短い作戦会議を終え、最初に車を出たのは、黒舘ハルナ、そして柚鳥ナツと杏山カズサの3人だった。
「先ほどの抗争と、指名手配犯の逃走でこのあたりにもヴァルキューレ生徒が沢山いらっしゃいますね。目立つようなことをすれば見つかってしまうでしょう」
黒舘ハルナは作戦会議の中でそう言った。
「ですので、私がヴァルキューレの皆さんの注目を集めます。こう見えて私、結構『
自信をもってそう言う彼女だが、どういう方法で
「じゃあ、私たちも、ハルちゃん先輩に協力した方が良いかな? 野次馬の振りするとか?」
「ふっふっふー。名演を期待したまえ」
杏山カズサと柚鳥ナツは、そう言って黒舘ハルナの後を追った。あの二人を巻き込んでまで危ないことはしないだろう。恐らく。
「じゃあ、私はフルーツを回収したら、あそこから飛び降りてくるから、シズコちゃんは頑張って回収してくれる?」
「
河和シズコが念を押すように言う。それでも救急車で済むとおもっているあたりがキヴォトス人らしいところだろうが。
「あはは、面白い冗談言うね。大丈夫だよ。クーラーボックスには出来るだけ衝撃を与えないようにするから!」
「……あ、あははは……了解です。何とかやります」
「ありがと! じゃあ、先生は何かあったら連絡する係ってことで、よろしくね!」
その返事を聞き、聖園ミカはクーラーボックスを抱えて外へと出た。
──
混乱を避けるため、オーナーを経由して、ドライバーに生徒が直接取りに来ると連絡をさせておく。オーナーは動揺していたが、すぐに連絡すると返事があったので、問題は無いだろう。
黒舘ハルナが何をやったかは、具体的には分からなかったが、辺りが少し騒がしくなった。
私も外に出て、様子を確認する。
「おい、なんだってこのタイミングで美食研まで現れるんだよ!? 」
「トリニティ生が巻き込まれてるって話らしいぞ、何かあったら最悪戦争が起こる! 」
ヴァルキューレの制服を着た生徒が二人、そう言いながら走ってとあるビルへ向かっていた。
そのビルは、商業施設になっており、地下にフードコートがあるようだ。そのビルは丁度、聖園ミカが飛び立とうとしているビルから死角になっていた。
「ハルナさんは上手くやったようです。ミカさん、今なら見つかるリスクは低いと思います」
シッテムの箱の戦闘支援アプリを使用しながら、聖園ミカに告げる。リアルタイムで表示される俯瞰マップに、現在のトラックの位置がポイントされている。
先ほどヴァルキューレの中務キリノに聞いた通り、まだ立ち往生の状態が続いているようだ。
『おっけー。私も目的のビルの屋上に着いたとこだよ。今から飛ぶよ。……あ、私スカートじゃん!? 先生、覗き込まないでね!?』
「角度的に何も見えないと思いますが」
「あ、そっか。じゃあ、飛ぶから、見ててね!」
聖園ミカはそう言って通信を切った。
ビルの屋上を見る。ここからではまだ彼女の姿は見えない。しかし、数秒後、弾丸のような速度で人影が現れる。
そしてその勢いのまま、彼女は飛翔した。
視界に映っていたのは一瞬で、すぐに高架の上、私たちの目の届かないところへと消えていった。
『……すご』
自身の車の運転席から見ていた河和シズコの声が聞こえてくる
『って、言ってる場合じゃないですね。ミカさんが降りてくるから移動しないと』
そう言って車が移動し始めた時、戦闘支援アプリのマップ上に、知っている名前が見えた。それは、今最も見たくない相手でもあったが。気付けただけ良かったと言えるだろう。
気を逸らすために、こちらからその人物に近づいていく。
「
その人物、尾刃カンナが丁度聖園ミカが降りてくるところが視認可能な場所に到達するところで、声を掛けることが出来た。
「……こんにちは、先生。こんなところでお会いするとは。お仕事ですか?」
尾刃カンナはヴァルキューレの制服を着ておらず、私服であった。仕事で駆り出されていた、というわけではなかったのだろうか。
「そうですね……生徒の引率のようなものですが、仕事と言えば仕事なのでしょうか」
「引率? 立派な仕事だとは思いますが、その引率している他の生徒はどこに?」
尾刃カンナは訝し気にする。つい正直に話してしまったが、不味かっただろうか。まだ聖園ミカや河和シズコから任務成功の連絡が来ていない。まだ少し時間稼ぎをする必要があるだろう。
「実は、今少し別行動をしていまして。とはいえ、すぐに合流する予定です。カンナさんはお買い物ですか?」
「そのつもりだったのですが……応援に呼ばれてしまいまして。先生もお気を付けください。この辺りに指名手配犯とゲヘナのテロリストが練り歩いているという情報がありますので。……という訳ですので、私はこれからあのビルへ……」
尾刃カンナはそう言って、黒舘ハルナ達が入っていたビルの方に視線を向け、そこで口が止まった。
振り返ると、その方向からこちらに向かってきている人物の姿があった。それは私たちにとって、非常に好都合なことだった。黒舘ハルナと、トリニティの二人が優雅に並んでこちらに向かってきていた。
「あら、公安局の局長さんじゃありませんか。奇遇ですわね」
黒舘ハルナが笑顔で尾刃カンナに話しかける。堂々としたものだが、隣にいる杏山カズサの顔は何故か引き攣っていた。
そして柚鳥ナツは暢気にこちらに手を振っていた。
各々の手には何かを買ったらしい紙袋が握られていた。
