黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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生徒が出てきません


手記 夢の話 他

「……だから、後のことはお願いします──ーさん」

 

「あまり期待されても困りますが……善処はしますよ」

 

 

 夢を、見た。久しく夢を見ることなど無かった私が、夢を見た。正確には、夢を見たことを覚えていた、というべきだろうか。睡眠時、覚えているかどうかに関わらず、夢は見ているものだ。

 

 内容は、意味不明の物だ。夢に意味を求めるのは間違っているのかもしれないし、私は夢分析に精通しているわけでも無い。

 

 冒頭の会話は、その夢の内容の一例だ。見知らぬ誰かが、知っているような気がする誰かと話をしている。それが、いくつも繰り返されていた。

 

 

 片方の人物は必ず決まった人物であり、もう片方は、毎回別人。

 

 会話の内容や、会話している場所は様々だったが、共通しているのは、毎回登場するその人物が、必ず送り出される側である、ということだ。

 

 

 そして、送り出された人物は、様々な表情をを浮かべ、また別の人物と会う。その表情はいずれも嬉しそうなものではなく、いずれもネガティブな印象の物だ。その人物に、ただの傍観者である私は憤った。

 

 

 その憤りによって、私は目が覚めた。彼らがどのような人物だったかは、覚えていない。会話の詳細もあまり覚えていない。覚えているのはこのような朧気な内容と、私が彼に腹を立てた、ということだけだ。何の進歩もせず、同じことを繰り返すその人物に、無性に腹が立った、という感情だけは鮮明だった。

 

 

 ──

 

 

 妙な夢を見たせいか、あるいは疲労が蓄積してしまっていたのか、今日は起きるのが随分遅くなってしまった。

 

 

 幸い、今日は何の予定もなかった。故に今日は元々、様々に集まってきた情報を、一度整理する考察の時間に充てるつもりだったのだが、それの始まりもまた遅くなってしまった。

 

 

 妙な夢については、ただの意味不明な夢なのか、何らかを示唆する内容なのかは分からなかった。少なくとも今の私には心当たりが無かった。もっともそれは『今の私』にとって心当たりが無いと言うだけのことだ。

 

 

 故に、私は先ほどの夢を記録した。いずれ、何らかの重要な手がかりになるかもしれないと思ったのだ。夢は自分の記憶を整理するために見ることもある。

 

 だとすると、私の見た夢は、今のこの私以外の私が見た記憶を整理した結果、という可能性もあり得るだろう。

 

 

 さて、夢の話はそろそろ十分だろう。今日の本題である、情報の整理を始めていくことにする。

 

 

 ──

 

 

 ①ベアトリーチェの手記について

 

 

 アリウスの禁足地、ポルタパシスに残されていた、ベアトリーチェが使用していたと思われるノート群です。あの場ですぐに見つかった物は回収しましたが、全てがそろっている訳ではないと思われます。

 

 

 内容については、狐坂ワカモの言っていた通り、支離滅裂な内容や日記のような使い方が一部されていることもあり、内容の精査の目途は全く立っていませんが、書かれている時期や内容によって、いくつかの種類に大別できるようです。

 

 

 以下、それぞれの内容について簡単に記載します。

 

 

 種別A

 

 最も上に置かれていたため、直近で使用されていたものと考えましたが、内容としては最も古いものであり、紙の劣化具合も最も進行していました。

 

 内容としては殆ど日記であり、最初のページにノートが新しくなった旨が記されているため、これより古いノートがあるはずですが、それは発見したものに含まれていませんでした。そのためこの種の物は一冊だけでした。

 

 主な記載内容はその日の出来事の簡易的な記録が多く、作った料理のレシピなども載っていました。内容から察するにこのころの彼女には「()()()()()()()()」「()()()()()()()()()」という目標があったようです。

 

 また、数ページ目に、()()()()()()()()()()()と書かれており、梯スバルの言葉を信じるなら、その少女こそ、梯スバル本人のことだと考えられます。

 

