「……何で誰もこいつらに連絡してないんだ?」
騒いでいるゲーム開発部の様子を見て、美甘ネルが呆れたように呟いた。
確かにその通りで、返す言葉もない。彼女たちに対し、秘密裡で天童アリスをエリドゥに連れてくる、ということが頭があり、その結果問題ないと分かったタイミングで、すぐにでも連絡はするべきだった。
「申し訳ありません。すぐに連絡しましょう……」
そういって、モモトークを開こうと端末を取りだす。
「……ちょっと待ってください、先生」
それをケイに引き留められた。
「何か問題が?」
「いえ、その……うーん……」
言い淀む彼女は目を閉じる。それをする必要があるのかは不明だが、恐らく天童アリスと相談しているのだろう。
「……こういうのはどうでしょう。えーと『悪い大人の罠に嵌り、囚われの勇者(姫)となったアリスを、ゲーム開発部が助けに来るクエスト』で……す……や、やっぱり無しで」
そして、相談の結果出力された謎の文言を、彼女は自ら翻そうとした。
「何だそりゃ、ゲームの話か?」
しかし、声に出してしまった以上、ここにいる全員が、すでにそれを聞いてしまっている。
「ふむ。ケイ、何がやりたいって? 出来る限りのことは協力するよ」
「成程。ゲームをしよう、ということですね? 私たちが仕掛け人になって、ゲーム開発部の子達に、クリアしてもらおうと。……面白そうですね♪」
そして、妙に乗り気な白石ウタハと、察しの良い明星ヒマリが、すでにやる気になり始めている。
「つまり、以前あなた達を試すためにコユキの狂言誘拐を行ったのと、同じことをやるつもり、ということかしら。あなたはどうしてそのようなことがしたいの?」
調月リオがケイに尋ねる。
「それは……い、一応皆に経験値を積んで欲しい、とか! 後は単純に、アリスから聞いた話が楽しそうだったから、とかがあるんですけど、で、でも、本当に大丈夫です! ほら、本気でやりすぎると危険ですし、大事になりすぎると先生も困りますよね!?」
何故か一人反対側に回っているケイが、こちらをすがるような目で見た。自分の案に自信が無いのだろうか。
「そうですね……いえ、
「それは良いアイデアですね♪ 今日、2人でお出かけしているエイミとトキにも協力してもらいましょうか。あの二人に聞いて全部バレてしまっては面白くないでしょう?」
「何で二人ともそんなに乗り気なんですか!?」
私と明星ヒマリが協力者を増やす方向で話を進め始めると、ケイが叫んだ。
「ケイさんが本心からやりたくないと思っているのであればやめますが」
私はそれに答える。明星ヒマリも頷き、他の全員の視線が、ケイに集中した。
「……や、やりますよ! もう知りませんからね!? 『ここにいる、皆共犯』ですから、覚えておいてくださいね!! 当然、アリスもですよ!?」
ケイは明らかにやぶれかぶれになって再び叫び、目を閉じる。
「はい、もちろんです! 囚われていたはずの勇者が、ボスとしてパーティーの前に立ちはだかります。その正体は…… 今日のアリスは、『
そして、とても悪巧みをしているようには見えない明るい笑顔で、天童アリスはそう宣言した。
──
『よくわかんないんだけど、つまり、先生もあの子、アリスも無事ってことね?』
天童アリスの宣言の後、私はすぐ高倉クルミに、他人に聞かれない場所に移動するよう頼んだうえで、電話連絡を行っていた。
「ええ、その通りです。それで、協力していただけますか?」
『いやそれが分かんないんだけど、何すれば良いワケ?』
「そうですね……とりあえず、これがゲームであると認識して、後は楽しんでもらえば良いのでは無いでしょうか。テマさんや、ゲーム開発部の生徒たちが無茶をしそうになったら……いえ、多少無茶はしても良いと思いますが、怪我をしそうになったら助けてあげて欲しいのです」
ケイが言った、『
