黒服がシャーレの先生になった世界線   作:黒服先生

229 / 229
車中での会話

 停止した車内で、私が二の句を継げられずにいると、ケイは面白い物を見た、というような表情で笑った。

 

「さあ、もっとお話ししましょう。漸く巡ってきたチャンスなのですから」

 

 そして、それについて説明することはせず、私の話を促した。私は視線を前に戻し、車を発進させつつ、話を再開させることにした。

 

「……そうですね。では、別の話を、ケイさん。そうですね、アリスさんは今、どうされているのですか? アリスさんは少なくとも、アリスさんの存在を認知してはいるのでしょうが」

 

 そうでなければ、『()()()()()()()()()()()()()』などと天童アリスが断言するはずは無かった。

 

「アリスとは、昨夜話しました。一昨日初めて接触してから、ずっとユウカやユズと一緒にいたのでなかなか話す機会が無かったのですが。夜、皆が寝静まった後に二人きりで話しました。別に口頭で話をしたわけではないので、聞かれる心配があったわけではないんですけどね」

 

「つまり、その二人に気を遣ったということですか」

 

「……別にそうは言ってないじゃないですか」

 

 そう言った時、一瞬言葉に詰まっていた彼女は天童アリスと同様に非常に人間らしい様子だった。

 

「もう、話を続けますね? 今、私がこうやって表に出ているのは、アリスがそれを許可してくれているからです。アリスは今この身体の中で眠っていて……、別に、話を聞いても良いとは言ったのですが……その、アリスも気を遣ってくれたみたいです」

 

 どういったことに対して、というのは聞かない方が良いのだろう。

 

「ちなみに、その確認はいつ行われたのですか? ゲーム開発部の部室を出た時には、恐らくアリスさんだったのだと思いますが。」

 

「リオが私たちの前に現れた時からです。とりあえず静観するつもりだったんですが、つい割って入ってしまいました。」

 

「それは、リオさんの為を思っての事ですか」

 

 私がそう尋ねても、返事は無かった。バックミラーを確認すると、こちらを睨んでいる彼女の姿が映っていた。どうやらこの質問も誤りだったらしい。

 

「……話は変わりますが、一昨日の出来事に関しても、ケイさんの意志だった、ということで良いのですか。」

 

「はい」

 

 この質問に対しては、彼女は即答した。

 

「一応、大きな怪我はしないように気を付けていたのですが、マキと、それからあの子には悪いことをしてしまいましたね。久しぶりに体を動かしたので加減が難しかったのと、それから、あの子のことは……」

 

「……テマさんの件については、事故だったと思うしかないでしょう。マキさんについては、後から正式に謝った方が良いと思いますが。それはそれとして、あれらの機械がケイさんの制御下にあるのであれば、基本的には問題ありません」

 

 一番の問題は、あの現象が天童アリスの影響によるものでも、ケイの影響によるものでもない場合だった。何かしらの思惑があったとしても、彼女の意志でやったのであれば、最悪とは言えないだろう。

 

「ですが、何故()()()()()()()をしたのですか?」

 

「……もし、あなたが何も気づいていなくても、リオに危機感をもってもらうこと、それとあなたと接触するためです。あの時の私は、アリスとの交渉がうまく行く保証もありませんでしたし……保険が欲しかったんです、どうしても。だから、その、つまり…………ごめんなさい、全く冷静ではありませんでした。もっとうまいやり方があったはずなのに……」

 

 ケイは、最後まで説明すると、声を落として私に謝った。

 

「少なくとも、私に謝罪することはありません。一つ言えるとすると、長年待ち続けて来たチャンスが目の前に現れた時、人は冷静でいられないものです」

 

 そういった心の動きを、かつては私も利用してきたものだ。

 

「……何か含みのある発言ですね。でも、励ましてくれてありがとうございます。……そういえば、あの子のこと、テマ、と呼ばれているんですね。どうして今のあなたたちと一緒にいるのかもよく分かりませんが」

 

 彼女は溜息をついたあと礼を言い、その後、思っていなかった言及をした。しかし、彼女が以前の私のことを知っているのであれば、その過程で、テマのことも知っている可能性も確かに無くは無いことだった。

 

「彼女と知り合いだったのですか?」

 

「そうですね。 諸事情によりあまり仲が良好であったとは言い難いですが……そもそも、何故あの子はテマと呼ばれているのですか?」

 

 その辺りの事情について、彼女は知っているわけではないようだった。

 

「それは、彼女が記憶を失っていたからです。自分の名前すらも。それ故に現状はシャーレで保護しています」

 

「なるほど。まあ、あの子にとっては、その方が良かったのかもしれませんが……」

 

「それは、どういう?」

 

 意味深なことを言うケイに尋ねると、彼女は少しの間黙っていたが、

 

「そのあたりのことについては、私からは言わない方が良い気がします。ですが、これは教えておきますね。あの子の本当の名前は()()()()()、と言います。これをあの子に伝えるかどうかは、あなたにお任せしますね」

 

 と、詳細は伏せて、代わりに名前だけを教えてくれた。

 

「箭吹シュロ……なるほど。ありがとうございます。こちらで調べてみるのにも使えそうです」

 

 思わぬところから重要な情報を得ることが出来た。シュロ……テマ本人にそのことを伝える前に、天地ニヤに情報を共有し、調査を進めてもらうこととするべきだろうか。

 

――

 

 ケイと話している内に、車は目的地の近くまで到着していた。

 

「さて、ケイさんの方から、何か私に聞いておきたいことはありますか?」

「そんなの、たくさんあります!」

 

 私が尋ねると、彼女は即答した。

 

