河駒風ラブから抗争の起こっている大まかな場所が送られてくる。それを見ながらスイーツ探索クラブの生徒たちは作戦会議を始めていた。
「そのアケミって人、そんなに凄い人なんですか?
河駒風ラブからの情報を伝えると、河和シズコからそう聞かれる。
「どうなんだい、キャスパリーグ?」
「知らないわよ!? ……本当に知らないわ、関わったことない」
柚鳥ナツが何故か隣の杏山カズサに尋ねる。何か理由があるのかと思ったが、こちらの線も特に詳しい訳ではないようだ。
「七囚人に数えられていますからね、厄介さではワカモさん……『災厄の狐』、狐坂ワカモと同等くらいだと思いますが、彼女の場合、その圧倒的なフィジカルの強さが彼女を七囚人たらしめていますから、相対するのはかなり危険でしょう」
「少なくとも時間制限もあることを考えると、相手をしている場合ではなさそうですわね」
黒舘ハルナも同意する。普段から似たようなことをしている彼女の感覚は信用に値するだろう。
「あの、それは何とか迂回するとして、どうやって運べばいいの? 冷蔵輸送のトラックからどうにか回収するとして、別の運ぶ手段が必要じゃない?」
杏山カズサが新たな問題を提示する。
「うーん……あ、それなら何とかできるかもです! 私、車で来たんですけど、店のイベントとかで使う用のクーラーボックスならあります! 別で氷は必要ですけど、2時間くらいなら全然問題ないですよ!」
河和シズコが思い出したように叫ぶ。出張営業や屋台運営などもやるのだろう。
「さすが、店長さん。できる女ってやつだね」
「ま、まあ本当にただの偶然だけどね……」
「車があるなら、もう出発してしまいませんこと? 時間が限られていることですし、一度その構想の現場を確認してみたいです。氷はその辺りのコンビニで手に入れましょう。車はわたくし達全員乗れるものですか?」
「あ、はい。8人乗りなので問題ないですよ。高級ってわけじゃないですけど」
「では……しゅっぱーつぅ!!」
「ちょっとナツ…… あー……私たち乗せてもらって良いんですか?」
「駄目ならこんなこと言い出してませんよ! 私急いで車出してきますね!」
「ごーごー」
河和シズコと柚鳥ナツ、そして杏山カズサが店を出ていく。予定外の事態で、良いことは起こっていないように思えたが、むしろ生徒たちにはどこか、状況を楽しんでいるような空気になっていた。
黒舘ハルナが3人に続き外に出ようとし、振り向く。
「それで、聖園ミカさん、いえ『MM』さん。あなたはどうされるのです?」
「え……何でそんなこと聞くの?」
彼女のその言葉に、驚いた表情で聖園ミカが顔を上げる。
「暗い表情をしていらっしゃるので、わたくしたちの事を止めたいのかと思っていたのですが、違いますか?」
黒舘ハルナは問いかける。聖園ミカは少し逡巡したが、首を振った。
「ううん。そうじゃないの。勿論行くよ、私も。こう見えて、結構力持ちなんだから」
「うふふ、それはよく存じていますわ。……そうですか、それなら、行きましょう。パティシエさん。『ノーブルチェリモヤ』は必ず持ってきますので、これ以上何も起こらないよう、準備のほどは確りお願いいたしますね」
「はい、承知いたしました。万全な準備をいたしますので、何卒宜しくお願いします」
黒舘ハルナはそう言い残し、歩き出した聖園ミカと連れ立って店を出ていく。私は最後に、オーナーへ一つ頼みごとをし、2人の後を追いかけた。
聖園ミカが何を思い悩んでいるのか。その理由は、まだ私には分かっていなかった。
――
河和シズコの運転で目的地へと向かう。私は助手席に座り、通行止めの現場へとナビゲーションを行う。
同時に後部座席では、迂回ルートの検索や、どうにかして運送トラックに近づくか、などの作戦会議が行われていた。
と言っても、聞こえてくる限りは使えそうな案はまだ思いついていないようだったが。
「何だか騒がしくなってきましたね!」
「そうですね。通行止めもあり、この先は渋滞していそうなので、一旦道をそれましょうか」
「了解です!」
抗争現場の近くまでたどり着いた。辺りには野次馬らしき集団と、ヴァルキューレ生徒が多数おり、とても通れそうにない状況なのは明らかだった。
「私、あそこのコンビニで氷買ってきます! ナツもついてきて!」
「おー?」
トリニティの一般生徒二人が車を降りる。丁度そのとき、オーナーから立ち往生を食らっているトラックの場所の情報が送られてきた。シッテムの箱に情報を入力すると、すぐさま周囲の状況が送られてきた。生徒たちにも情報を送信する。
「皆さん、今地図データをお送りしました。丁度通行止めになっているそこの道路が出口となっている自動車専用道で立ち往生しているようですね。」
道路は高架に繋がっており、専用道であるため歩道は存在しない。そして、そのまま山道へと繋がり、ワイルドハント自治区に入っていく唯一の道路となっているようだ。近くに出入り口はここの他存在しない。