 半分ほど使用されたところで、記載は終わっており、残りは空白ページのようです。物資が潤沢だったは思えませんが、途中でこのノートを使用するのをやめてしまったのでしょうか。

 

 

 種別B

 

 

 やや劣化が激しめの、種別Aに次ぐ古さのノート群です。種別Aとは異なり、研究ノートとしての側面が強くなっています。

 

 ゲマトリアと接触したのもこの時期と予想され、研究部分に関してはある程度一貫性を保っていますが、目的が「この地を楽園にする」から「私の楽園を作る」に変化しています。

 

 それに伴い、「子供たちを利用する」ことが語られ始めていますが、一方で「子供たちのため」という言葉を使っている場合もあり、この時点で彼女はすでに錯綜し始めていることが窺えます。

 

 終盤では、手段を選ばなくなってきており、人体実験の手法や、崇高への到達、そして『色彩』の研究を始めていたようですが、最後の数ページが黒く塗りつぶされており、その末尾に「研究中止」と大きく書かれていました。真意は不明ですが、何らかの事態が発生し、彼女は研究をやめざるを得ない状態にあったようです。

 

 種別C

 

 劣化の少ない、比較的新しめのノートで、種別としては最も新しい部類となります。『色彩』の研究を止めた後のことになりますが、余り研究が上手く行っていたとは思えない内容でした。

 他のゲマトリアメンバーや、アリウスの生徒たちへの不満や批判、要するに愚痴のようなものが書かれることが増えていき、その内容もやがて、支離滅裂な物へと変遷していきました。

 逆に研究ノートとしての役割は徐々に失われていき、最終盤、つまり、百合園セイアへの襲撃やクーデター、調印式への襲撃は、具体的な展望が殆どない中で、何かに突き動かされるように行動していたことが読み取れました。

 

 

 種別D

 

 調印式後に使われ始めたと思われる殆ど新品のノートです。最早研究ノートどころか、日記とすら言えない、書かれている内容は殆どが怨嗟の言葉であり、ゲマトリアや、生徒への物もありましたが、トリニティやゲヘナ、キヴォトスに対する激しい憎悪を書き連ねていました。

 1冊のノートの、約2割ほど使っていた以外は、使われていない状態です。

 

 以上の4通りです。

 これら4種のノートから想像できる内容はいくつかあります。

 

 まず、実際に会った時のベアトリーチェはまだましな状態で、実際のところ、彼女は正常な思考を殆ど奪われていた状態だったようです。

 その最たる要因は怒りの感情であり、それは恐らくポルタパシスに籠っていたことが挙げられます。

 しかし、その切っ掛け自体は、種別Bのノートを書いていた頃、『色彩』や崇高についての研究をしていた際のことです。そこで彼女の身に何かが起こり、恐らくは何かの禁忌に触れ、彼女は慌てて研究を止めた。

 しかし、それはもうすでに手遅れだったのではないでしょうか。彼女は精神的にかなり不安定な状態になり、アリウスの残留思念にその隙を突かれた、という考えが浮かびます。

 

 そして、そのような不安定な状態になりながらも、ベアトリーチェがトリニティに対する攻撃行動を、私の知る通りに行うことが出来ていた理由。それは、今の彼女の成り立ちに関係がありそうです。

 

 つまり、私の考えにおいては、この世界でのベアトリーチェは、B世界、つまり私がかつていたと認識している世界での彼女自身に強く影響を受けており、無意識下で同様の行動を取るようにインプットされていたと思われます。

 それが、アリウスのトリニティに対する憎悪と共鳴し、元々彼女自身が『崇高に至る』という目的のもとで行動していたものが、トリニティへの攻撃行動のみが表層化してしまっていた。

 また、その場合普段の表面上の彼女もまた、B世界での彼女のイメージ通りに行動していたと思われます。

 

 思い出すと、バシリカの最奥で彼女を見たとき、彼女は憎悪の表情をしていましたが、取り押さえられた彼女からはそれが消えていました。敗北が決定的になるにあたって、彼女は久しぶりに自我を取り戻したのかもしれません。

 

