「ほわぁっ!? 凄い建物ですねぇっ!!?」
ミレニアムの目の前にある駅を出たところで、テマが叫んだ。
出発する時点で今までに見たことの無いはしゃぎぶりだったが、それが収まることはなく、むしろさらに上回っていくような様子だった。
「外見で驚いている場合ではありませんよ。ミレニアムの真の凄さは実際に中に入って見なければ分かりませんからね」
「そ、そんなにですかぁ!?」
「ちょっと先生、これ以上期待させないでよ。落ち着かせるのが手間なんだから!」
私の一言でテマは更に燃え上がり、高倉クルミが私に文句を言った。しかしそう言いつつも彼女の口元は笑みを浮かべていた。普段閉じこもっている少女が外に出てはしゃいでいることを喜んでいるようだ。
「まあ、とりあえず行きましょうか。セキュリティを通った後で迎えがあるはずです」
そして、私たちはミレニアム校舎へと向かった。
――
「先生! お待ちしてました! それと、テマちゃん、ようこそ、ミレニアムへ」
「にはは、おはようございます!」
無事、ミレニアムのセキュリティゲートを通過したところで、そこには、早瀬ユウカと黒崎コユキがいた。
「それから、高倉クルミさん、ですよね。テマちゃんの護衛役、と聞いています。よろしくお願いします」
「仕事に関しては任せて、SRTとしてね。それより、今まであんまり話して来なかったけど、私も
あなたと話してみたかったのよね。ユキノの
「え? ら、ライバル?」
「ううん、こっちの話。まあ、今日の主役は私じゃないから、今は良いわ。とにかく、よろしくね」
高倉クルミのよくわからない話に、早瀬ユウカは首を傾げた。
「おはようございます。ユウカさん、コユキさん。朝からテマさんがもう待ちきれないと言った状態でしたので、なかなか大変でしたよ」
「て、手前様!? 嘘を吐いてはいけませんよぉ!?」
何も嘘ではないが、ミレニアムの生徒たちに自分が楽しみにしていたと明かされるのが気恥ずかしいのか、慌ててそれを否定した。
「そうよ、先生。今朝からじゃないわ。昨夜からサキの部屋で大騒ぎしてたの、知ってるんだからら」
「クルミちゃん!?」
そして、高倉クルミにあっさりと、私も知らない情報をバラされていた。
「ふふっ、そんなに楽しみにしてくれていたなら嬉しいわ。この後、先生と私は別の用事があって暫く抜けるので、その間の案内はコユキにお願いしています」
「コユキちゃん? ゲーム開発部ではなかったですかぁ?」
「今日は、セミナーの黒崎コユキです! にはは、じつは兼部状態なんです!」
「けんぶ?」
テマは兼部と語彙を知らなかったようで、まずその意味から確認していた。そして知らぬ間に、黒崎コユキはセミナーに正式に復帰していたようだ。ゲーム開発部へ加入以降、大きな問題を起こしていないようなので納得ではあるが。
「用があると言っても、まだ少し時間があるから簡単にミレニアムのことを解説しながら、少し見て回りましょう。その後はコユキにバトンタッチするわね」
才羽モモイの学校紹介はほぼゲーム開発部の話しかしていなかったため、テマはミレニアムの情報をあまり持っていない。そのことを早瀬ユウカは気にしていたのだろう。
私たちは彼女に着いていくことになった。
――
「多分モモイは説明しなかったと思うけど、ミレニアムに入ると、基本的に何かしらの部活動や委員会に最低一つは入ることになるわ。トリニティやゲヘナでは部活動に入っていない、いわゆる帰宅部の子がいたと思うけど、ミレニアムでは殆どいない」
多くの研究室が存在するスタディエリア内の建物で、早瀬ユウカが施設の紹介をしながらミレニアムでの学校生活を説明する。SRT特殊学園には部活動が存在しないが、ミレニアムは丁度その逆だった。
「どうしてですかぁ?」
「部活動や委員会、研究室に入って成果を挙げる、というのがミレニアムが生徒に求めている事なの。部活に入っていない生徒もいない訳では無いけど。その子達は基本的に単独で研究を行っているか、あるいは何らかの理由で部活動が廃止になって、次の入部先を決めていないかのどちらかよ。……まあ、例外はあるけど」
例外とは、恐らくヴェリタスのような非公認の部活が存在するからだろう。彼女達もまた、ミレニアムの生徒として在籍すること自体は当然認められている。
そして早瀬ユウカの回答に、テマは口先に手を当てて唸った。
「うーん、何だか難しいですねぇ」
「ふふっ、そんなに難しく考えることは無いのよ?
