「冒険……アリスのことだから、ゲームの話かとも思ったが、そんなに大げさに言うということは、そういう訳ではないんだろう?」
冒険を提案した天童アリスに、百合園セイアが尋ねる。
「はい! アリスは皆と
「ふむ」
百合園セイアは肩を竦めてこちらを見た。おおよそ天童アリスが何を言いたいのかは分かるが、私に話を進めろ、ということだろうか
「……つまり、アリスさんは、遠足、あるいは合宿のようなことがやりたいということですか?」
おおよそ、この程度のことだろう。以前、彼女達を連れて百鬼夜行に少しだけいったことがあったが、それの延長版、みたいなものだろう。
「はい! そうとも言いかえられます! アリスは皆とお出かけがしたいです!」
各校の上級生たちは顔を見合わせた。
――
「合宿ですか。わたくしは別に構いませんけど、先生やセイアちゃんはお忙しいのではなくて?」
狐坂ワカモが私や百合園セイアに話を振る。
「仕事のスケジュールはつく、つかない、ではなくつけるものですので、私のことは気にしなくても構いません。ですが……セイアさんも、それからスバルさんももうしばらく忙しくなることでしょう」
もう間もなく、新エデン条約の調印式がある。少なくともその後の方が良いだろう。
「アリスは、いつ頃にやる想定だったんだい? 今話があったとおり、まだ少し忙しくてね。遠出するなら、こちらもスケジュール調整をしなければならないからね」
百合園セイアが頷いた。ティーパーティーの一員で、生徒会長でもある彼女は、平時でも多忙な日々を送ることになるはずだ。
「……あの、
一方、梯スバルはまだ自分が頭数に入っていることにすら疑問を感じているようだった。
「……嫌ですか?」
天童アリスが梯スバルをじっと見上げる。
「い、嫌とはいっていません。ただ、確認をしただけです。そういうのも経験だと思いますし」
梯スバルが慌てて訂正する。天童アリスが再び満面の笑みになった。
「良かったです! いつ頃やるかはホシノと一緒に話しました!」
天童アリスが小鳥遊ホシノを見る。そして、彼女が口を開くのを待った。
「うへ、おじさんに振るの~? まー、やるなら夏が良いんじゃないって話していただけだよ。ほら、色々落ち着くだろうし?」
小鳥遊ホシノはその期待に応え、彼女の話を引き継いだ。
「……夏、か。良いね、長期休暇もあるし、いくら忙しいとはいえ、そのころには休む口実も取れるだろう」
「私も……まだ分かりませんが、全く時間が取れない、ということは無いと思います。」
百合園セイアと梯スバルが頷いた。これで、全員満場一致で、合宿、もとい冒険に行く、ということが決まった。
――
生徒たちはその流れのまま、雑談交じりの打ち合わせを始めた。
「それでホシノさん、アリスさん。どこか行く場所の目星は立てているんですの?」
狐坂ワカモが最初に相談していたという二人に話を振る。
「ちょっと良いかい、ワカモ」
しかし、それに反応したのは百合園セイアだった。
「何でしょうセイアちゃん♡」
「……それのことだよ。どうしてそう一貫性が無いんだい?」
「一貫性……?」
何を言っているのか分からないと首を傾げる狐坂ワカモに、百合園セイアは溜息をついた。
「ここにいる者の名を順に呼んでいってくれないか?」
「え? はい。いいですわよ。ホシノさん、アリスさん、
要求された通り、彼女は順々に名前を呼んでいき、最後に自分を数えた。
「だから、それだと言っているんだ。何故アリスやホシノはさん付けで、私だけちゃん付けなんだい? 子ども扱いされているみたいで、あまりいい気分はしないんだが」
百合園セイアが唇を尖らせてそういった。打ち合わせの腰を折るほどには気になっていたのだろう。
「あら……子ども扱いをしているつもりは無かったのですが……では、アリスさんのこともアリスちゃんと呼ぶことにしましょうか」
