飛鳥馬トキと名乗る生徒。恐らくは調月リオが明星ヒマリの周辺か、あるいは私の動向を確認するためにここにいたのだろうが、いずれにせよこの場での加勢はありがたかった。
『先生! お待たせ! 戦闘ドローンが到着するよ!』
そこで丁度良く、小鈎ハレからも報告があった。
『ちょっとだけ待てる? 効くか分からないけど、EMPグレネード。一発だけ持ってきてるから、使ってみたいんだけど』
高倉クルミが割って入る。通常はこちらの通信も途絶する可能性のあるEMPだが、シッテムの箱による戦闘支援は例外だ。戦闘に問題は無いことは高倉クルミも理解している。
『やってみましょう。ハレさんは効果の有無に関わらず、その爆発後にドローンを突入させてください』
『うん、やってみるよ』
私と小鈎ハレの言葉を待って、高倉クルミがEMPグレネードを投擲した。爆発と共に電磁パルスが発生する。
天童アリス以外のロボットには効果があり、明らかに動きが鈍くなっていた。
小鈎ハレのドローンがそれらを攻撃し、破壊に成功した。
『エイミさん、トキさん。アリスさんを!』
そして、唯一残っていた天童アリスを、二人がかりで抑えるよう指示を出す。2人は間髪を入れず動き、
「…………!!」
ついに、天童アリスがレールガンを手放した。そして彼女は、そのまま機能停止したかのように、座り込んだ。
「…………あ、あれ……? アリスは……」
そして、彼女は正気に戻ったようだ。あるいは、天童アリスの意識が、
「ふぅ。とりあえず終わったね。とりあえず、先輩連れてくるから、ここのことはお願い。」
和泉元エイミが、悲惨なことになっている現場を改めて確認してため息をつき、そう言って離れていった。
こちらはこちらで、状況の確認を進めておこう。
――
「みんな、大丈夫!?」
戦闘が終わったことを確認した早瀬ユウカが全員に呼びかける。戦闘中は無事を確認できなかった者が何人かいたが……
「う、うげぇ…… ユウカー私、これ大丈夫? 腕もげてない……?」
うずくまっていた小塗マキがよろよろと立ち上がった。
「ちゃんとついてるわよ。でも、腕を痛めたなら診てもらいなさい。……まあ、ヴェリタスは大丈夫そうね」
早瀬ユウカが、小塗マキの腕を触ると、少し痛むのか顔を顰めた。
「ありがとうございます! メイドさん……ん? あなた、どこかで会った様な気がしますね」
危ないところを飛鳥馬トキに助けられた黒崎コユキが、彼女にお礼を言いつつ、その姿に何かを思い出すかのように首を傾げた。
「というか、トキじゃない。前の時も聞こうと思ってたけど、学校で姿を見せないから、気になってたのよ。C&Cに入ってたの?」
「! ……私の事、気づかれていたんですか?」
「え、当たり前でしょ。私、
一方、早瀬ユウカは彼女のことを知っていたようだ。同級生、というからには2年生なのだろうか。しかし、その質問をすることはかなわなかった。
「先生! ユウカ! お姉ちゃんが」
そこに、才羽ミドリの声が飛び込んできたからだ。そちらの方向を見ると、姿が見えていなかった才羽モモイが、瓦礫の間で倒れているのが見えた。才羽ミドリが駆け寄り、彼女を揺すっているようだった。
花岡ユズも泣きそうな表情で様子を見ている。
「う、うーん……あ、あれ?」
一瞬、緊張が走るが、才羽モモイのまるで眠っていたかのような能天気な声が聞こえた。
「お姉ちゃん!?」
「あ、あれ~、何だっけ? 確か、クルミさんに
才羽モモイはそう言って頭を掻いた。驚いて気絶したか、あるいは軽い脳震盪でも起こしていたのだろうか。ともかく無事ではあるようだ。
「いや、私が突き飛ばさなかったらあんたそのデカい瓦礫が直撃してたのよ? まあ、本当はもうちょっと優しくしてあげたかったんだけど、状況が許さなかったのよ。」
「えぇっ!!? な、何かそんな気もしてきたかも!? あ、ありがとう~~!! 多分びっくりして気絶しちゃったんだと思う!」
そして、感動したように叫ぶ。相変わらず、感情表現が目まぐるしい生徒だ。そして、彼女ははたと動きを止め、何かを探すように顔を動かし、一点で止まった。その視線の先にいたのは、呆然と座り込む天童アリスだった。
「アリス! 大丈夫? 痛いところとかない!?」
才羽モモイがそう言いながら、彼女に駆け寄った。
「あ……モモイ……」
天童アリスが、それに気づき、泣きそうな表情に変わる
「これ……アリスがやったのでしょうか」
