突発的に始まった編入先プレゼン大会。3校目の生徒が話を始める。
「トリニティ総合学園、2年生の阿慈谷ヒフミです! 部活は……今は入っていません。『元』補習授業部です。テマちゃんとは一度お話したことありますよね?」
まず阿慈谷ヒフミが他校の生徒にも分かるようにと自己紹介をする。彼女はシャーレのカフェに来ては布教活動、もとい同好の士を探しているようだったので、不思議ではない。
「あれあれ? ヒフミはモモフレンズ愛好会のペロロ様原理主義者だと思ってましたよぉ?」
そしてテマは、ヒフミのことは揶揄っても良い相手だと思っているらしく、そう言って笑った。
「何ですかそれ!? ……ま、まあ大変名誉な肩書ではあるのでそう思っていただくのもアリですねっ!」
「うーん、変人ですねぇ……」
意地悪く言ったつもりのテマが、どこかずれている阿慈谷ヒフミに引き気味になっている。
「ですが、今はペロロ様の話ではなく、トリニティの話をさせてください!
阿慈谷ヒフミが真顔でそう言って、テマは眼を逸らした。
「トリニティ総合学園は先ほどお話したチアキさんのゲヘナ学園や、モモイちゃん、ミドリちゃんの通うミレニアムサイエンススクールと同じ三大校に数えられる大型校です。同じ学年の子でもなかなか覚えきれない位たくさんの生徒が通っています」
そういった彼女は、ちらりと河駒風ラブの方を見た。
「ん? 何よこっち見て」
自分の番を終え、清々しい表情でプレゼン大会を眺めていた河駒風ラブが、その視線に気づき尋ねる。
「い、いえ。ラブさんとはお話したこと無かったな、と思って……見かけたことはあったんですけど」
阿慈谷ヒフミが慌てて言い訳のような説明をする。
「ふーん? まあ、良いんじゃないの別に。結局こうやって話せてるんだしさ」
河駒風ラブが阿慈谷ヒフミから目を逸らしてそう言った。実に彼女らしいフォローの仕方である。
「あ……はい! そうですね! えーと、それでトリニティの説明なんですけどゲヘナのようにとにかく自由! という訳ではありません。やってはいけないこと、やらなければならないことがあり、破れば罰則があります」
彼女が補習授業部に入れらたのも、紆余曲折はあったが罰則のような物であることには違いない。そういう意味で、彼女の言葉には実感が伴っていた。
テマが嫌そうな顔をする。
「ですが、厳しいとか、不自由、ということではないです。皆、決められたルールの中でやりたいことを探して、学校生活を楽しんでいます。部活や委員会に入ったり、私のように入っていなくても友達と遊んだり、あるいは、私の後輩でも自分で部活を作っちゃった子もいます」
「それで、私なりにトリニティの良いところを考えたんです。それは、ルールと規範の中で自分の進む道を自分で選びとる。そういうことを学べる場だと思います。だから、今やりたいことを諦める必要はないんです」
トリニティでもルールを飛び越える者はいるが、彼女の言っていることも間違いではないだろう。説得力の問題は、
「それと、基本的に寮生活になるので、同じ年代の子と共同生活をする、というのも貴重な体験だと思います。テマちゃんの場合は今もあまり変わらないかもしれませんが……」
「うーん……? よく分かりませんが、トリニティでも好きなことが出来ない訳では無い、というのは分かりましたよぉ? でも、ゲヘナと比べるとちょっと分かりづらかったですねぇ」
いつの間にか批評家気取りになったのか、テマは阿慈谷ヒフミの説明に駄目出しをした。
「うっ……あはは、私もそう思います。なので、ここは実際の転校生であるアズサちゃんにもトリニティがどういうところなのか、話してもらおうと思います!」
「え? 私か?」
「何で意外そうなんですか!?」
白洲アズサが首を傾げた。しかし、特に嫌がるでもなく、彼女は口を開いた。
「トリニティか……
そして、それだけを言って、再び口を閉じた。
「それだけですか!? もうちょっと、ほら、どういうところが良かった事とか、ありますよね!?」
「良かった事? ……そうだな、ヒフミや、他のみんなと会えたことはとても良かったことだぞ」
「アズサちゃん!!」
そして白洲アズサの率直な回答に阿慈谷ヒフミは感極まったようで、彼女に抱き着いた。
「……終わりですかぁ? まあ、ヒフミが幸せそうなので、良いところなんですかねぇ?」
テマは呆れたようにそう言った。
――
「じゃあ、次は私の番だね。4番」
我に返った阿慈谷ヒフミが、白洲アズサと共にそそくさと席に着くと、秤アツコが立ち上がった。
「そもそも、今までのアリウスと、これから立ち上がる予定のアリウス高等学校は、はっきりと別物になる予定だし、どういう学校なの? っていうのもこれからみんなで考えるところなんだよね」
「それじゃ、学校紹介にならないですよね? じゃあなんで立候補したんですかぁ?」
今度は煽るつもりではなく、純粋に疑問を感じたようでテマはそう尋ねた。
「ふふっ、それはね。……新入生が欲しいからだよ。切実に」
秤アツコが手間の方に歩み寄り、顔を至近距離まで近づけて、そう言った。
「ひっ!?」
テマが小さく悲鳴を上げる。迫力に押されたようだ。
「本当にそうで、何故なら、アリウスには新入生となるような子が殆どいないんだよね。募集はする予定だけど、どのくらい集まるものか、予測も立たないし」
秤アツコは何事も無かったように元の場所に戻ると、あまり困っているようには見えない口調でそう言った。
「でも、メリットというか、面白さはあると思うんだ。まだ何も決まっていない学校っていうのも」
「な、何がですかぁ?」
秤アツコとテマの間では格付けが済んだらしく、テマは彼女に促されるように質問をした。
「何も決まっていない、というのはさ、
元宮チアキや、トリニティの二人が学校の魅力を一般的な視点で解説していたのに対し、彼女はテマだけを相手取ったプレゼンを仕掛けていた。
「新しくできた学校の最初の新入生として、完全に新たな視点で学校を一緒に作っていける。楽しそうじゃない? 私もきっと楽しくなると思う。」
「そ、そう言われるとそんな気もしてきましたねぇ……」
そして、テマは今までの3人の中で最も心を掴まれているようであった。
「まあ、そうはいっても大変だとは思うけどね。色々不自由させちゃうとも思うし、いろいろと不備は出てくると思うから、もし、アリウスに入るならその辺りは了承しておいてほしいところだけどね。他の子達の話も聞いて、よく考えて選んで欲しいな」
そして、恐らく周囲に強引な印象を植え付けない、という意味も含んでいるのだろう。彼女は最後にそう言って締めくくった。
「凄いな……アツコって私と同い年だよな。あんなに引き込まれる演説ができるんだな」
ただ首を縦に振るテマの横で、空井サキが感嘆の声を上げた。確かに彼女の話す言葉には力がある。私も以前、その事を実感したことがあった。
そして、このプレゼン大会も、残すところ、後二人、二つの学校のみとなった。
「じゃあ、次は私の番。5番だよ。」
そして、アビドスの砂狼シロコが立ち上がった。彼女にはあまり説明が上手いという印象は無かったが、どのようなことを話すのだろうか。
私もテマや他の生徒たちと同様に、彼女が説明を始めるのを待った。