黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

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図書委員会とアリウスの古書①

 ポルタパシスが新しいエデン条約の調印式会場に選ばれ、その修繕にあたり、ポルタパシスの地下書庫に所蔵されている書籍の類は、一時的にトリニティ図書館委員会の預かりになることになったらしい。

 

 あくまで一時的なもので、必要な改修を済ませた後、元に戻す予定だが、その際に、状態の悪い本に関しては修復が試みられるという話を聞いた。

 

 最近はそういったことに時間が取れなくなっていたが、私も研究者の端くれであった身分で、これまでに多くの書籍には触れて来た。

 

 キヴォトスでも有数な規模を誇るトリニティの図書館を覗いておこうと、修復の件を口実にアポイントを取った。

 

 

 ──

 

 トリニティの大図書館。これまでに何度もトリニティには足を運んでいたが、ここに来たことは今まで一度もなかった。

 

 中に入ると、外観からは分かりづらかったその規模の大きさがよく分かった。当然アリウスのポルタパシスとは比較にならないが、そのすべての書棚が丁寧に、清潔に管理されている事にも驚かされた。

 

「こんにちは、あなたが先生ですよね? 初めまして!」

 

 書架を眺めていると、一人の生徒に話しかけられた。恐らく図書委員会の生徒だろう。

 

「こんにちは。その通りです。あなたは図書委員会の?」

 

「はい。一年生の円堂シミコと言います。委員長……というより委員長のされているアリウスから預かっている古書の修復作業をご覧になりたいのですよね?」

 

 かなり具体的なアポイント内容が伝わっているようだ。というより、ティーパーティーを経由したアポイントで表立ってやり取りをしていたのはこの、円堂シミコだったのかもしれない。

 

「それもありますが、実際のところ、この図書館に興味があったというのが一番の大きな理由ですね」

「本当ですか!? 先生も本がお好きなんですね! どういった本を読まれるのですか?」

 

 円堂シミコが食いつきを見せた。図書委員会だけあって、本が好きなのだろう。

 

「一応、ここに赴任する前は研究者をやっていたこともありまして、本の虫だった時代もありますよ。学術書が多かったですが、それ以外の物も読まない訳ではありませんね」

 

「学術書ですね! ここにも様々なジャンルのものが所蔵されていますよ! どのような研究をされていたのですか?」

 

 彼女は同好の士を見つけたかのように笑顔で話しかけてくるが、こちらの蔵書を探り始めると、いくら時間があっても足りないだろう。

 

「その話もしたいところですが、やはり最初に、委員長……古関ウイさんという方でしたか、にご挨拶をさせていただいてもよろしいですか?」

 

「あっ! そ、そうですよね。 すみません。では、詳しいお話は後でお聞きするとして、委員長のところへご案内しますね? 今はこの大図書館ではなく、()()()の方にいるはずです。といってもいつもそうなんですけどね。委員長は比喩でなく、()()()()()()()()()()()()()ですから」

 

 朗らかな笑顔で図書委員長についての説明を受ける。どうやら図書委員長も変わった人物であるようだ。

 

 

 円堂シミコに先導され、大図書館から、古書館へと移動する。古書館という名前にはなっているが、元々はそちらが図書館として利用されていたようだ。

 

「こちらが古書館です! どうぞ足下にお気をつけてお入りください」

 

 大図書館と比べると確かに小さいが、それでも一つの学校が持っている図書館としては大きめだと思われる建物の中に入る。

 

 開放的であった大図書館とは対照的に、古書館は薄暗く、また人の気配も殆ど感じられなかった。

 そして、その雰囲気自体はポルタパシスの地下書庫にも似ていた。

 と言っても、本棚が丁寧に掃除されている様子であるところは大きく異なっていたが。

 

「もう、またこんな薄暗くして……。委員長ー? ウイせんぱーい! いらっしゃいますよね!? お約束していた先生がいらっしゃいましたよ!」

 

 円堂シミコが館内に声を響かせると、奥の方で物音がした。どうやら、件の委員長は確かにこの古書館の中にいるのだろう。

 

 しかし、暫く待ってみても、その委員長があらわれることは無かった。円堂シミコと顔を見合わせ、奥の方へと進んでいく。

 

「委員長、先生がいらっしゃいましたよ!」

 

 そして声のした辺りで、再度円堂シミコが声をかけると、ようやくそれらしい反応があった。

 

「き、聞こえてますよ、シミコ。あれで聞こえない訳が無いでしょう……ですが、こちらも作業中で手が止められなかっただけです。それで……えぁっ!?

 

 顔を出した少女が、こちらに気付いて悲鳴を上げた。円堂シミコもそうだったが、最近ではそこそこ私の姿も認知されるようになったため、このような反応は久しぶりだった。

 

「初めまして、私がシャーレの先生をしているものです」

 

「……そ、そういえば以前新聞で見たことがありましたね。お、思ったよりも背が高かったので少し驚いてしまっただけです。こほん……こほっこほっ」

 

 古関ウイが咳払いをして、その後咳き込んだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ケホッ……は、はい。いえ……先生からいただいたアリウスの古書の確認と修復作業でかなり埃を吸い込んでしまっただけです。病気などではありませんので、ご心配いただかなくても、けほっ」

 

 古関ウイが咳の原因について説明した。気になる内容が幾つかあったが……

 

「それは申し訳ありません……ですが、あれは私の物ではありませんし、アリウスからの寄贈品でもありませんよ」

 

 あくまで預かりだという話で、修復については、図書委員会が厚意で行ってくれていると聞いたが、実際には異なるのだろうか。

 

「……………………ええ、そうです。先程のは言葉の綾です」

「完全に忘れてた人の反応ですね、委員長……」

 

 円堂シミコに呆れたように指摘される。この二人はどのような関係性なのだろうか。

 

「わ、忘れていたわけではありません! ここに所蔵されるものだといつの間にか思い込んでいただけです」

 

 言い訳にはなっていないような気がするが、古関ウイは憤慨したように訂正した。

 

「それでそのアリウスからの本はいかがですか?」

 

 そこを指摘しても仕方ないため、一先ず状況の確認をする。

 

「あの子達のことですか。まだすべてを確認したわけではありませんが、ほとんどの子がかなり埃をかぶっていて、それを綺麗に取り除くところから試みています。一部の物は劣化が激しくそのままでは内容が確認できないものがありましたので、そちらの修復もやってみています」

 

 得意分野の内容だからか、古関ウイは饒舌に語り始めた。

 

「内容に関しては……少し、変わっていると、私は思いました」

 

 狐坂ワカモは酷評していたアリウスの歴史書だが、古関ウイはやや異なる捉え方をしているようだ。

 

「あれを書いていた人は……年代で考えると、たくさんの人が書いていたはずですが……共通して、()()()()()()()()に囚われていて。それで、自分の考える世界……というより自分にとっての現実を、後世に遺すために書き記していたのだと思います。私は考古学者ではありませんから、それが偽史であろうと、創作であろうと、私には関係ありません」

 

 彼女はそう言って口を閉じた。

 

「……とても興味深い考察ですね」

「え、あっ……す、すみませんいきなり変な話をしてしまいました……ちょ、丁度修復作業をしていたところでして。見ていくということでしたよね?」

 

 古関ウイが焦ったように、先ほど出て来た奥の方に戻っていく。なかなか難しい人間ではあるようだが、一つ言えることは、彼女は本をこよなく愛しているのだろう、ということだった。

 

 

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