「うーん、思ったよりも大変ですね、これ。何とか近づけたらトラックから荷物を降ろすだけでいけるのかな、って思ってたんですけど……」
河和シズコが溜息をつく。他の二人の声は無かった。方法を考えているのだろうか。直に杏山カズサと柚鳥ナツが帰ってきた。
「戻りました! あれ、皆スマホ見てる。あ、さっき通知来てたやつか……」
「地図だね。 つまり、ここがお宝のありか……!」
言いながら二人はクーラーボックスへ今買ったばかりの氷を詰め込み始める。私も多少、動いてみることにしよう。
「少しヴァルキューレの生徒に事情を聞いてみましょう。もしかしたら通行止めが解消する目途が立っているかもしれません」
「あ、先生。私も行く!」
車を降りると、聖園ミカが私に着いてくると降りて来た。
「抗争現場に一人で行くなんてだめでしょ、もう」
「すみません。確かにそうですね」
「なんて、実は少し先生とお喋りしたいことがあっただけなんだ」
聖園ミカが少し困ったように笑った。
「どういうお話ですか?」
「あ、ううん。先に用事を済ませちゃお! ヴァルキューレの子に話を聞くんだよね」
彼女の様子も気になったが、時間は限られている。現場に近づき、一人のヴァルキューレ生徒へ話しかけた。
「すみません。少々よろしいですか?」
「あっ、すみません! ここは今立ち入り禁止になっていて……え?」
振り向いた生徒が、私に気付いたのか、言葉を止めた。
「あなたは、シャーレの先生ですよね! お会いできて光栄です。本官は、ヴァルキューレ生活安全局の
「よろしくお願いします。キリノさん。立ち入り禁止なのは理解しているのですが、どのくらいで通行止めの方が解除されそうか、気になっていまして。……そういえば、抗争が起こっていると聞いたのですが、銃声はあまり聞こえませんね」
キヴォトスでの抗争というと基本は銃撃戦だ。であれば、もっと戦闘の音が聞こえてもおかしくないはずだが……
「ああ、それが実はですね……もう戦闘は終わっているのです。」
「そうなのですか? では、通行止めは直に解消されると?」
良いニュースになるかもしれない。そう思ったが、中務キリノの表情は芳しいものではなかった。
「実は、そういう訳にはいかないのです。七囚人の1人である、栗浜アケミさんが逃走しているのでまだこの周囲が危険というのものありますが、あちらをご覧ください。」
中務キリノが指をさす方向に目を向ける。丁度、自動車道の出口がある方向のはずだ。
しかし、人だかりで気づかなかったが、その方向には、あるべきはずの出口が見つからなかった。 そして、その代わりに瓦礫が散らばっていた。
「まさか、破壊されたんですか?」
「はい。いえ、あれは事故みたいなものというか……うーん、先生になら、いいでしょう。本官の見た話をお伝えしますね。」
「お願いします」
中務キリノが事情の説明を始める。
「今回の抗争は、ヘルメット団がスケバンに喧嘩を売ったことで始まったようなのですが、偶々そこに栗浜アケミさんがいて……お互いの因縁のせいで、急速に抗争が激化したみたいなんです。本官も偶然近くにいたので、応援としてここに来たのですけど……着いた時にはかなりスケバンさん達が優勢に見えました。何台もの戦車がアケミさんによって破壊されたのか、転がっていました。まだ、その辺りにありますけど……」
「ええ、そうですね」
「それで、ここからが実際に見た話です。残っていた戦車が1台、戦車砲を発射しました。ところが狙いが逸れたのか、野次馬の、というか、野次馬を押さえていた私の同期の子のところに飛んでいきまして、アケミさんはそれを庇うように飛び込んで、戦車砲を弾き飛ばしたんです」
中務キリノの視線が、例の道路の方へと向く。
「なるほど。それが、あちらに着弾したと」
「はい、戦車はその後すぐにスケバンさんが破壊していて、それで大体戦闘は終わりになったんですけど、アケミさんも手を怪我していたみたいで、庇いながら逃走していきました。」
彼女の説明によって状況は理解した。
「成程、理解できました。とりあえず、ここを利用するのは不可能のようですね」
「そうですね。今先輩が上の人と相談しているみたいですが、修理するにしても、車が通れるようになるには最低でも後
何の非も無いにも関わらず、中務キリノは申し訳なさそうにそう言って頭を下げた。
「おーい、そこの一年生! 瓦礫撤去手伝ってくれー! このままじゃ修理もできん!」
「はい! あ、すみません。呼ばれたので、本官はこれで、またお会い出来たら嬉しいです。先生、それとトリニティの聖園ミカ会長!」
「あ、私の事知ってるんだ。うん、キリノちゃんも頑張って!」
「了解です!」
中務キリノは威勢よくそう答えて呼んでいた彼女の先輩の方へと走っていった。
――
「さて、状況はあまり良くありませんが、戻りましょうか」
「あ、うん。そうだね」
私の声に中務キリノの方を見ていた聖園ミカが振り向き、ついてくる。
「それで、話とは?」
先程の話の通りだと、話してくれるだろう。彼女の言葉を待つ。
そして、聖園ミカが口を開いた。