例えば、と彼女は続ける。
「例えば、モモイ達のいるゲーム開発部のように、既存技術を使って、新たな製品を生み出すことを目的とした部活もある。数学部や電気化学部は、研究そのものを目的とした部活動ね。他にもトレーニング部のように、実践的な成果を求める部活動もあるわ。新素材開発部や農業技術研究部は、普段の活動はあくまで研究がメインだけれど、他の部活や企業と連携して、製品開発に関わることもあるわ」
すらすらと話す彼女からは、話す内容を考えて来た、というだけでなく、
「テマちゃんはお絵描きや物語を書くのが好きなんでしょう?」
「え? そ、そうですねぇ。モモイちゃんからはだからゲーム開発部がオススメだと言われましたが」
不意に尋ねられ、おずおずと答えたテマに早瀬ユウカは微笑んで頷く。
「そうね。間違ってないわ。でも、ミレニアムの中でも他の選択肢は色々あるわ。分かりやすい例で言うと、映像技術部もアニメや映像作品を制作しているし、仮想現実研究部では架空の存在を現実に投影する方法を研究しているの。世の中に出回っているようなVRやAR空間とはレベルが格段に違う技術力よ」
テマはそういった技術を用いずに絵を具現化させていたが、当の本人は興味深そうに話を聞き入っていた。
「それと、入っている人が多いわけではないけれど、研究目的じゃない部活や委員会もあるわ。生徒会機関であり、私の所属しているセミナーもその一つね。主にミレニアムの運営を行っている部門で、セミナー保安部のような下部組織もあるわね。他に、ミレニアム購買部や……ちょっと変わったところではC&C……まあ、それはいっか。兼部が認められているのは、そうでもないとミレニアムに入ってわざわざそういった部門に就きたい生徒がほとんどいないから、という側面もあるわ」
運営部門に入っている学食や購買部での割引があるなど、いくつかの優遇措置があるらしいが、それでも加入生徒は非常に少ないという。
奇跡的に早瀬ユウカや生塩ノアが専属で所属していなければ、ミレニアムはまともに回っていないだろう。
「確かに、わざわざこの学校に来たのにそれを選ぶのは余程の物好きよね」
護衛という役目を意識してか殆ど口を開いていなかった高倉クルミが口を開いた。彼女も強い目的意識を持ってSRTに入学したのだろう。
「あはは、否定はできませんね。でも、私はミレニアムが好きですから、やりたくてやってますよ」
「あー、そうよね、ごめん」
「いえ、全然気にしてませんよ。」
高倉クルミは素直に謝り、早瀬ユウカが苦笑する。
「まあ、今は細かい部活の説明はあんまりできないけど、後でコユキや……そうね、モモイ達に案内してもらって、いくつかの部活を見学してみるのも良いと思う」
そう言って、彼女は黒崎コユキの方をちらりと見た。
「にはは、とりあえず、エンジニア部に連れて行ってみるつもりではありますよー。やっぱりミレニアムの花形といえばあそこだと思いますから!」
黒崎コユキは頷いてそう言った。確かにミレニアムのエンジニア部はかなり有名だ。
「うん、良いと思うわ。じゃあ、私たちは後少しだけど、もう少しだけ一緒に回りましょう」
「はーい」
テマはすっかりは彼女に懐いたようで、早瀬ユウカの言うことに素直に頷いた。早瀬ユウカにはやはりそのようなオーラが出ているのだろう。
――
「では、私とユウカさんは言っていた通り別件がありますので離脱します。コユキさん。テマさんをよろしくお願いします。クルミさんも、気を付けてくださいね」
「はい! 任せてください」
「誰に言っているのよ、当然でしょ」
それからしばらくして、次の約束の時間になった。
「じゃあ、行きましょー! まずは、ゲーム開発部の皆と合流ですね!」
そう言って4人が離れていくのを見て、私と早瀬ユウカは次の目的地へと向かった。
ミレニアムでも異質な部活動の一つ、特異現象捜査部の部室へと。