「さっき、ハルナちゃんが私に言ったでしょ。暗い表情をしてるって、あの話なんだけど」
聖園ミカが話し始める。内容は彼女が思い悩んでいたことについてのようだ。
「ええ、実は、私も気になっていました」
状況が状況であり、尋ねられていなかったが、聖園ミカの様子がやや落ち込み気味だったのは理解していた。
「あはは。だよね。結構、私って顔に出る方なのかな? 『
歩きながら、隣にいる私の方を見ずに彼女は話し続ける。
「では、何を悩んでいたのですか?」
「えーとね、それを言葉にするのがちょっと難しいってことなんだけどね……多分、羨ましかったんだ。皆が、特にあの子やナツちゃんが、美味しいスイーツを食べたいって、ただそれだけであそ
こまで一生懸命になれることが」
「そうなのですね」
「うん。それで、自分で言うのもなんだけど……私ってさ、強いでしょ。まあ頭はそんなに良くないかもしれないど、要領は良いし、なんでもそつなくこなせるっていうか……tね」
聖園ミカが急に自画自賛を始める。勿論後に言いたい話があるのだろうが
「……本当に自分で言うのも何という話ですが、そうですね。そして、それに助けられている身で
もあります」
「だったら。うん、そのこと自体は良いんだけどね。でも、
聖園ミカの抱えていた悩みの吐露を聞き、その言葉への率直な感想としては、
ただ、そういうことを言っても、白い目で見られるだけだろう。
「ふむ、ミカさんはそこそこ自分の思うままに行動する方だと思っていましたが、繊細な悩みも持っているのですね」
「え? 喧嘩売られてる? 私、結構強いよ? 」
どうやら言い方を間違えたようだ。シッテムの箱の防御機能だけでは聖園ミカの相手はとてもできない。
「すみません。そういうつもりは無かったのですが。純粋に、意外だっただけです。何故なら……そうですね、ミカさんは別に
「え」
聖園ミカが虚を突かれたような表情になる。それほど私の言葉が意外だったようだ。
「まあ、私が言っても納得しないと思いますので、ご自分で考えてみてください。そろそろ、車が見えてくることですし」
いずれにしろ、今はあまり悩んでいても仕方ない事だろう。それに、今回のことが何かのきっかけにでもなるかもしれない。
「えー、すごい気になる事言うね。しょうがないなぁ」
聖園ミカは、納得しきれていない複雑な表情で、それでも一応頷いた。
―
「あ、先生! どうでした?」
車に戻ると、すぐに運転席の河和シズコに尋ねられた。
「残念ですが、出入り口が破壊されていて、復旧には数時間かかると。抗争の方はもう終わっているようだったんですが」
「やっぱりですかー……どうします? ナツ代表、ハルちゃんさん」
「ふむ……この地図の場所、高架下まで行ってみませんか? もしかしたら非常口があったりするかもしれません」
黒舘ハルナが提案し、柚鳥ナツも頷いた。トラックのある場所は、ここから15分ほどで着ける場所にある。
「まあ、ここまで来たらその位のこともやってみましょう!」
黒舘ハルナに釣られたのか、車に残っていたメンバーはかなりの覚悟を決めているようだ。私は万一の時に平和におさめる方法を考え始めていた。
──
今現在トラックが立ち往生していると思われる道路の、高架下までたどり着いた。期待していたような出入り口は存在していなかった。当然、階段なども存在しない。
「うーん、これはきついですね……」
河和シズコが呟く。
「とっかかりが無さすぎて、強引に入るのも無理じゃない? これ」
「うーん……」
杏山カズサと柚鳥ナツも、高架を眺めてため息をついていた。
「……そうですわね。……いつもなら、道路を壊してでも乗り込んでいた所ですが」
