」

 

 黙って思考していた私に、杠リツカの不安そうな声が届いた。考えすぎてしまっていたようだ。この件については、別の機会で整理することにしよう。

 

「いえ、すみません。怒っていた訳ではありません。その時のリツカさんには何かしらの干渉が働いていた可能性が高いので、その原因を考えていました。まあ、結局すぐには分かりそうもないですね」

「そ、そうなの?」

 

 彼女は安心したような、余計に不安になったような表情を浮かべた。

 

「さて、伝えたかったことと聞きたかったことはこれくらいなのですが……先ほどの話ですが、リツカさんは便利屋に入ったのですよね?」

「うん、さっきも言ったけど、見習いとして」

 

 今度こそほっとした表情を浮かべて、彼女は返事をした。

 

「今後、仮にアリウスが学校として再開する、ということになれば、どうしますか?」

「あっ、うん。その話も社長としたんだけど……社長は、学校に行きたければそれでも良い、って言ってくれたの。席は空けておくから、って」

 

 彼女は嬉しそうにそう言った。()()()()()()()()()()()、というのも妙な話だ。しかしそれは結局建前の話で、陸八魔アルは既に杠リツカを身内だと認めている、ということだろう。

 

「そうですか。それは、大変良い事だと思います。話は以上です。私は次の用事がありますが、よろしければカフェなどを覗いて見て行ってください。今日は本当に、ありがとうございました」

「うん。折角だし、見学してみる。先生も、ありがとう」

 

 私と杠リツカは互いに礼を告げ、順番に退室した。

 彼女の様子については、言うまでもないだろうが今後も経過を見てもらうよう、便利屋に伝えておこう。

 

 私は陸八魔アルへ連絡をするため、端末を開いた。

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