黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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アビドス高等学校の生徒たち

──

 

「生きてる?」

 手記を書いていたはずがいつの間にか意識が朦朧とした状態となり、突っ伏してしまっていた私にも、救いの手はあったようだ。

 一方的にではあるものの良く知っている少女、砂狼シロコが()()通りかかり、私に声をかけてきていた。

 

「ええ……何とか。申し訳ありませんが、水分をお持ちではありませんか?」

 辛うじて言葉を出すことが出来た私に、砂狼シロコは動揺を隠さない表情を示した、

 

「うわ。喋った……。一応スポーツドリンクならあるけど……飲めるの? どこが口なのか分からないんだけど」

「もちろん飲めますよ。一応生物という自覚はありますからね」

 それなりに失礼なことを言われた気がしたが、命の恩人でもある少女に指摘することはせず、ありがたく飲料をもらった。一息で飲み干す。

 良いように言って複雑な表情をしていた少女は、返したボトルを受け取ると気を取り直したように私に目的や遭難経緯を問いただす。

「それで、あなたは何者? この先はウチの学校くらいしかないけど」

「……ウチの学校とは、アビドス高等学校のことでお間違いないですか?」

「ん。そうだけど」

砂狼シロコの肯定で、一応は前進できていたことを知り、安堵する。

 

「であれば、進む方向自体は合っていたようですね。私の目的地はそこですから。」

「え?」

「ああ、すみません。私はアビドス高等学校の生徒から支援要請を受けて、ここにやってきた者です。()()()()()()()といえば伝わるでしょうか。」

私の言葉を聞いた彼女はしばらく考え込む仕草をしていたが、何かを思い出したように表情をはっとさせた。

「アヤネが言ってたやつだね。……本当に?」

「その事情を知っている方に他の心当たりがなければ、そうでしょうね」

再び砂狼シロコが黙り込む。うまく伝わらなかっただろうか。そう思ったが、やがてこちらに向き直って返事をした。

「ん。じゃああなたは久しぶりのお客さんってことなんだ」

「ええ、その認識で相違ありません」

 警戒心を強く感じる表情をしながらも、彼女は一応会話を続けるつもりがあるようだ。

 

「まだ結構距離があるけど、一人でこれそう?」

「せっかく命をつないでいただきましたので、どうにかやりますよ」

方向があっていることが分かったので、水分補給をした今、後はまっすぐ進むだけだ。幸いなことに恐らく目的地が同じである砂狼シロコが自転車で先に行くだろうから、それをたどるという手もある。

「……」

 私の返事に、誰が見てもわかる葛藤の表情を浮かべながらしばらく何かを考えていた砂狼シロコは、そのままの表情で突然私を突然担ぎ上げました。

「死なれても困るから、連れてってあげる。匂い嗅いだりしないでね」

「匂いですか? 興味がないとは言いませんが流石に状況は選びますよ」

「……黙って」

言われたことに対して返事をしただけだが、砂狼シロコは何が気に食わなかったのかそう言って私を小突くと、私を抱えたまま自転車で走り始めた。私とアビドス高等学校の生徒たちとの、ある意味での初邂逅はこのようにして果たされたのだ。

 

 ―

 

 銀髪の狼少女に抱えられた状態で目的地、つまり―アビドス高等学校―の中にある一室に到着した私は、その室内に打ち捨てられた。扱いは良くないが、無事たどり着けたので文句は言うまい。

 

「お帰りシロコせんぱ……何その黒いの!?」

 黒髪の猫耳少女、黒見セリカが一番に口を開く。

 

「もう、シロコちゃん? あまり変なのを持って帰ってきたら怒られちゃいますよ!」

 金髪のおおらかそうな雰囲気の少女、十六夜ノノミが戻ってきたシロコを笑顔で嗜める。

 

「ワンちゃんじゃないんですから……でも、なんでしょうこれ」

 奥空アヤネが困惑と好奇心の混ざった声で疑問を投げかける。

 

 3人とも記憶の通りアビドス高等学校の生徒たち。私のことを生きている生物であると認識している生徒は一人もいないようだが。

 

「ん。ゴミじゃない。一応、お客さん?」

 砂狼シロコが弁明とも紹介ともとれる発言をしつつ私を指差す。3人の表情が一斉に固まり、私の顔あたりに視線が集まる。

 

「只今ご紹介に預かりました。……そうですね、皆さんに分かりやすく言うのであればシャーレの先生()()()()()ものです。行きがかり上ですが」

 私はどうにか立ち上がり、衣服を整えながら自己紹介を行った。

 

 私が動いたことに驚いたのか一瞬、場が静寂する。

 

「ええっ、あなたがあの先生なんですか!? つまり、支援依頼を見て来てくれたってことですか?」

「え? 本当に? 人でもロボットでも無さそうなこの変な人が!?」

「こら、失礼ですよセリカちゃん。とっても素敵なお顔? だと思いますよ」

「ん。そこで疑問符を出したらフォローになっていないと思う」

 そしてその直後、女子高生らしい姦しさで矢継ぎ早に話しかけてくる。

 

 それにしても、気遣いを求めているわけではないが、実に歯に衣着せぬ物言いである。

 そろそろ落ち着かせようと口を開きかけたとき、タイミングよく外から大きな物音が起こり、対称的に室内が静まり返る。

 

 銃声。

 

 続いて、武装集団の姿が見え始める。カタカタヘルメット団が、カイザーの依頼で襲撃をかけてきたのだろう。

 私との関係が無くてもカイザーの攻勢は変わりないようだ。

 

 すぐに、黒見セリカがこのアビドス高等学校最後の生徒を連れてきた。 私にとって最も興味深い相手であり、今の状況において最も警戒すべき生徒を。

 

「むにゃ……まだ起きる時間じゃないよー」

 眠そうに眼をこすりながら現れたその生徒、小鳥遊ホシノは室内にいる私を確りとその目で捉えた。

 

「あなたが()()? よろしくー」

 

 その発言に警戒心を滲ませていることは間違いないが、小鳥遊ホシノは私が先生であることを否定したり、私と知り合いであることを思わせるような態度はとらずそのまま戦場へと向かった。

 少なくともこの時間軸の過去、小鳥遊ホシノがゲマトリアの黒服と既知の関係であるという線は無さそうだ。

 想定通りではある。私が時間軸に移動してから、ゲマトリアの黒服(私自身)の存在の痕跡は一切見つからなかったのだから。

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