黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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事後調査④ バシリカ

 ポルタパシスを出て少し休憩した後、以前梯スバルから教わった近道を通り、バシリカの入口へとたどり着いた。

 

 前回、ここに来たときはスクワッドを追いかける形であったため、外見や内装を確認する余裕はなかった。

 そのためまずは、中に入る前に外から状態を観察するため、3人で建物外周を確認する。

 

 常時修復できる状態であったとはいいがたいため、経年劣化は見られるが、それでもなお、このバシリカは荘厳な様相を保っていた。

 

 「これは……不思議な模様ですね。何を表しているのでしょう」

 

 入口から見て反対側、丁度最奥の祭壇があった場所にはめ込まれたステンドグラスを見て、伊落マリーが呟く。

 

 確かに、常に薄暗かったアリウスも、今は時間相応に明るい、穏やかな天気だった。闇に隠れる必要がなくなったから、なのだろうか。

 しかしその影響で、ステンドグラスが何を表しているのか、外からでは分かりにくくなっているようだ。

 

 最も、中から見たところで、このステンドグラスに書かれた怪物が何なのかが分かるわけではないのだが。

 

「確か、あの謎の人物が最後に出現させた人形の姿によく似ていましたね」

 

 歌住サクラコがその時のことを思い出すように言った。その通りだ。私にとってはB世界(以前の時間軸)でベアトリーチェが儀式によって変貌した姿に近いという感覚だったが、そこにいた他の生徒たちにとってはそのような認識だろう。 

 

 あるいは、マエストロ自身にとってもそうだったのかもしれない。

 

「人形……ですか?」

「変わった趣味の芸術家がいるのですよ。その趣味が良いとは言えないかもしれませんが」

 

 伊落マリーが首をかしげるが、詳しくは実際に見ないと分からないだろう。最もグレゴリオやヒエロニムスと違い、光と共に弾け飛んだアレは殆ど跡形もなく消えてなくなってしまったのだが。

 

 外観にはそれ以上特に気になるところは無かった。歌住サクラコにしてもそれは同じようで、私たちは入口に戻りバシリカ内部へと入った。

 

「外から見た時も思っていましたが、アリウスのバシリカとはこんなに大きな聖堂だったのですね」

 

 伊落マリーが感動したように言葉を洩らす。それはそうだろう。トリニティ内に存在し、シスターフッドが管理する宗教施設でもここまで大きい物は殆どないはずだ。

 私たちも前回はまっすぐ最奥へと向かっていたが、実際にはいくつもの部屋があり、その一つ一つを確認していく。

 

 それはかつてこの施設に関わる信徒や、シスターたちが暮らしていたと思われる居室や、物置として使われていたと思われる部屋もあった。そして、そのような部屋の多くは宗教施設とは思えないほどに、乱雑に扱われていたようだった。

 というよりも恐らく、意図的に荒らされたのだろう。

 

「内戦が酷かったころに、()()()()()のような連中でもいたのでしょうね。そしてそのまま、放置されてしまった。」

 

 外装や、重要な施設はある程度直されているが、人手も技術も失われている状態では、細部まではとても手が回らなかっただろう。

 

 

「この部屋も……大変なことになっていますね」

 

 そして、それら一つ一つの部屋を、シスターフッドの二人はそのまま放っておこうとしなかった。

 勿論完全な修復をしようなどとは二人も思っていないだろうが、それでもできる限りで室内を整える。彼女たちのそのような行動を止める訳にもいかず、私も結局はそれを手伝った。幸い、少なくとも前回ほどに時間に追われている訳ではなかった。

 

 そして、グレゴリオと戦った場所にほど近いとある部屋。その部屋も他の部屋同様に荒らされていたが、整理していくうちに、あることに気付いた。床を構成しているタイルが一枚だけ他の物と劣化度合いが異なっているように感じたのだ。

 触れてみると、少しだけずらすことで、持ち上げることができるようだった。

 

 「先生、どうかされましたか?」

 

 私の動きが止まっている事に気付いた歌住サクラコに話しかけられる。私は気にせずそのまま、そのタイルを持ち上げた。

 

 そのタイルの下には、箱が一つ収められていた。どうやら、この部屋を荒らした人物も、これには気づかなかったようだ。

 

「そ、それは……何でしょうか」

 歌住サクラコも驚き固まっている。

 

「開けても?」

 

 先程の反省を踏まえ歌住サクラコに問いかける。

 

「……恐らく問題は無さそうですが、念のため、私が開いてもよろしいですか?」

「ええ。では、お願いします」

 

 彼女に箱を渡す。伊落マリーも何があったのか、とこちらの様子を見に来ていた。

 そして、その箱の中にあったものは

 

「……これは、、でしょうか」

 

黒い布のようなものだった。隠されていたところを考えるとただの布とは思えない、何かしらの聖遺物だろうか

 

「布……というよりは服のようですね……これは、恐らく……」

 