「お前は、黒舘ハルナ? トリニティの生徒を巻き込んで何かをしようとしていると連絡があったが……」
「うふふ、そんな犯罪者でも見るような目つきで睨まないでくださいな。今日は、こちらのナツさんが立ち上げたサークル活動で、少し買い出しをしていただけですわ」
「『スイーツ探索クラブ』の代表、柚鳥ナツです。いえ~い」
他校の先輩から紹介を受けた柚鳥ナツは、物怖じせずにぼんやりと自己紹介をした。
「サークル活動……ああ、そういえばそんな噂を聞いたような……ということは、まさか」
尾刃カンナが、こちらに顔を向ける。
「ええ、そうですね。先程引率していると言ったのはこちらの皆さんのことです。もっとも、他に後二人いるのですが」
私が頷いてそう答えると、尾刃カンナは深いため息を吐いた。
「……つまり、黒舘ハルナはただサークル活動でトリニティ生と一緒に行動していただけで、騒ぎを起こすつもりは無かったと?」
「そもそも、いつも好き好んで騒ぎを起こしている訳ではありませんわ。という訳で、後ろから隠れて着いてきている子達にもそろそろ諦めて欲しいのですが」
「……」
尾刃カンナは黒舘ハルナと私、そして柚鳥ナツはと杏山カズサを一通り見た後、再度溜息をつき、
「……先生が引率されているということであれば、信用しましょう。後輩たちにも伝えておきます」
と言った。
その時、1台の車が近づいてきた。勿論、私たちが乗ってきた車だ。
「お待たせ! みんな! 何とかなったよ! あれ、職質中か何か?」
後部座席の窓を開き、聖園ミカが顔を見せて話しかけて来た。
「ただ世間話をしていただけですよ。……もう行っても?」
「……あ。え、ええ。勿論です」
動揺していた尾刃カンナから少し強引に許可を取る。
外にいた3人は急ぎ、車に乗り込んだ。私も助手席へと戻る。
「じゃ、出発しますよ! 時間、ちょっと押してるので!」
河和シズコがそう言って、車が発信する。彼女の言う通り、当初の出発予定時間を少し過ぎていた。
走り出す車の中で、『……聖園ミカ?』と尾刃カンナが呟く声が聞こえた気がした。
そして、車の中で、大きな歓声が上がった。
──
「ありがとうございます! とても大変だったでしょう!? 状態もギリギリですが、大丈夫そうです! 早速、作ってきますね!」
店に戻ると、オーナー兼パティシエは、大興奮しながら頭を何度も下げて、厨房へと消えていった。
元々は作業工程を見ても良い、ということだったはずだが、すっかり忘れているようだった。
しかし、生徒たちも強行作戦により疲労しており、それに文句を言うものはいなかった。
そして、小一時間ほどたっただろうか。
「お待たせいたしました。『ノーブルチェリモヤのムース』を中心に、当店自慢のジェラート、ケーキを添えた、プレミアムスイーツセットです」
ついにオーナーが、完成品を持って現れた。
「「おー!!」」
生徒たちが思い思いの声を上げ、店内に拍手が鳴り響いた。
──
結果として、今回の試食会自体は成功の裡に終了したと言えるだろう。生徒たちは会話をすることも忘れ、スイーツに夢中になっていた。
オーナーへは、実際に販売する前に運送方法等に問題が無いか再度検討するよう提言した。結果として、何故かこちらが貸しを作るようなことになってしまったのも、一つの良かった点だと言えるだろう。
そして、改めてレビューを出す場合のルールなどを確認したうえで、本日のサークル活動は終了となった。
「じゃあ、私は車なので、お先に失礼します! 今度はまた、うちに来てくださいね!」
河和シズコがそう言って帰っていく。
「私たちはトリニティだから、ハルちゃんだけ別だね」
「そうですね。今日という日は少し名残惜しい気がしますが……またいつでも、このような集まりを開くのでしょう? ね、代表さん」
流れで見送ることになり、駅に着いた。名残惜しそうに言う、聖園ミカに、黒舘ハルナが回答として、柚鳥ナツに話を振った。
最初は不穏な空気が流れたが、今はそう言った様子は無い。
「うむうむ。キャスパリーグ以外のスイーツ部のメンバーも紹介したいし、今度はトリニティで集まっても良い」
「それやめろってんでしょ」
「公安局長さんの前でたじたじになってたじゃないか。何か
「あんた気付いてたの!?」
杏山カズサと柚鳥ナツが漫才を始める。
「あはは、本当に仲良しだね。うん、でもトリニティにも美味しいお店色々あるから、それも本当にありだね! ……あなたの他のお友達とか、フウカちゃんも一緒に」
おそらく最後の人物が本命だろう。相変わらず、愛清フウカのことになると少し奇妙な態度をとる。
「あら、私がフウカさんと『お友達』なこと、信じていただけたのですか?」
「信じたっていうか……フウカちゃんに直接モモトークで聞いたからね。本人
そして、軽口をたたき合っている二組が、それぞれ、私に挨拶をして、改札内へと去っていく。
本当に、随分と打ち解けたものだ。
──
聖園ミカには言わなかったが、結局のところ、彼女自身が人に羨ましく思っていた「全力をかけられるもの」を、既に彼女は持っているのだろう。
それは、黒舘ハルナとのやり取りの中でも明白だった。
いつの日か、彼女はそれに自ら気が付く日が来るだろう。それ以前に、直接彼女に伝える気には、私は何故かならないのだった。
この話はイベストを意識して書きました。
いかがだったでしょうか。