ミレニアムの校舎前、事前にやることがあったため、私だけが先にミレニアムに到着していた。
高倉クルミとテマの二人が無事到着したことを確認し、中に入ると、才羽モモイが待ち構えていた。
「あ、来たー! おはよう! 待ってたよ!」
才羽モモイの様子はいつも通りだ。昨日のように口ごもることも無く、元気な様子を見せている。
「じゃあ、早速部室に行こう!」
「アリスちゃんはいるんですかぁ?」
「うーん? さっき覗いた時はいなかったよ。多分、ユウカとご飯食べてるのかな? モモトークでそう言ってたよ。どうにか閉じこもりから立ち直れたならいいけど……」
テマの質問に、才羽モモイが答えた。どうやら、先に部室で待ち構えて、不意打ちのように合わせる作戦らしい。
「あ、でもユズはいるよ。昨日はユズとユウカと3人一緒だったみたいだけど、部室のお片付けをしてくれてるんだ」
そう説明するのを聞きながら、部室棟にある、ゲーム開発部までたどり着く。彼女の妹である才羽ミドリも部室の前に到着しているところだった。
二日前の事件により損壊した場所は、既に修復が終わっているようだ。流石はミレニアム、と言ったところである。
「あ、おはようございます。先生。それから、テマちゃんとクルミさんも」
才羽ミドリが礼儀よくお辞儀をして、部室の扉を開ける。
中では、花岡ユズが一人で画面に向かっていた。
「おお。 ユズがゲームしてる」
「いつものことでしょ、お姉ちゃん」
才羽姉妹が何か言っているが、部室は確かに前に訪れた時よりは片付いているようで、ずっとゲームをしていた訳では無く、実際に彼女は片づけをして、その後ゲームを起動したのだろう。
「凄い集中力ね、本当に。SRTに欲しいくらいだわ」
「背後に手前達がいるのに気づかないのは良いんですかぁ?」
「うーん、それもそうね」
2人が話しているとおり、花岡ユズは、我々が部室に入ってきたことに一切気付いていないようだった。
「ユズ! 先生たち来たよ!」
「ひゃあ!? あ、え、えっと、いらっしゃい。先生、テマちゃん……クルミさんも……」
才羽モモイが彼女の肩をたたき、ようやく私たちに気付いたようだ。
「っていうか、なんでTSCやってるの? しかも2じゃなくて1」
「えーと……アリスちゃんと話してたらやりたくなって、えへへ」
花岡ユズはそう言ってコントローラーを手放した。画面はエンディングを映している。才羽モモイの話口調からして大して時間はかかっていないと思ったが、そのわずかな時間でクリアしてし
まったらしい。
「……テ、テマちゃんもやってみる……?」
花岡ユズがテマに尋ねる。
「え、良いんですかぁ!?」
テマは喜んでいるが、一言、彼女に何かを言っておく必要がある気がした。
「とりあえず、クルミさんと協力してやってみるのはいかがでしょうか」
しかし、口から出たのは、巻き込む相手を増やす方向の提案だった。
──
それから、たった数分で、ゲーム開発部の部室は
「なんなんですかぁ! これは!!?」
「いちいちこっちの行動を予測してあざ笑うのやめなさいよ!?」
主にゲーム内容に怒り心頭の二人と、
「アハハハ!! 見事に全部引っかかるじゃん二人とも、最高だね!」
「ちょっと、笑いすぎでしょ、お姉ちゃん」
笑い転げている才羽モモイと、それを嗜めているものの、口元が緩んでいる才羽ミドリ
「ご……ごめんね……?」
そして、花岡ユズはおろおろとしていた。
兎も角、天童アリスが初めてプレイしていた時とはずいぶんと様相を異にする状態となった。
そして二人や部員たちは、自分たちが何を待っているのか、半ば忘れていはしないだろうか。そう思い始めた時、部室の扉が開いた。
「くたばれぇぇ!!?」
「ひぃっ!?」
そしてそれはタイミング悪く、テマの怒りの声が響いた丁度その時でもあった。もっとも、
「ちょっ、ちょっと、どういう状況!?」
「わわっ、喧嘩ですか!?」
