「さて、改めてようこそお越しくださいました、先生、ユウカ。このミレニアムの至宝にして完全無欠の超天才清楚系病弱美少女、明星ヒマリが部長を務める特異現象捜査部へ」
紆余曲折あり到着してから既に時間が経っているが相変わらずの激しすぎる自己賛美肩書を付けた名乗りを行い、明星ヒマリは優雅にほほ笑んだ。
「あの、前から思っていたんですけど、
この手の発言を気にしていてはまともに話し合いを行うことはできないと思っていたが、真面目な早瀬ユウカは頭痛を抑えるかのようにこめかみに手を当てて、そう質問した。
「病弱で儚げな雰囲気さえも私の魅力とは思いませんか?」
「まあ、そうなのかもしれませんが…… えっ、それ私の質問への回答ですか?」
再度の質問には、明星ヒマリは答えなかった。しかし、どことなく嬉しそうにしているのはなぜなのだろうか。
「部長のこの手の発言にいちいち突っ込んでたらキリがないよ、ユウカ」
「……そうね、十分理解したわ」
「なんだかつれないですね、ふたりとも」
和泉元エイミが呆れて口出しし、早瀬ユウカがそれに同意した。
「はあ……それで、ヒマリ先輩。私と先生を呼び出した理由は何ですか?」
「あら、私が呼び出した訳ではありませんよ。この会合を提案したのは先生ですから」
明星ヒマリがしれっとそう言うと、早瀬ユウカは私を睨んだ。説明はしていなかったが、嘘をついたわけでもない。
「まあそうですね。このミレニアムで、というよりキヴォトスで起きていることについて、ある程度ユウカさんにも共有しておこうと思いまして」
私は明星ヒマリの発言を認めた。当の本人からは最初、早瀬ユウカに共有することに慎重、というより難色を示していた。
しかし早瀬ユウカが天童アリスの実質的な後見人であることと、そして彼女自身が、そういうことから蚊帳の外にされてしまうことを嫌がっている、という事実から、最終的に明星ヒマリは、この会合の場を設けることに同意した。
「キヴォトスで起こっていること……? 何かまた、危険なことですか? 色々なことが起こっているのは、なんとなくわかってますけど」
早瀬ユウカは訝しげな様子だった。
「危険なこと、とも言えますし、そうではないとも言えますね。何よりもまず伝えておかなければならない話は、アリスさんのことです。」
「あ、アリスの……確かに、あの子の出自については気になるところですけど、なにかわかったんですか?」
天童アリスの話になったことで、早瀬ユウカの顔に緊張感が表れる。
「正確なことが分かっている、とは言えない状況です。ユウカさんもアリスさんを発見した時、共にいたのでわかると思いますが。そうですね、そこからです。人格などの要素を排除した時、彼女が
「は、はい」
彼女は不安そうに頷く。怖がらせるつもりは無い。まずは安心材料の一つが必要だろうか。
「さて、前提についてお話しましょうか。アリスさんは、こちらとしては
「えーと……はい。」
必要な前置きを済ませ、本題に移る。あまり迂遠な表現はするべきではないだろう。そう考えた。
「その上での話です。端的に話しますとアリスさんは、
「…………………すみません、全然意味がわからないんですけど」
早瀬ユウカは胡乱げな表情でこちらを見た。今の説明で納得できないとすれば、どこから確認すればよいだろうか。
「まず、ユウカさんは名もなき神々、というものを知っていますか?」
「ええと……
「ええ、そうですね…… 少なくとも私はそれが本当であることを知っていますし、リオさんとヒマリさんもこの件については同じ結論に達している、ということは事実です。」
私の返事に、彼女は明星ヒマリの方を見た。明星ヒマリは笑顔で頷いた。
「…………はぁ。つまり、本当なんですね」
早瀬ユウカはため息を一つついて、そう言った。
「おや、信じていただけるのですか」
「私が全く及ばない人たちが3人もそう考えているんです。
ともかくとされた明星ヒマリが心外そうな顔をしているが、彼女の考えは理解できた。突拍子もない話であっても聞く耳を持っている、というのはありがたいことだ。
「それで、アリスが名もなき神々の王女だと思われることはわかりました。それで、私はどうしたらいいんですか?」
早瀬ユウカは、私に尋ねる。とはいえ、彼女には天童アリスになにか不利益を生じさせるような行為はできないだろう。
「特に何もありません。」
「え?」
彼女はまた、半ば怒ったような表情で私を見た。
「最初にお話した通り、これは情報共有です。アリスさんは明らかに真っ当ではない出自を抱えていた。それの答えを知っていれば、これ以上気になることはないでしょう?」
「そ、それは……」
早瀬ユウカは反論できないようだが、それでも納得しづらい様子だ。
「それに、知っての通りアリスさんは非常に天真爛漫で、邪気のない人物です。彼女がシャーレに訪れるようになり、他校間の交流も盛んになりました。非常にありがたい生徒です。私にとっても」
「もちろん、私たちにとっても可愛い後輩でもありますよ。
明星ヒマリが補足する。調月リオはアレ呼ばわりだが。
「うーん……良いんでしょうか。私に特にできることがないのはそうなんすけど……」
今の早瀬ユウカが納得を求めいるのは言ってしまえば、思ったより重大な秘密を知ってしまったために、その混乱を引きずってしまっているのだろう。一つ、彼女は自分の立場を思い出す必要があるだろう、
「いえ、ユウカさんにできることはありますよ。今すぐやることはない、というだけで、重要な役割はあります」
「え?」
「ユウカさんは、現状この学校のゲストであるアリスさんの保護責任者です。彼女の出自に関しては、まだわかっていないことが多くあり、それが原因にしろ、別の原因にしろ、彼女の周りで何かしらのことが起こってしまう可能性は0ではないと考えています」
寧ろ、近い内に起こるだろう、と考えてもいる。
「それは……そうですね」
早瀬ユウカは神妙に頷く。
「もしそういうことが起きた時、ユウカさんには
天童アリスは危険を内包している。それは間違いがない。故に私は対処を考える必要性に迫られる場面が発生する、かもしれない。こういったことを頼めるのは、彼女以外にいなかった。
「それは……今更ですね。そもそもこの学校、そういう子たちばかりじゃないですか。みんな良い子だけど、突然意味不明な思いつきで暴走しちゃう子もたくさんいますし、アリスもそのうちの一人、というだけじゃないですか?」
「おか……ママだ」
和泉元エイミが口走る。尚、彼女が初めて口を挟んだのが、今の発言だ。
「言い直すならちゃんと言い直しなさいよ……」
そして早瀬ユウカはそれについて怒ることを諦めたようだ。
「でも……やっぱり、教えてくださってありがとうございます。何か起こったとき、私だけ何も知らずに不甲斐ない気持ちを抱えているのは、嫌なので」
早瀬ユウカはそう言って私に微笑んだ。
「なんだかお話が終わった雰囲気になっていますが、今度はこちらの話を聞いてもらってもいいですか?」
返事を返そうとする私に、明星ヒマリが割って入る。そういえば、ついでに話したいことがある、と、彼女はそう言っていた事を思い出した。
「これもユウカに聞かせるかは迷ったのですが、ここまで来たら
明星ヒマリは、私たちをそう脅しながら不敵な笑みを浮かべた。一方早瀬ユウカは、今すぐにここから立ち去りたいというような表情になるのだった。