懇意にしている洋菓子店から、新作の試食会への招待があった。懇意にしていると言っても、こちらとしてはそこまで考えていなかったのだが、何か出かける際に大抵そこの洋菓子を手土産にしていると、自然とオーナーでもあるパティシエと顔見知りになった。
先方も当然、私が誰なのかは流石に分かっているため、宣伝効果もしているのだろう。
私だけであれば断っていたが、生徒を5人連れてきても良い、ということだったため、検討することにした。
結果として、宣伝効果がありそうな生徒たちを呼ぶことにした。シャーレで募集していた学外サークルの一つ「スイーツ探索クラブ」の代表の生徒へと連絡した。
何人くらいの規模で活動しているのかもいまいちこちらは把握していなかったが、その生徒から
はメンバーが決まったとの連絡があった。
──
試食会の当日、場所がここから近いこともあり、集合場所はシャーレのカフェとなっていた。
「こんにちは! 先生! シズコです~。試食会に参加しに来ましたー!」
1人目に顔を出したのは、百夜堂のオーナー、河和シズコだった。百夜堂の制服でも、百鬼夜行のものでもなく、今日は私服のようだ。
「こんにちは、シズコさん。シャーレへと来られたのは初めてではないですか?」
「そうですね! お陰様でいつも大忙しですので! でも、今日は市場調査を兼ねていますから、特別です! なんて、最近流行りのお店の甘味が食べられるのが楽しみだっただけですけど」
河和シズコはそういってはにかんだ。
「成程。つまり、その恰好は変装ですか?」
「そんな大それたものじゃないですけどね? 先方に気を遣わせてしまうかも、って思ったので。えへへ、ちょっと自意識過剰でしたかね」
「そんなことは無いと思いますよ」
彼女はそう謙遜したが、百夜堂も十分ネームバリューはある。
「やあやあー、先生。むむむ? 一番乗りではなかったかー……」
「ナツ、あんたちょっと待ちなさいよ! あ、え? あ、先生ですよね!? 初めまして! 杏山カズサです!」
河和シズコと話していると、2人目、3人目の生徒が現れた。スイーツ探索クラブの代表であるトリニティの1年生、柚鳥ナツ。そして、面識は無いが様子から恐らく杏山カズサと名乗った生徒もトリニティ生だろう。
「こんにちは、ナツさん。それと、こちらこそ初めまして、カズサさん。トリニティからは二人ですか?」
「もう一人いるー。『MM』って人。会ったことは無いけど、トリニティ生とのことー。後はゲヘナ生のハルちゃん先輩で全員かな?」
MM、イニシャルだとすれば一人すぐに思いつく生徒がいるが……
「ナツも会ったことなかったの? どんな人なんだろ?」
「さあ?」
恐らく実際にこのサークルのイベントに参加するのが初めての杏山カズサが尋ねるが、柚鳥ナツも首を傾げた。
「さあってあんたね……」
「ふっふっふ。会ってみてのお楽しみってやつだよ」
「また適当な……」
この二人は随分と仲がよさそうだ。恐らく同学年で、部活も同じなのかもしれない。
「代表、久しぶりですね!
