怒り狂った元理事がいつ攻めてくるか分からなかったため、アビドス陣営は高校内で夜を明かすこととなった。
こちらの戦力はアビドスの生徒たちと便利屋68。そして、三大校の空崎ヒナ、阿慈谷ヒフミ、早瀬ユウカにそれぞれ依頼した協力がどのような形になるか、というところである。
その内、ミレニアムの早瀬ユウカからの支援はシンプルながらかなり有用なものだった。自律移動する戦闘ドローンと、戦闘ロボット。予算として渡した金額からは足が出ていると思われるが、これは早瀬ユウカの私費で補填してくれたようだ。
そしてゲヘナからは空崎ヒナから準備ができたとの連絡があったが、残るトリニティからの回答は未だない。しかし、追加された戦力に加え、小鳥遊ホシノがいる以上恐らく事足りるだろう。
翌朝早く、私の端末に1通のメールが届いた。差出人は隠蔽されており、それがシッテムの箱へ届いていること自体興味深いことであったが、そこにはとある座標が記されていた。そしてその座標は、私の良く知るものであった。そこに来い、ということだろう。
罠である可能性も考えたが、私の目的のためにはいった方が良いだろう。そう考え、外に出ると背後から声をかけられた。
「どうしたの? 黒服さん」
「ああ、アルさん。すみませんが、行くところが出来ました。こんな時に申し訳ありませんが……」
声をかけてきたのは陸八魔アルだった。誰にも言わずに行くつもりであったが、頓挫してしまった。
「出かけるの!? まさか一人で? 駄目よそれは。聞いた感じ貴方が一番恨まれてそうじゃない、殺されるわよ!? 誰か護衛につけないと」
「しかし、この状況で戦力を割く訳にはいかないでしょう」
いても単純な戦力にならない私が抜ける分には問題は少ないが、護衛をつけるとなると話は別だ。しかし、陸八魔アルは首を振った。
「そういう問題じゃないわ。ちょっと待ってて」
彼女はそう言ってどこかへ行き、すぐに戻ってきた。
「本当は私が行きたかったのだけれど、それは反対されたから代理を連れてきたわ。カヨコ、よろしくね」
「社長は戦力の要なんだから外れちゃ駄目でしょ……。という訳で私も行くから。護衛という意味では私が最適だと思うし」
陸八魔アルに続いて現れたのは鬼方カヨコだった。私は反対する理由を探したが、自分でも根拠に欠ける理由しか思いつかなかい。
「……それでは、お願いすることにしましょう」
仕方なく同行をお願いすることになり、例の座標には2人で行くことになった。
「それで、先生。私どこに行くか聞いてないんだけど」
「ああ、それがですね。私にもそこに何があるのかは分からないのです」
「何それ?」
向かっている場所、それは私が以前の時間軸であの『先生』と会話した場所であり、当時の私の拠点の一つだ。しかし、時間遡行後、その場所は特に何もない廃ビルであることは確認済みだ。
「その場所に行け、と指定された場所に向かっているのです」
「それ、明らかに罠じゃん」
鬼方カヨコが普段、よくしている溜息をつく。
「罠である、とわかったらすぐに戻るつもりですよ。頼りになる護衛もいらっしゃることですし」
「一人で行こうとしてたでしょ。……先生って、意外と適当なところあるよね」
心外なことを言われたが、特に時間遡行後、強迫的な作用のない時であっても、勢い任せの行動をしてしまうことがある。反省しなければ。
目的地の廃ビルにたどり着く。以前確認したときと変わっていないように見えるが、中に入ってみなければならないだろう。
しかし、敵の気配どころか、誰かがいる気配すらない。
「本当に、この中に何かあるの?」
鬼方カヨコが周囲を警戒しながら私に問いかける。それは分からない。
私は首を振る。
「それを今から確認するのです」
そう言って先へと進む。何があるか、何もないかは直にわかるだろう。そして、示されているであろう場所、ビルの上階にあるとある一室に足を踏み入れた。
果たして、そこには誰もいなかった。ただ、見覚えのある机が置いてあるだけ。いや、机の上に何かある。私がそれに気づいたとき、唐突に私の脳裏に様々な光景が浮かび上がった。
──
私が
小鳥遊ホシノが提案を吞んだ時の姿。
少し幼い小鳥遊ホシノへの提案をしている姿。
そして、私が"暁のホルス"という神秘を見つけたときの姿。
──
他にも何かを見た気がするが、それ以上のことは思い出せなかった。
「先生、大丈夫? 急に立ち止まって」
鬼方カヨコからの呼びかけで現実に立ち返る。
「いえ、大丈夫です。立ち眩みのようなものですかね?」
「本当に大丈夫?」
鬼方カヨコの不服そうな視線に再度大丈夫だといい、机へと近づく。今見せられた光景は、つまり以前の時間軸での私の記憶だろう。小鳥遊ホシノに同じようなことが起きたとしたら、昨日のことも説明がつけられそうだった。
机の上に置いてあるものを確認し、手に取る。小さくヒビの入ったカードだ。何とも分かりやすい。誰かから私への贈り物であろうそれをしまって、鬼方カヨコの方へ振り返る。
「帰りましょうか、カヨコさん」
「……了解。……結局、殆ど何もなかったみたいだけど、よかったの?」
「そうですね。いえ、結構大きな収穫がありましたよ」
「なら、良いけど」
確かにこの場所は誰もいなかった。しかし。
鬼方カヨコや、他の者にいっても仕方のないことだが、今回で分かったことはある。
それは、私の時間遡行が偶然起きた事象ではなく、それを起こした黒幕が存在するということ。そして、その黒幕はこの時間軸において、私が時間遡行していることを知っていて、何かをさせようとしているということ。
その二つが分かっただけで今回は十分だろう。
建物を出たところで、通常のモモトークへの着信通知が届く。それは小鳥遊ホシノの居場所を知らないかと確認する、砂狼シロコからのものだった。どうやら、すぐに学校に帰るわけにはいかないようだった。