「根本的な解決になってないじゃないか!?」
百合園セイアが怒りの声を上げた。一方で、狐坂ワカモは目に見えて落ち込んでいるように見えた。
「……ごめんなさい。では、セイアさん……と、お呼びいたしますね……」
「うっ……そんなに落ち込むことかい?」
耳を垂れさせつつ項垂れ、狐坂ワカモはそう言った。
小鳥遊ホシノが天童アリスに何か耳打ちをする。天童アリスは大きくうなずいて、狐坂ワカモに近づき、頭を撫でた。
そして狐坂ワカモはそれに反応して、大げさに天童アリスに泣きついた。恐らく演技だろうが。
「……セイア、ワカモが可哀そうです。ワカモはセイアを好きなだけで、子ども扱いしている訳じゃないと思います」
「おじさんもそう思うな~。というか、セイアちゃんも本当は嫌じゃないんでしょー?」
天童アリスと小鳥遊ホシノが、百合園セイアに抗議する。
「おっと。何だい突然四面楚歌じゃないか。え? これ私が悪いのかい?」
百合園セイアはそう言って私を見る。私はそんなこと知る由もないが。私が肩を竦めると、彼女は溜息をついて、
「はぁ……この茶番、いつまで続けるんだい? どうせ言ったって聞くようなタイプでもないだろう? もう好きに呼びたまえよ」
「え……良いのですか?」
狐坂ワカモが天童アリスの腰辺りに押し付けていた顔を上げた。
「……ホシノにも指摘された通り、ちょっと恥ずかしくなっただけ、というのも事実だからね。過度な愛情表現は少し控えてもらいたいが、呼び方くらいなら、別に良いさ」
「セイアちゃん……!!! 大好きですわ!!!!♡♡♡」
「待っ!!!??」
狐坂ワカモが感極まって百合園セイアに飛びつく。百合園セイアは咄嗟に机を盾にしようとしたが、狐坂ワカモは平然と飛び上がり、背後から彼女を抱きしめた。
「だ、だから過度な愛情表現を控えろと言ったところだろう!!?」
「控えていますわ♡ 95%カットしてこれくらいの出力です!」
「怖い事を平然と言わないでくれ!? それと、また全く身動きがとれないんだが、本当にこれ、どうなっているんだい!!?」
百合園セイアはいつもの穏やかで冷静な姿を大きく崩し、狐坂ワカモから逃れようとしたが、一向にうまく行くような気配が無かった。
「あのセイアさんが、『
そして、それらの様子を、梯スバルは驚き半分、呆れ半分で見ていた。
――
「さて……それで、何の話でしたでしょうか」
ひとしきり遊んで満足したのか。狐坂ワカモは百合園セイアを膝に抱えたまま、全てを無かったことにするかのような言い方でそう言った。
「……はぁ、はぁ」
百合園セイアは答える気力もないようだ。
「合宿、いえ、冒険の場所をどこにしようか、という話でしたよね」
そうなると、次点でまともな進行が出来そうな生徒、梯スバルが自発的に舵を取り始めた。
「アリスちゃんと話した感じだと~、ありきたりだけど、海か、山かって感じだったよ~」
「もう一つありますよ、ホシノ。ホシノが言っていたじゃないですか」
小鳥遊ホシノが案を述べると、そこに天童アリスが待ったをかけた。
「え、アリスちゃんまさか」
「はい! 砂漠です! アビドスの砂漠にはお宝が眠っているんです!」
「……うへー、流石に夏の砂漠は慣れてない子達は大変だら、おじさんそれはまたの機会が良いと思うな~」
小鳥遊ホシノは苦笑いして頬を掻き、そう言った。
――
その後、とりあえず山か海、という適当な内容が決まり、後は殆ど雑談をして、その日の集まりは終了となった。
最初は引き気味であった梯スバルも、どこかのタイミングで開き直ったのか、最後には普通に話が出来るようになっていた。
もうすぐ夏が来る。しかしその前に、私たちはいくつかの大きな出来事を乗り越える必要がある。そして、そのための準備も、私はまた進めるのだった。