風紀委員がアビドスを去ったのち、念のため建物等の被害が無かったのかを確認した。
その後で対策委員会及び、便利屋68のメンバーと私は再び紫関ラーメンに集合することになった。
貸切営業をすると言った大将が、好きに使っていいと事前に言っていたこともあり、そこで作戦成功記念パーティと称して打ち上げをしている。祝勝会というやつだ。
何のことはない、ただ新しくできた友達と仲良くなりたいというのが主目的の、女子学生らしい会だった。その場に私がいることも、それが悪いことでなくないことであると自ら思っていることにも居心地の悪さを覚えながら、私は端の席で今後について考えていた。
つまり、カイザーをどうするかという話だ。
と言っても、カイザーグループ全体を今すぐどうこうするつもりはない。
彼らにはまだ役割が残っているし、そもそも全体に大きな影響を与えるほどの力は今の私にはない。しかし、カイザーPMC理事という個人の話は別だ。
仮にアビドスが借金の借り換えの道を選ぶとして、今後数か月の間にそれが実現したとして、今のカイザーPMC理事がそこにいる限り、嫌がらせは続くだろう。
彼の目的は歪んでおり、アビドス高等学校を破滅に追い込むことが半ば目的と化していたのは、以前の時間軸でビジネスパートナーであった私はよく知っている。もし借金を返したとしたら、逆恨みをより濃くし、どういった横暴を行うか分からない。
だからこそ、彼には以前の時間軸と同様に、破滅してもらわなければならないだろう。
彼に個人的な恨みはないが、一方で仲間意識も一切ない。敵であればそのように扱うだけだ。
幸いにして、私は彼の弱みとなり得る情報をいくつも持っている。
ビジネスパートナーであった時の彼は、私から見るとあまりにも迂闊であり、私は彼との関係をいつでも断ち切れるようにした上で、彼の隠している様々な弱みを調べ上げていた。
勿論それは今の私が使ってどうこうできるものばかりではないが、情報は使いようだ。使えるものに使ってもらえばいい。
私は『黒服』の端末を立ち上げ。
「黒服さん……楽しんでる?」
陸八魔アルが話しかけてきたため、すぐにそれをしまった。
突然話しかけられたことに少し戸惑ったが、恐らくお人よしである彼女が、黙っている私を気にかけたのだろう。
「ええ、あまりこういった会には慣れませんが、楽しんでいますよ」
「良かった。実は私も祝勝会なんてやるの初めてなのよ」
「いっつも報酬踏み倒されてるから喜ぶ気分にもなれないもんねー」
「ちょっと、ムツキ!?」
浅黄ムツキも話に割り込んでくる。どうやら考え事ができる状況ではなくなってしまったようだ。
「そうなんですか? 良ければ今まで踏み倒してきた依頼者を教えていただいても」
「え? どうしてかしら?」
純心な彼女には分からないだろう。こう言った世界でもルールというものはある。
「クックック……いえ、我々の世界でも報酬の支払いというのは鉄則ですから。それを知ってもらおうかと」
「怖っ!? い、良いわよ黒服さん。私たちに瑕疵があったのも事実だから。それに
「そうですか、残念です」
そして私の発言に驚いていた彼女は、その言葉を嚙み締めるかのように復唱し
「うん、言いたいことは分かったわ。これからは舐められないようにする」
「おー、アルちゃんカッコいい!」
真剣な顔でそう言った。陸八魔アル、いや、便利屋68も遊びで裏社会に出入りしているつもりはない、ということだろう。そういうことであれば、覚悟は大事なことだ。
「そ、それで黒服さん。一つお願いがあるのだけれど」
一転、緊張した面持ちで切り出される。
「何でしょう?」
「私たちに依頼してくれて、こうやって話してて思ったの。私は、貴方からもっといろんなことを学びたい。いえ、学ばなければならない」
「……それで?」
「だから、私たち便利屋の外部顧問になってもらえないかしら!?」
外部顧問。便利屋68の一員になってほしい、という話でもされるのかと思ったが違ったようだ。
「……外部顧問というのは、貴女たちに依頼するうえで問題になりますか?」
依頼できなくなるのは私としても困る。今回の働きぶりを見るに、今後も依頼することはありそうだった。
「え!? もちろん、そんなことはないわ! むしろ依頼は優先して受け付ける!」
「であれば、問題ありませんよ」
私の回答に、陸八魔アルの顔から緊張が解け、明るくなる。
「ちょっとちょっとー、いま顧問って聞こえたけどー?」
「ホ、ホシノさん!?」
「ん。先生は対策委員会の顧問。譲らないよ」
小鳥遊ホシノと砂狼シロコまで話に加わってきて、店の奥が一気に窮屈に感じるようになる。
「えー、そっちは『臨時顧問』でしょー?」
「や、やってしまいますか!? アル様」
「やめなさい、ハルカ! ち、違うのよ私はただ……」
そして私を放置して盛り上がっていく。彼女たちの表情は明るく(伊草ハルカだけは本気なのかもしれないが)
そのやり取りを楽しんでいるようだった。そして、その時間もすぐに終わりはやってきた。
──
「大将、ありがとうございました!」
店の外で、アルバイトをやっている黒見セリカが生徒を代表して礼を言う。お開きの時間になったのだ。
「いや、良いんだ。最後にこれだけ楽しんでもらえて何よりさ」
大将が笑顔でそう口にする。
「さ、最後? それってどういうことですか?」
奥空アヤネが思わずといった様子で口にする。
「うーん。まあ色々あってな、退去依頼も来てるし、そろそろ潮時かなって思ってな」
退去依頼。カイザーからのものだろう。アビドスの生徒たちもこの土地が既にカイザーのものあることを調べて知っていた。
生徒たちは黙り込んでしまう。
「おっと! 言い方が悪かったな。ラーメン屋をやめるつもりはねえよ。ただ暫くは新しい店舗の場所も決まってないし、とりあえず屋台でも引くかねえ」
その言葉を聞いた生徒たちは、ほっとしたように口々にお礼を言い、そして帰路へとついていく。
そして残った私と黒見セリカは、店の中の片づけを行うために店に残った。
「セリカさんは、知っていたのですか?」
「それは、シフトの話とかするし。近いうちにってのは聞いてたわ。でも、退去依頼の話や屋台やるってのは聞いてなかったけど」
「それは、セリカちゃん。今日決めたからだよ」
片づけながら、3人で会話をする。
「そうなのですか? 理由を伺っても?」
「ここの子たちに店がこんなに好かれてるって知れたからな、本当はすっぱり辞めようかと思ってたんだけど、未練がましくなっちまった」
こういうのを「
「私も、ここの味が残ることは嬉しく思いますよ」
「先生、あんた初めて見たときは飯食えるのかと思ってたけど、結構分かるやつだね」
「うん、こう見えて結構意外性の塊なのよ!」
そうして片付けも終わり、改めて礼を言い店を出る。
黒見セリカを無事に送り届けた後、宿泊地に戻った私は、改めてとある人物へ先ほどできなかったメールを送信し、その日を終えた。