「アビドス高校の2年生、砂狼シロコ。あなた……えっと、テマ、だっけ。テマはアビドスのことは知ってる?」
砂狼シロコは、まず質問から入った。
「全然知りませんねぇ。名前くらいは聞いた事があったかもしれませんけど。どういうところなんですかぁ?」
話を聞くことに慣れて来たのか、テマは自ら話を促した。
「アビドスは……砂が、一杯ある」
笑顔で見ていた阿慈谷ヒフミがからずり落ちそうになっていた。
「砂?」
「ん、砂漠だから。……校舎も半分砂に埋まってる」
案の定、砂狼シロコはこの話し合いの意図を理解しているのかいないのか、妙にずれたことを言っていた。
「ええ……全然行きたくないんですけどぉ」
当然、テマもこのような反応になる。砂狼シロコは何故か首を傾げた。
「し、シロコちゃん。アビドスの魅力を教えてあげたらいいんじゃないかな!?」
そして阿慈谷ヒフミが何故かアドバイスをしていた。
「魅力……みんながいて、楽しい。最近はヘルメット団もあんまり襲ってこなくなったし、平和。」
ヘルメット団、というところで、河駒風ラブに視線が集まり、彼女は大きく首を振った。
「う、うーん? 流石にもっと、何か無いんですかぁ?
テマが意地悪く言うでもなく、気を遣うような反応を示している。余程のことではないだろうか。
「んー…… あ」
「な、何か思いつきましたかぁ?」
「他の学校には無くてアビドスにあるもの、あるよ」
「それは……?」
テマが期待の眼差しで彼女を見る。
「
「それあっちゃダメな奴じゃないですかぁ!?」
カイザーから連邦生徒会に借り換えて現在返済猶予期間となっている。つまり今すぐ返す必要があるものではないし、テマの言うようにあってはいけないもの、という訳では無いが、借金は借金だ。
「あ、
「その話だけ思い出してほしかったですねぇ…… というかあなた、本当に勧誘する気はあるんですかぁ?」
呆れたように尋ねるテマに、砂狼シロコは頷いた。
「ある」
「う、何でですかぁ?」
砂狼シロコにとって、それだけは間違いなく事実のようだった。
「アビドスは、アリウスの逆。廃校の危機だから。全校生徒5人だし、1年生は2人。来年の新入生が入るかもわからない。だから、新しい生徒は必要。多少強引にでも」
成程、こう見えて砂狼シロコはアビドスの状況について正確に理解していたらしい。
テマは慄いているが、砂狼シロコはそれ以上のことを言うつもりは無いようだった。
「だから、興味があったらアビドスに来てほしい。よろしくね」
彼女はそう言って自分のプレゼンを締めくくった。プレゼンとしては良い部類では無いとは思うが、それでも、印象を与えたという意味では、ある程度効果はあったのかもしれない。
――
「結局私たち最後じゃん! 待ちくたびれちゃったよー!?」
「くじ引きに文句言っても仕方ないでしょ、お姉ちゃん」
憤慨した様子の才羽モモイが、妹に窘められている。
「むむむ……まあいっか! じゃあ最後だけどよろしくね! 私は才羽モモイ! 知ってると思うけど、ミレニアムの1年生で、部活はゲーム開発部だよ!」
「正式名称はミレニアムサイエンススクール、でしょ」
「そうだっけ?」
「……」
才羽ミドリが小さくため息をついた。
「確かに前に言ってましたねぇ。何をしているかは知らないです」
この二人は以前からの知り合いであったらしく、テマも普通に返事をしている。
「おっ、気になるー? じゃあ、まずはゲーム開発部の紹介をしてあげるね! ゲーム開発部は5人のメンバーがいてまず私が、シナリオライター!」
「それで、私がグラフィック・デザイン担当の才羽ミドリ」
「おお! 手前も文章書いたりお絵描きするのは好きですよぉ」
二人の言葉には、テマは興味を惹かれたようだ
