「リオ会長!? 久しぶりに姿を現したらと思ったら、突然何を言い出すんですか!?」
突然現れて天童アリスを連れていくと宣言した調月リオに、早瀬ユウカが尋ねる。天童アリスを後ろに庇うように、さりげなく前へと進んでいた。
「ユウカ…… 久しぶりね。確かに突然こんなことを話すことになってしまったのは残念だわ。でも、これは必要な事なの」
「そうやって、自分の中で情報を完結させて、結論だけ話すのは相変わらずですね。何がどう必要なのか、それではさっぱり分かりません。あなたはアリスに、一体何をするつもりなんですか?」
早瀬ユウカが、「自分では及ばない人」と言っていた調月リオに対し、一歩も引かず抗議していた。
ゲーム開発部の生徒たちは、突然現れた生徒会長と、何が起こっているのかよく理解できていないまま『
テマは全く何が起こっているのか掴めていない状況で、高倉クルミはその様子の彼女を庇うように手を引き、様子を見守っている。
そして、渦中の張本人である天童アリスは、ただじっと、調月リオの方を見ていた。まるで、彼女が何を言い出すのかを図る様な様子だ。
「……ユウカは既に、その子がどういった子なのかの説明は受けていると思うのだけれど」
「それは……私や先生が知っていれば良い、という話ではありませんよね? リオ会長の口で、きちんと説明してください。アリスのことについては、私が責任者なのですから」
予想通り、あるいは期待通り、早瀬ユウカは調月リオに対し一歩も引くことなく、再度説明を要求した。調月リオは小さくため息を吐いた。
「……そうね。そういうことであれば、説明するわ。ここの子達にも、『アリス』と名乗るその子が、一体何者なのかを」
そして、調月リオは、早瀬ユウカの要求通りに説明を始める。
「あなたたちも重々承知の上だと思うけれど、その子は普通の生徒ではない。ミレニアムの正式な生徒ではない、という意味ではなく。未知からの侵略者『Divi:Sion』の指揮官であり……『名もなき神々』を信仰する無名の司祭に崇拝されたオーパーツ、『名もなき神々の王女 AL-1S』なのよ」
彼女はそれだけ言うと、これで終わった、とでもいうように口を閉じた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!? いきなりそんなこと言われても全然意味が分からないよ!?」
そしてそれに返したのは、既に話を聞いていた早瀬ユウカではなく、才羽モモイだった。
「そ、そうですよ! そんな意味不明な設定を一方的に言い出さないでください!」
才羽ミドリも、姉に同調する。しかし一方で、花岡ユズは早瀬ユウカの方を見ていた。
「ユウカ……リオ会長が言っている事、本当なの? わ、私も全然言っていることは分からないけど……」
彼女は調月リオではなく、早瀬ユウカに問いかける。
「ユズ……それは……」
早瀬ユウカはその問いに咄嗟に応えることが出来なかった。
「……そうね。配慮が足りなかったわ。あなたたちゲーム開発部にもわかるように例えてあげるわ。つまり、アリス、あなたはゲームで言うところの――」
調月リオが何かを言おうとしたとき、それを遮るように天童アリスが口を開いた。
「『
「え?」
それは、明らかに異質な発言であった。調月リオにとっても、早瀬ユウカにとっても、そして恐らく、ゲーム開発部の生徒にとっても。
「おい、リオ。もういい加減良いだろ? どうせ誰も納得しやしねぇよ。さっさと終わらせちまおうぜ、こんな
誰も天童アリスの発言の意図を聞き返せないまま、そこに新たな人物が現れた。メイド服を着たその人物とは、面識があった。
「あん? おお、先生か。随分久しぶりだな。んじゃ、悪いけどそこのチビは預かっていくぜ」
「……見たところ、あなたの方が低身長なのではないかしら? ネル」
「うるせぇ!? つまんねぇ依頼されてイライラしてんだ! さっさと終わらせるぞ」
調月リオの場違いな指摘に怒りをぶつけながら、不意打ちでC&Cのリーダー、コールサインダブルオーの美甘ネルが、早瀬ユウカの背後にいた天童アリスへと一足飛びで向かってきた。
彼女のその行動に咄嗟に対応できる生徒は、この場のミレニアム生には誰もいなかった。勿論私も不可能だ。
「今、話中だったでしょ。ちょっと待ちなさいよ」
「……あん? 誰だオマエ?」
今まで黙って状況を見守っていた高倉クルミが美甘ネルをブロックしていた。
「SRT特殊学園、FOX小隊の高倉クルミよ。今日ここにいたのは偶々だけど、目の前の理不尽は見逃せないわ。」
「そうかよ。じゃ、やってみな」
美甘ネルが一歩下がって、銃を構えた。どうやら本気でこの場所で戦いをするつもりのようだ。
「ちょっと、ネル先輩本気ですか!? アリスはミレニアムのゲストなんですよ!? こんな横暴は許されません!」
「関係ねぇよ。そういう指示だからな、イヤならお前もアタシを止めてみな」
「言われなくても! って、きゃっ!?」
早瀬ユウカが割って入ろうとするが、流石に戦闘能力が違い過ぎるのか、動く前に突き飛ばされてしまい、壁にぶつかって倒れ込んだ。
再度美甘ネルが天童アリスの方へと近づき、高倉クルミが足止めする。その後、何か近接格闘のようなことを二人は始める。
どちらが優勢か、ということは私にはわからなかった。
「ふーん…… 連邦生徒会直属の精鋭部隊がどんなもんかと思ってたけど、なかなかやるじゃねーか」
しかし、高倉クルミにどうにか弾かれて一歩後ろに下がった美甘ネルにはまだ表情に余裕があった。
「そっちこそ、何者なのよ!? ミレニアムのメイド部隊、聞いた事あるけど、1年生でこんなに強いっての?」
「はぁ!? 誰が一年生だって!? ブチコロされてぇのかぁ!?」
「えぇ……キレすぎでしょ……」
高倉クルミは美甘ネルへの挑発が上手く行き過ぎたことに引きながら、一瞬だけこちらを見た。
「! アリスさん! 行きましょう!」
固まっていた天童アリスの手を取る。
「……」
天童アリスが黙って、こちらを見た。何か言いたいことがあるのか、それとも。
「アリスをよろしくお願いします! 私もクルミさんに協力すれば時間稼ぎくらいは! 」
「うん! とりあえず、2人は逃げちゃって! 多分、シャーレに行くんだよね!?」
起き上がった早瀬ユウカと、才羽モモイが戦闘に加わる。私と天童アリスをこの場は逃がす、ということで意思の疎通が取れたらしい。
テマが不安そうな顔をしていたが、振り切って、黙ったままの天童アリスを引っ張りながら調月リオがいる側の反対方向。非常階段の方へと進む。
「あ、おい! 逃げんな!?」
美甘ネルが追いかけてこようとするが、高倉クルミは防衛性能が高い。単純な戦闘力で勝てなかったとしても、すぐに突破できるような様子は無い。
そして私たちは、非常口から外に出ることに成功した。
――
「こちらです」
ミレニアムの外、D.U.へと繋がる駅ではなく、
後部座席の扉を開けると、
つまるところ、私と調月リオは、今回の件に関して、協力関係にあったのだ。
部室の近くに調月リオが現れる前も、そして今も、私の耳には、調月リオの声や、彼女の周囲の音が聞こえて来ていた。