歌住サクラコはその布を調べていたが、何かに気付いたように難しい表情になった。彼女の言う通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「すみません、先生。こちらは私が預かって調べさせていただいてもよろしいですか?」

 

 そして彼女はそれを再度箱にしまい、私に尋ねた。心当たりがありそうだったので、彼女を信じるべきだろう。

 

「ええ、勿論です」

 

 私の同意を確認して、歌住サクラコはその箱を大事そうにしまった。

 

 そのほか、いくつか発見はあったものの、それ以上の物が見つかる事は無かった。最も懸念していた、死体などを発見するといったことも無かった。異臭が出そうなものは片づけられていただけなのかもしれないが。

 

 そして、グレゴリオとの戦闘があった、クワイアに到着した。

 

 戦闘からそこまで時間が経っている、という訳でもないが、崩壊したグレゴリオはあの時のまま残っていた。

 グレゴリオ、という名前からするとモチーフはグレゴリウス1世あたりだろう。

 

 壊れた楽器からは当然のように音が出ることはなく、それを演奏していた本体は、殆ど粉々に砕け散っていた。特定の条件下における破壊耐性と、逆に条件を満たすと起こる完全な破壊までを含めて、マエストロの設計通りなのだろうか。

 

「やはり、これには先ほどのような負の痕跡は残されていないようですね」

 

 ポルタパシスの書庫と同様に、注意深く確認していた歌住サクラコがそう言った。

 それは、そうだろう。恐らく、この人工天使は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「成程。それは良かったです。では、祭壇にも行ってみましょうか。もう一体の、ヒエロニムスの方も確認してみましょう」

 

私の発言に、2人のシスターは頷き、最奥へと進んだ。

 

 

「マリーさん、これが先ほどのステンドグラスです。」

 

 ヒエロニムスを確認する前に、いやでも目に留まるステンドグラスを指し示す。

 

 

「これは……一体何なのでしょう。人の姿をした怪物でしょうか。……少し、怖いです」

 伊落マリーが率直な感想を述べる。

 

「私にも分かりませんが、少なくも、あまり一般的な題材で無いことは間違いないでしょうね」

「……そう、ですか」

 

 伊落マリーは、しばらく、恐々とステンドグラスを見つめていた。

 実際のところ、これが何なのか、というところは分かっていない。しかし、以前の時間軸、B世界において、ベアトリーチェはこの姿に酷似した容姿に変貌していた。そして今回は、マエストロが用意した人形、彼は『()()()()()』と言っていた物も、恐らくはこれがモチーフだ。

 

 これは何で、そしてこのステンドグラスをデザインした者は、信徒に何を伝えるためにこれを残したのか。信心か、あるいは警告か。あの歴史書群を読み解けば、理解出来るのだろうか。あまり、期待はできない。

 私が言うのもなんだが、あまり関わっても利益は無さそうだ。

 

 

「先生、少しよろしいですか?」

 先んじてヒエロニムスの残骸を確認していた歌住サクラコから声がかかる。

 

「何かありましたか?」

「いえ、そういう訳ではないのですが、少し、不思議に思いまして。先程とグレゴリオと、こちらのヒエロニムスについて」

 

 彼女の言葉通り、その表情は釈然としない、と言いたげなものになっていた。

 

 

「どういうことですか?」

 

 シスターとしての立場からこの人工天使をどう見るか、という点は気になるので、話を促す。

 

「グレゴリオ、ヒエロニムスという名前から、聖者や福者の複製(ミメシス)を作り出し、それを利用した兵器なのかと考えていましたが、そうではないようです」

 

「ああ、そういうことですか」

 

 シスターフッドに伝わる複製といえばユスティナ聖徒会の複製のようにかつての信徒たちの復活、再現という認識なのだろう。

 マエストロがヒエロニムスや、グレゴリオの制作に取り入れた技術は、似て非なるものだ。

 

 

「あれらは聖者や福者の再現ではなく、()()()()()したものだと思いますよ。」

 

 序に言えば、あれらは彼にとって芸術作品であって、兵器ではないのだが、これは言っても理解されないだろう。

 

「概念を再現、ですか?」

 

 歌住サクラコは、感覚が理解できなかったようだ。伊落マリーも首を傾げている。

 

()()()()()()()()()、と言い換えられるかもしれません。もとになった存在に対する信仰、つまりイメージがあの人工天使の動きを作っており、逆にその人工天使は、そのイメージを完全に機能させることを目的として作られている、といったところではないでしょうか」

 

 分かりやすくなったかは定かではないが、言い方を変えて説明をする。しかし、その説明に返事をしたのは、歌住サクラコでも、ましてや伊落マリーでも無かった。

 

 

「ご名答。なかなかの推理力だな、先生よ。やはり其方は私の芸術の真の理解者となるに相応しい存在だ」

 

毎度、一体どこからこちらを見ていたのか。かつての同僚であり、木人形の芸術家、マエストロがまたも姿を現した。

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