「ほんと? じゃあ有望株だね! それから、プラグラマー、兼部長のユズ。最強のゲーマーでもあるよ! 他に、アリスとコユキがいて、2人はテストプレイやデバッグとSNS運用とかをやってるね」
「アリスちゃんはまだ一応正式な部員ではないんだけどね」
聞いた話によると、黒崎コユキには尋常ではない程デバッグの才能があるそうだ。常軌を逸した手段で再現性のあるバグを見つけてきてしまうので、困ってしまうこともあるらしいが。
「それで、テマちゃんがゲーム開発部に入ったときのメリットを教えてあげればいいんだっけ?」
「そうだけど……お姉ちゃん、自分の番が来るまでに何も考えてなかったの?」
才羽妹が姉を問い詰めているが、そういう問題なのだろうか。
「そもそも、手前がどの部活に入るという話はしてないと思うんですけどぉ」
「まあいいじゃん! ゲーム開発部に入ると……まず、ゲームがやり放題」
「それはまぁ、楽しそう? かもですね」
適当な才羽モモイにテマが流されている。
「それと、プログラミングやイラストをただで教えてもらえるよ!」
「お姉ちゃん、勝手に何言ってるの!? 私、教えてあげられるような感じじゃ」
事前の打ち合わせを何もやっていないので、姉妹間で齟齬が生まれている。
「えーっ!? ミドリ、とっても上手じゃん!」
「え? えへへ、まあ、それはそうかもだけど……」
「手前、何を見せられているんですかぁ?」
姉妹漫才を始めた二人に、テマは呆れている。そもそも、これはプレゼンなのだろうか。
「まだまだあるよ! お菓子も食べ放題だし、悪いことはセミナーの
才羽モモイは調子に乗って話を続ける。その時、テマはモモイの方、その背後、カフェの入口の方を見た。
話に夢中になっていて、才羽モモイはそれに気づいていない。
「それも、ユウカはアリスみたいな可愛い女の子には甘いから、テマちゃんもちょっと甘えたら許してくれると思う!」
「なるほどぉ、モモイちゃん。手前様はなんというか、怖いもの知らずなんですねぇ……」
テマが彼女から眼を逸らしながらそう言った。才羽ミドリも、そして話し合いに参加していたほとんどの生徒も同様だった。
「え、何のこおわぁっ!?」
「モーモーイー? そう、あなた、そんなふうに考えてたのね?」
早瀬ユウカが、才羽モモイの背後から彼女の頭を掴んで、そう言った。
「ユウカっ!? どど、どうしてここにっ!?」
「何でって、それは……先生がカフェに行ってくると言ったきり戻らないから、少し気になって……」
早瀬ユウカは、そう言って私の方をちらりと見た。
「ああ、すみません。任せきりにしてしまって。少し面白そうな話をしていたもので」
「お仕事なので、それは良いんですけど……一体何をしていたんですか?」
私の言葉に、彼女は首を傾げた。
――
「成程。それなのに、モモイはミレニアムの話はせずにずっとゲーム開発部の話をしてのね?」
「後で話そうとしてたんだってー!?」
「どうかしら? でも、確かに面白い試みではありますね。テマちゃんをどこの学校に編入させるかの話し合い、ですか……」
早瀬ユウカは才羽モモイをいちど小突いてから、納得したように、頷いた。
「お二人は、知り合いでしたか」
「当たり前ですよぉ? ユウカちゃん、しょっちゅうシャーレにいるじゃないですか」
テマに真っ当な指摘を受ける。それもそうではある。
「でも、編入先を決めるなら、プレゼンするよりもっと良い方法があるんじゃないかしら」
そして早瀬ユウカは、人差し指を上げて提案する。生徒たちの視点は彼女に集まっている。
「学校見学に来てもらえばいいのよ、順番に。どうかしら?」
生徒たちと、テマから拍手が上がった。
――
その後、話し合いの結果、提案した早瀬ユウカのミレニアムに行ってみる、ということになった。
テマもゲーム開発部には興味があるようだったので、適当ではあるだろう。
丁度、私もミレニアムには再度足を運ぶ必要があると思っていたところだ。