 ただし、その場合でもその直後に起きた複数の記憶が混ざりあったことによる錯乱状態の原因は不明です。あの時の彼女の発言は、私の知る二つの世界のみの記憶を持つということだけでは説明できない状態にありました。

 

 そして、最も古い種別Aのノートについてですが、梯スバルの言っていた別人格の彼女が存在するという話を補強するとともに、その時の彼女が、確かに梯スバルや、他の子どもたちの事を想って行動していたという証拠にもなります。今では短いページでしかそれを知ることは出来ませんが。

 

 

 ②ゲマトリアについて

 

 ベアトリーチェ、およびゴルコンダとデカルコマニーにアリウスで遭遇したため、現在のゲマトリアに所属していると思われる主要メンバーと思われる全員と顔を合わせたことになります。

 ただし、地下生活者など、ゲマトリアを追放されたり、既に去った他のメンバーが所属している可能性は否定しきれません。

 

 ベアトリーチェについては前項目で触れましたが、その他のメンバーと合わせ、それぞれとの現在の関係や、分かっていることをここでまとめておきます。

 

 ・マエストロ

 

 私が『先生』をやることになってから、3回遭遇しています。

 直接的な敵対意志を見せられている訳ではないですが、彼の作品である人工天使を嗾けられることが続いているので、今後もそのような事を繰り返される可能性がある事が難点です。

 

 ただし、今のところ彼の期待に応えられているためか、彼自身は敵対的どころかこちらの手助けや助言もしてくれるという程度には友好的ですらあります。

 

 それが良い状態、とは言えませんが、敵対した場合、かなり面倒なことになる可能性が高いので、現状維持を継続するべきでしょう。

 

 ・ゴルコンダとデカルコマニー

 

 現状表層化しているゴルコンダは、デカルコマニーの相棒の中ではかなり会話の成立する部類の人物です。しかし彼もまたゲマトリアの一員であり、「テクスト」など記号論に造詣が深く、そう言ったものに強く関心を示す人物であるため、警戒は強めにしておく必要があるでしょう。

 

 マエストロの忠告通り、ということです。

 デカルコマニーについて、現状は特筆すべきことはありません。

 

 ・ベアトリーチェ

 

 私の知っているその名前のそれとは、見た目も中身も異なる存在です。

 また、ゲマトリア内部での扱いも良いものではなかったことが伺え、その上現在は彼らに殆ど監禁されている状態であり、少々哀れではあります。

 

 彼女の、特にこの世界の元の人格である彼女には興味があり、機会があれば対話してみたいと考えています。方法は今のところ思いついていませんが、その時は、できれば梯スバルにも会わせてあげるべきでしょう。

 

 

 ──

 

 

 ベアトリーチェのノートと、ゲマトリアについて、考えをまとめ終えた。この機会に、他のことについても整理し、書き記しておくべきだろう。

 

 そう思い、その前に一度ベアトリーチェの残したノートを片付けるべく、ノートを手に取っていく。

 そして一番下に置かれていた最も古いノート、それに触れた時、ふと、気になることがあった。

 

 このノートは、ポルタパシスの机上に置かれていたとき、最も上にあった。つまり、ベアトリーチェは最後にこのノートを触ったはずだ。それは何故なのだろうか。

 

 その段階の彼女にとって、この一冊目のノートは意味不明の物に違い無かった。人格も、目的も、何もかも。彼女は、これを見て何を思ったのだろうか。

 

 ノートを再度開く。他愛の無い内容ではあるし、当然内容に変化はない。しかし、全て読み終わってみると、もっとも正常で、活力のあるノートだった。半分以上残る白紙のページに差し掛かったとき、白紙だと思ってた後半の1ページにだけ、何か書かれていることに気付いた。

 

 

「スバルへ 健やかに生きなさい」

 

 

 そのノートに書かれた他の字と同様に、ノートの行に沿った丁寧で短く明瞭なその文字は、他の物とは違い、最近書かれたと思われる乾ききっていないインクの跡が残っていた。

 

 




本章は後2話で終了です。
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