そして、その言葉に黒舘ハルナも同意した。その後何か呟いていたが、ここは彼女の率いている部活動ではないため、自制したということなのかもしれない。
しかし、ただ一人、聖園ミカだけは、高架とは別の場所をみていた。
「ねえ、先生、聞いても良い?」
彼女が見ていたのは、高架よりも高い場所にある、商業ビルだった。
「トラックがあるのってあの辺だよね」
そして彼女は高架の方に視線を映し、指さした。
「……ええ、そうですね」
彼女の意図は分からなかったが、私は頷いた。
「じゃあさ、
「……は?」
聖園ミカの突飛な提案に思わず声が出たが、他の生徒も呆気に取られている。
「……いやいや、無理でしょ。多分20mくらい離れてない? あれ」
杏山カズサが、敬語も忘れて真顔で否定した。
「っていうか、そもそもあのビルの屋上にはどうやっていくの? 屋上開放してるとは思えないんですけど……」
河和シズコも困惑しているようだ。
そして、黒舘ハルナは気を取り直したのか、黙って彼女を見ている。
「……行けるのかい?」
そして柚鳥ナツは、聖園ミカを疑っていないようだった。能力的には私も疑ってはいなかった。彼女がそれを言い出したことに驚いてはいたが。
「うん。ナツちゃん。私なら、出来ると思うよ。クーラーボックス持ったままでもあのくらいの距離なら飛べると思う。あそこまでは、いくつかの建物をつたえば行けるんじゃないかな」
聖園ミカが何てこともない、と言った様子で頷く。
「みんなが反対じゃなければ、行ってくるけど……」
そして彼女はそう言って、柚鳥ナツが抱えていたクーラーボックスを受け取る。
「お待ちください、ミカさん」
そして、それに待ったをかけたのは黒舘ハルナだった。
「あれ? あなたが止めるの?」
「まさか。ですが、一つお聞きしたいことがありまして」
意外そうに尋ねる聖園ミカに黒舘ハルナは首を振る。
「わたくしは正直、ミカさんは余り乗り気じゃないのだと思っていました。少なくとも美食や、スイーツに全力を掛ける、というタイプじゃないのは、普段のトーク上でも思っていましたので。勿論、このサークルはそれで良い、のですよね、代表?」
「うむ、来るものは拒まぬ。
黒舘ハルナは、柚鳥ナツの答えに満足そうに頷く。
「うふふ、ありがとうございます。ですが、ミカさんは今、自ら無茶をやる、と言い出しました。それはどうしてなのでしょうか。私の見立てが外れていただけであればよいのですが」
黒舘ハルナは彼女の疑問を問いかける。しかし、問われた方は、首を傾げて答えた。
「うん? だって、ナツちゃんも、ハルナちゃんも、皆も、あそこに行って、宝物を手に入れることが目的なんだよね? 私ならそれができるんだから、私がやったらいいんじゃないかな?」
聖園ミカはさもそれが当然だという口調で、そう言い切った。彼女にはその質問の意味が分からないようだ。またも、黒舘ハルナが呆気にとられる。
「あっ! こんなこと話してる場合じゃないよ! 急いでるんだよね、私、行ってくるね!」
そしてその様子を気にも留めず、聖園ミカが車を出ようとする。
「ちょ、待ってくださいミカさん! 仮に手に入ったとして、その後どうするつもりなんですか?」
河和シズコが慌てて引き留める。実際、急ぐにしろ多少の作戦会議は必要だろう。
「あっ、そっか。ごめん! 私、先走っちゃってたね」
聖園ミカが謝り、乗り出していた身を元に戻す。
「結局、あとどのくらい時間に余裕があるんですか?」
落ち着きと敬語を取り戻した杏山カズサが、誰にともなく尋ねた。回答の適任は私だろう。
「そうですね……戻る時間も考えると後30分といったところでしょうか」
「OK! じゃあ、作戦会議は5分! 他に何か考えることある?」
いつの間にか、聖園ミカが最も前のめりな形で、短い作戦会議が始まった。