「おお、店長さん。よろしく頼むー」
柚鳥ナツと河和シズコ。この二人は面識があるようだ。というより、このサークルの活動で百夜堂に行ったことで縁が生まれたらしい。
「何で偉そうなのよ。あ、は、初めまして。よろしく、お願いします?」
「はい! よろしくお願いしますね、店長こと、百夜堂の看板娘、河和シズコです~!」
「あ、ナツが持って帰ってきてくれた苺クリーム大福食べました! とっても美味しかったです!」
杏山カズサも挨拶を済ませていた。
聞いた話によると、このサークルの発起人は柚鳥ナツで、彼女がシャーレの掲示板とSNSで呼びかけたところ、初めに応じたのがその『ハルちゃん』というゲヘナ生らしい。
「先生、こんにちは! 試食会に来たんだけど……そこの子達がそうなのかな?」
そして、ある意味予想通りの人物が現れた。彼女がMM、だろう。聖園ミカ、トリニティの生徒会長な訳だが。
「会えてうれしいよ、MMさん。よろしく」
「あ、その話し方は代表さんだね! よろしく!」
「よろしく、お願いします? あれ……っていうかどこかで見たことあるような……」
柚鳥ナツは何ら動じることなく挨拶に応じ、一方で杏山カズサは何かがひっかかるらしく戸惑っていた。
「何を言ってるキャスパリーグ? この人はどうみても
「それやめろ! ……え? ……!!? ご、ごめんなさい! ちょっと人の顔とか覚えるの苦手で!」
柚鳥ナツが平然と聖園ミカの招待に触れ、杏山カズサは大恐縮した。一方で、
「あはは! 全然大丈夫だよ! っていうかやっぱり代表さん面白い子だね」
聖園ミカは心底楽しそうに笑っていた。杏山カズサが胸をなでおろす。
「私も初めまして! 百夜堂の河和シズコです~!」
「あ、知ってるよ! 百夜堂! 機会があれば行ってみたいんだよねー。 えーと、それで、私で最後、じゃないよね?」
聖園ミカがそう言った時、タイミングよく最後の1人が現れた。
「あら? 私が最後のようですわね」
最後に現れた生徒『ハルちゃん』とは、ゲヘナ、美食研究会の部長、黒舘ハルナのことだったようだ。
聖園ミカが一瞬思い出すように悩んだ後、すぐに私を押し退けて、彼女の前に立った。
「ちょっと待って。あなた、確かフウカちゃんを誘拐してた人だよね。何しに来たの?」
そして、黒舘ハルナのことを睨みながらそう言った。そう言えば、聖園ミカは一応面識があったのだったか。
「おお。待ってたよ。ハルちゃん先輩」
「うふふ、お久しぶりです、代表。今日も元気そうで何よりですわ」
しかし、柚鳥ナツはあまり空気を読まずに黒舘ハルナに挨拶をした。
「あ、あれ?」
聖園ミカは平然と挨拶を交わす二人の姿を見て戸惑う。
「ミカさんも、お久しぶりですわね。あの時のことを水に流せ、とは言いませんが、今日は
先生と、代表のナツさんの顔を立てて、一旦棚上げしていただけませんか?」
黒舘ハルナは、そのタイミングで抜け目なくそう言った。
「……そうだね、分かった」
聖園ミカはそれで一応、矛を収めることにしたようだ。彼女も様々な経験を得て、少し大人に近づいたのだろう。
──
「さて、これで全員ですね」
揃ったメンバーに話しかける。危うく戦闘になることも覚悟したが、何とか無事に始まりそうだ。
「一応これから出発しますが、その前に念のために事前に注意事項の確認をします」
私がそう言うと、生徒たちは大人しくうなずいた。
「まず、今日は実際に作る工程を見せてもらえるのですが、そこは撮影禁止ですので、よろしくお願いします。それから、完成したものに関しては撮影して良いみたいですが、情報解禁日までWebに公開するのはNGということなので、合わせてご注意ください」
生徒たちが頷くのを見て、話をを続ける。
「それから、もしレビュ―などを書く場合も情報解禁日以降にお願いします。美味しさには相当自信があるようなので、内容については自由と仰っていましたが、その辺りは厳守お願いします。後は、直接注意事項があるかもしれないので、それに関しては従ってください。注意事項は以上です」
「ということは?」
「そうですね出発しましょうか」
待ちきれないと言った様子の生徒たちに、そう伝える。
「おー!!」
なんだかんだと大盛り上がりの生徒たちを連れて、シャーレを出る。
その時、私の端末。シッテムの箱ではない、生徒以外と連絡を取るためのスマートフォンに着信があった。
嫌な予感を覚えながら、応答する。
『
どうやら、今回の試食会は一筋縄ではいかないようだった。