『はあ。つまり、そのまま護衛やっとけってことね? だったらまあ、良いわよ。でも、もっと早く連絡できなかったの!? ゲーム開発部の子たち、みんな大騒ぎよ』
「それについては、申し開きのしようがありません。謝罪します」
『……はぁ、分かったわよ。そういう任務ってことで。私はね。でも、説得しなきゃいけないのはもう一人いるんじゃないの?』
決断の早い彼女らしく、高倉クルミの説得は上手く行ったようだ。そしてもう一人、については言われなくてもわかっていた。
「ええ、ユウカさんにもこの後連絡するつもりです」
『そ。だったら良いけど……あ、ちょっと待って。丁度一人でこっち来たわ』
高倉クルミがそう言って、通話が維持されたまま音が聞こえなくなる。その後に耳に入ってくる音は容易に想像できた。
──
『先生!? 先生ですか? 今どこにいるんですか!? 』
予想通り、早瀬ユウカの混乱した声が耳に届いた。
「ええ、私です。アリスさんと合わせて二人とも無事……というより、何かに巻き込まれた訳ではありません。すみません、ユウカさん。一度落ち着いて、私の話を聞いてくれますか?」
『落ち着いてって言われても…………わ、分かりました。とりあえず聞きます』
私の言葉に従って、彼女は息を整えた。彼女には高倉クルミに説明したよりもやや詳細に、今日の出来事について説明する。ケイの正体には触れずに、天童アリスに存在する別の人格について調査することが目的だった、ということまで明かす。
『また訳の分からない事を……本当に大丈夫なんですよね?』
「ええ、保証します」
『嘘ついてたら泣きますからね? ……ふぅ、それで、妙な悪だくみに協力しろ、ですか』
事情の説明は済ませたが、彼女がこのような話に乗ってくるか、という話は別問題だ。即座に断られる可能性も考えていたが、そうではないようだった。
『……ちょっと、アリスと代わってもらう事、できますか? その別の人格の子でも良いです』
彼女は、天童アリスと話をしたいと言った。2人は今天童アリスの状態で、白石ウタハに何かを話している。
「アリスさん、少し良いですか? ユウカさんが話したいと言っています」
「ユウカですか? アリス、怒られるでしょうか……」
先ほどは魔王になると言っていた彼女も、早瀬ユウカに怒られるのは怖いらしい。とはいえ、抵抗せずに電話を受け取った。
「はい、先生に代わりまして、アリスです……はい、アリスは元気です。リオですか? はい、お話をしました。はい……ごめんなさい、ユウカ」
話している内容は、天童アリスの声から推測することしかできないが、恐らくは私に聞いた事を確認しているのだろう。
「はい、ちょっと待ってください! ……代わりました。初めまして、ケイ、と言います。……え? はい、そうですね、アリスの身体なので、声帯もアリスと同じですから」
そして、途中でケイに切り替わり、通話は続いていた。彼女はこちらにも声が聞こえないように少し場所を移動し、そして暫く何かを話していた後
「……はい、すみません。ありがとうございます。では代わりますね」
再び、電話が私に戻ってきた。表情から察するに、許可は得られたようだ。
『……先生ですか? ちゃんと話してくれたことに免じて、今回だけは私も協力します。命の危険があるわけでもないですし、アリスも、それからケイって子も、色々考えたうえで提案したみたいなので』
予想通り、電話口で、早瀬ユウカからそう伝えられる。
「ありがとうございます」
『その代わり、そこの先輩方は後で全員お説教です、と伝えておいてくださいね』
その言葉に、今まさに悪巧みをしている3年生達を見る。恐らく、早瀬ユウカに頭が上がる人物はこの中にもあまりいないだろう。
「分かりました、伝えておきましょう」
『はい。それで、私は何をすれば良いんですか?』
そう尋ねてきた彼女に、私はいくつかの頼みごとをした。