「うん……? どうなんだろ? でもあの変なロボットに操られてただけでしょ? 悪いロボットは皆が退治してくれたから、もう大丈夫だよ!」
本当のところは、まだ調査が必要だろう。それは才羽モモイも勿論分かっているだろうが、彼女は天童アリスを傷つけないように、そう言って笑いかけた。
「まあ、とりあえず皆大きな怪我は無かったみたいだし、良かったんじゃない? 後の処理は学校内でやって頂戴」
高倉クルミが他人事のようにそう言った。その時、まだ一言も言葉を発していない人物がいることに気付く。彼女が守っていることを確認していたため、安否確認が遅れてしまっていた。
「そういえば、クルミさん。テマさんは大丈夫ですか」
「え? うん、弾が当たったとか、瓦礫がぶつかったとかは無いはずだから怪我はしてないと思うけど……テマ、もう大丈夫よ。……テマ?」
近づくと、テマは、高倉クルミの後ろに座っているように見えた。しかしよく見ると、明らかに様子がおかしかった。
体を震わせ、何かを呟きながら瓦礫の方を見ている。
「テマ、どうしたの?」
私と同様に、その様子に気付いた高倉クルミがテマの肩に手を置いた。その途端
「あ……ああ……ああああああああああぁぁぁぁ!!!!!???」
テマが叫び、先ほどの攻撃で崩れた大きな瓦礫を持ち上げようとした。
当然、彼女の力では建物の一部であるそれは微動だにしない。
「ちょ、ちょっとテマ!? どうしたの!? 何か踏まれちゃったの!?」
「嫌だ、いやだ、イヤだ!! あぁ、どうしてですかぁ!!? 何で何でなんで!?」
叫びながら、彼女は過呼吸状態に陥っているようで、荒い呼吸をしていた。それは明らかに、何かしらのPTSDによる発作を起こしているように見えた。
「何もないから。危ないからやめなさい、テマ!」
「嫌だ! 嫌だぁっ!! あねさま! あねさまぁ……」
高倉クルミがテマの体を抱え込むようにして、瓦礫から手を離させる。テマの指先には血が滲んでいた。
気付けば、その場にいた生徒たちは全員、テマと高倉クルミの方を見ていた。殆どの生徒たちは心配そうに。そして、中でも天童アリスは、さきほど才羽モモイと話していたときよりも顔を青ざめさせて、2人の様子をじっと見つめていた。
そこに、車椅子の音がした。
瓦礫などの破片が転がる中をスムーズに移動する高性能の車椅子は、2人の近くへと自然に近づいていった乗っていたのは勿論、明星ヒマリだ。和泉元エイミが呼んできたために、急いで向かってきてくれたのだろう。
「大丈夫ですよ、テマさん。瓦礫はすぐに撤去できますし、誰がいてもすぐに助けられます。ミレニアムの技術は凄いですから、みんな、無事ですよ。だから、大丈夫です。」
彼女はそう言って、テマの背中を撫でた。過呼吸を起こしながら泣き叫んでいたテマが、彼女の落ち着いたその言葉と仕草に、徐々に落ち着いていく。
そして、その内、泣き疲れたように眠りに落ちた。元々寝不足だったことも影響しているのかもしれないが。
「……さて、先生。本来であればすぐにでも色々とお話したいところではありますが、今日のところは一度解散といたしませんか? テマさんをこの状態で起こしてしまうのは忍びないですし、お互い、色々と考えることがあるでしょう?」
「……ありがとうございます。そうですね、このまま帰るのは心苦しいところではありますが、一度帰ることにしましょう。」
明星ヒマリのその提案はありがたい物だった。今のテマの反応もそうだが、色々と考えたいことが多かった。その中には勿論天童アリスのこともあったが。
時間的猶予はあまりないかもしれないが、今日のところはいったん帰った方が良いように思えた。
「何かあったら、すぐに連絡をお願いします。それと、ユウカさん」
帰る前に一言だけ、早瀬ユウカに伝えたいことがあった。
「は、はい」
「思ったより早くなってしまいましたが、先ほど言った通り、アリスさんの事、よろしくお願いします」
「! はい、勿論です」
彼女の返事は確かに信頼できるものだった。きっと、わざわざ言う必要もなかっただろう。
そして、私と高倉クルミは、眠っているテマを連れて、シャーレへと戻ったのだった。
シャーレに到着したころ、エンジニア部の白石ウタハから、瓦礫の撤去が終わったことと、やはり下敷きになったような物は特になかったという連絡があった。私はそれに、感謝の言葉を返した。