早瀬ユウカと黒崎コユキが慌てて部室に入ってくる。3人で一緒にいたのか、最初に聞こえた悲鳴は天童アリスのものだったようだ。彼女は入れ替わるように早瀬ユウカの後ろに隠れてしまった。
「や、や、やっぱりものすごく怒ってます!?」
「あ……アリスちゃん!? ご、誤解ですよぉ!?」
図らずも怒号を聞かせてしまったテマが動揺している。
「もう。折角ちゃんと話せるって聞いて戻ってきたのに、何でゲームやってるのよ……」
「そう! 手前はこの
そして、早瀬ユウカの呆れた言葉を拾って、テマはコントローラを放って弁解をした。弁解というより、真実その通りなのだが。
「く、クソゲー……」
「ああ、ユズが!?」
花岡ユズが大きく肩を落とし、才羽モモイが彼女の体を支えて叫んだ。
「ちょっとテマ、失礼よ」
「じゃあ、クルミちゃんはこのゲームどう思うんですかぁ!?」
「うーん……SRTの備品に良いかもしれないわね。ほら、
「ご、拷問……」
「ユズ、ユズぅ────!!?」
花岡ユズに致命傷を与えた高倉クルミが慌てて口を噤む。
「クソゲー……」
天童アリスが小さく呟いた。テマがはっとする。天童アリスがこの作品で感動した、という話を聞いていたからだろう。
「アリスちゃん!? い、今のは言葉の綾でですねぇ」
「いえ、アリスもTSCはクソゲーだと思います。でも、嬉しいです」
「え……?」
天童アリスにまで追い討ちをかけられ花岡ユズが微動だにしなくなったが、その様子を気にすることなく、テマは天童アリスの方を見る。
「アリスの大好きなゲームを、テマがプレイしているのが、とても嬉しいです。それと……ごめんなさい、テマ。アリスは…… テマを、新しいお友達を、仲間を悲しませてしまいました」
「……」
天童アリスが謝罪の言葉を口にすると、テマはそれを受け入れるように黙って彼女の方を見た。
「……もう、
天童アリスのその言葉を聞いたテマが、顔を顰めさせる。天童アリスの表情に不安が現れたが、彼女はただ、テマの言葉を待った。
「手前が誰とお友達かなんて、手前様が決めることではないですよぉ?」
「……はい、その通りです」
テマの返事に、天童アリスが俯く。
「分かったら、今日も一緒に遊びましょぉ? アリスちゃんは手前のお友達ですから」
そんな彼女に、テマは意地の悪い笑みを浮かべてそう言って、ぎこちない仕草で俯いている天童アリスの手を握った。
──
「じゃあ、一件落着ってことで良いよね!?」
才羽モモイが、満面の笑みでそうまとめた。部屋の片隅で倒れ込んでいた花岡ユズも、よろよろと身体を起こした。才羽ミドリは「何でお姉ちゃんが締めているんだろう」と言いたげな表情で姉の方をみている。
「にはは、めでたしめでたし、ですねー」
「まあ、そうね。びっくりしたけど、あなたたちらしい形で終えられたみたいね。良かったじゃない」
黒崎コユキと早瀬ユウカがほっとした表情でそれらの様子を眺めて話す。
「じゃ、じゃあ、テマ、クルミ! 一緒に、TSCをやりますか?」
「え!? い、いやぁ……今日のところは学校案内の続きをしてほしいと言いますかぁ……」
「そ、そうね! 先にそっちをするのはどう?」
天童アリスの提案に、慌てて二人は別の提案をした。
「そうね。とりあえず、この人数だと個々の部室は狭いし、一旦外に出ましょう?」
早瀬ユウカがそれを取りまとめるように言い、一同揃って、部室の外へと出た。
──
「じゃあ、学校案内のやり直しだね、しゅっぱーつ!」
部室の前で、才羽モモイが両手を上げて叫ぶ。他の者たちも頷き、移動を始めようとした丁度その時、廊下の先で、制止する言葉が響いた。
「待ちなさい。それは認められないわ」
いきなり水を差されたゲーム開発部の生徒たちが一斉に声のする方を向いた。
「か、会長!?」
声の主が誰なのか、最も早く気付いた早瀬ユウカが叫ぶ。
「天童アリス。あなたには私と一緒にきてもらうわ」
調月リオが、感情の見えない表情で、天童アリスの方を見据えて、そう言った。