「沢山、ですか」

「そうです。本当に、たくさんあるんです。例えば、今のあなたはどんなことを研究しているのですか、とか、どういった趣味があるのですか、とか」

 

 彼女は怒っているような、焦っているような口調で捲し立てる。その勢いに押された。

 

「……それが聞きたいというなら、お答えしますが」

「それだけじゃないんです! アリスが加わったとかいう預言者同盟とかいうのも気になりますし、あなたが……ここに来てからのこと、全部、全部知りたいんです」

 

 一つ分かるのは、彼女は本気で、必死である、ということだ。

 

「……ですが、今は、もう良いです。もうすぐあの場所に着いてしまいますし、一つ聞くと幾つも聞きたくなってしまいますから。また、次の機会に取っておきます」

 

 彼女は、しかしそう言って、満足そうに話を終わらせた。

 

「……よろしいのですか?」

「はい。 ……あ」

 

 私が確認すると、彼女はすぐに肯定した後、何かを思い出したかのように一言漏らした。

 

「何かありましたか?」

「い、いえ! ……やっぱり、一つだけ、良いですか?」

 

 先ほど自分の言った事を翻すことを後ろめたがっているようで、弱弱しく彼女は尋ねる。

 

「もちろんです」

「……先ほどの『預言者同盟』の話なのですが、そのメンバーに()()()()()がいる、というのは本当ですか?」

 

 聞かれた内容は、予想した内容のどれとも異なっていた。

 

「ええ、本当です。次の会合の際には是非ケイさんのことも紹介したいところですが……」

 

「ま、まあそれは機会があれば…… って、そうじゃなくて、やっぱりいるんですね!? どうしてですか!? アリスに聞いても、要領を得なかったんです!」

 

そして、彼女がこの剣幕になる意味もよく分からなかった。何か嫌な予感を抱えながら、しかし何でも聞いて良いと言った手前、正直に答えるしか選択肢は無かった。

 

「そうですね……つまり、ケイさんと似たようなことです。彼女も、私のことを覚えていたのです。恐らくは、ケイさんの知っている別の私に近い人物のことだと思いますが……」

 

「……はぁぁぁ」

 

私が答えると、ケイは大きなため息を吐いた。そして、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

と、何故か恨みがましいようにそう言った。そして私はそれに答えることは出来ず、ただ

 

「……さて、ここですね。目的地に着きましたよ」

 

と、話を変えるしかなかった。

 

「……そうですね。あまり、いい思い出ばかりではありませんが」

 

 ケイも気を取り直したようで、窓の外を見上げてそう言った。

 

 彼女がここにどのような思い出があるのかは知らなかったが、恐らく何かしらの縁がある場所

だったのだろう。

 

 我々は調月リオが密かに建築していた要塞都市、『()()()()』へと到着した

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア(作者:マスターBT)(原作:ブルーアーカイブ)

 枝分かれの先まで見る事が出来る目を持つゲマトリアが、ただ眺める事にも飽きて『物語』を経験しようと、新たな世界のキヴォトスへと降り立ち、初めて出会ったアル社長との出会いを皮切りに、便利屋68の面々と青春を謳歌するお話。


総合評価:10851/評価:8.84/連載:145話/更新日時:2026年07月31日(金) 20:09 小説情報

転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする(作者:popoponpon)(原作:ブルーアーカイブ)

いろんな娯楽はあるけど前世の娯楽もこの世界で楽しみたい!ということでTS転生したけど諦めずに自分の好きなものを作っては皆で遊んだり、本編に絡んだりしてくる女の子、夢見モルフォのお話。


総合評価:14410/評価:8.8/連載:243話/更新日時:2026年08月10日(月) 12:00 小説情報

桃色の軌跡(作者:逆襲)(原作:ブルーアーカイブ)

カービィたちが、ひょんなことからキヴォトスへとやってきます。▼キヴォトスで起きる様々な現象。カービィたちは元の世界に戻れるのでしょうか。▼星のカービィ×ブルーアーカイブのクロスオーバー作品です。▼時系列として▼・カービィ側はWiiDx後(ディスカバリーやWiiDx後の番外編も含む)▼・ブルアカ側はアビドス編3章後(イベストなどの情報は時系列関係なく使用します…


総合評価:1675/評価:8.7/連載:82話/更新日時:2026年08月03日(月) 16:00 小説情報

デカグラマトンです、連邦生徒会対策室長をやってます(作者:十文字マトン)(原作:ブルーアーカイブ)

神秘と恐怖と共存してる時ようやく崇高を観測できる▼つまりかっこいいロボの事!?▼本来無意味なお話が自ら「崇高」の境地へ▼つまりかっこいいロボの事よね!!!???▼なのでのんびり預言者を作るぞーーーと思ったら何故か連邦生徒会所属になった、どうして?▼原作に沿ったり沿わなかったり、百合百合してるロリデカグラマトンのお話。▼★メインストーリーネタバレあります▼メイ…


総合評価:8337/評価:8.28/完結:222話/更新日時:2026年04月24日(金) 07:00 小説情報

降格回避√カイザーの野望(作者:ハヤモ)(原作:ブルーアーカイブ)

ある意味で生まれ変わった悪徳大企業の理事が、知ってるようで知らない学園都市で、降格されないよう足掻いたり女の子とイチャつきたくて戦犯顔になる話。▼キャラ崩壊や今更なネタバレが含まれます。▼注:作者は素人なので生暖かい目でお読み下さい。他作者様の書き方等を参考に進めますが、解釈違いもあります。場合により削除します。ご了承下さい。


総合評価:1842/評価:8.38/連載:32話/更新日時:2026年06月08日(月) 17:15 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>